簡単な理由
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半年後、周りの木々はすっかり秋めいてきた。
秋雨が降る中、頭に編み笠を被る角都は腰に2本の刀を差したまま、細い山道を歩いていた。
雨と木々の匂いに包まれ、角都は向かいの道から歩いてくる男に気付く。
角都と同じく編み笠を被り、灰色の着物を着ていて胸元はだらしなく開けられ、やや猫背になって歩いている。
黙ったまますれ違う2人。
そして、同時に立ち止まった。
最初に口を開いたのは角都だった。
「…50万両の賞金首だな」
「…へえ、いつの間にか値が上がってるじゃねーか。それで? てめー、賞金首かァ? オレの首狙ってるわけ?」
「よく喋るガキだな。首を切り落とす前に、よくまわるその舌から切り落としてやろうか」
「……………」
「……………」
角都は腰に差している赤鞘の刀をつかみ、後ろに投げた。
男は背を向けたままそれを右手でつかみ、素早く左手で柄をつかんで引き抜く。
それに合わせて角都も己の刀を引き抜いた。
同時に振り返った2人の刀が金属音を立ててぶつかり合う。
その両方の口元は笑っていた。
刀が起こす風に、互いの笠が飛ぶ。
素顔が見えても2人は打ち合った。
その様子は、ちゃんばらを楽しむ子供のようにも見えた。
どれくらい続いただろうか。
時を忘れる前に、勝負はついた。
男が尻餅をつき、それを見逃さず角都はその額に刃先を向けた。
しばらく見つめ合う2人。
「オレの勝ちだな、飛段」
ふっと笑った角都は、ようやくその名を呼んだ。
「あーっ、クソッ、やっぱ強ェな、おめーはよォ」
悔しがりながらも、飛段は笑みを見せた。
「……やはり、大人しく家の言いなりになって立派な武士になる、という筋書き通りにはいかなかったか。自らすすんで堕ちるとは…。食い逃げまでやらかしたらしいな」
「簡単な理由だ。もう一度、角都に会いたかった」
「…馬鹿が」
角都はそう言って、刀を鞘におさめた。
「あれ? 殺らねーの? 50万両だぜ?」
「たかが50万両。貴様なら、もっと吊り上がるはずだ」
飛段は差し伸べられた手をつかみ、引っ張り起こされた。
角都は懐から預かっていたペンダントを取り出し、飛段の首にかける。
「その時にこの首をもらう」
「…すぐに、アンタの額に追いついてやるよ」
「フン、程遠い話だ」
「…それじゃあ、それまで元気でな」
飛段は刀を鞘におさめ、角都に背を向けて歩きだした。
どうやら、本当にただ単に会いに来たようだ。
次に会う時は、どれくらいの値段をつけてやってくるのか。
角都も背を向けて歩きだした。
だが、すぐに立ち止まって飛段を追いかけ、その手首をつかむ。
「!」
はっと振り返る飛段の目には、涙が浮かんでいた。
慌てて、つかまれていない右手の甲でそれを拭う。
「オレがこのまま賞金首を逃がすと思うか?」
「…は?」
「獲物を横取りされてはたまらんからな」
そして、やや強引に飛段を自分が進もうとした道に引き戻す。
飛段は困惑したままだ。
「え…、ちょ…、ええ? いいのかァ?」
角都の理由も簡単だった。
誰にも飛段を殺させやしない。
「貴様はオレが殺す。…いいな、飛段」
そこでやっと飛段は笑顔を見せた。
「しょ…、しょうがねーなァ、角都よォ…」
雨はいつの間にかやんでいた。
雨雲もどこかに流れてしまったようだ。
さっそく、角都は次の賞金首を狙おうと懐から人相書を出し、飛段はまた文句を垂れる。
狭い道に、2人は肩を並ばせて旅路を行く。
互いの鞘を、カツン、カツン、とぶつけながら。
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