簡単な理由
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あらかじめ連絡しておいた役人たちが来る前に、盗まれた茶屋の金を取り戻したあと、角都達は茶屋に戻ってきた。
飛段を追いかけてきたという4人組も含めてだ。
それぞれ席に座り、飛段から事情を聞く。
「こいつらはオレの世話人、兼、護衛だ」
自分の向かい側に座る4人に手を差し伸べてひとりずつ紹介する。
「将軍の息子がなんで家出なんか…」
長門の質問に飛段は口を尖らせて答える。
「次期将軍になれって、親父がうるせーからだよ。勝手に好きでもない女と婚約までさせられちまうし…」
「で、この馬鹿、プッツンしやがった」
サソリは指をさして言う。
言葉の上下関係はないようだ。
「旦那、それは死語だぜ、うん」
デイダラは恥ずかしげに言った。
「それで、家出した挙句、サイフをすられてオレに拾われたという流れか…」
角都は腕を組みながら、世間知らずのまま家を飛び出す飛段を目に浮かべた。
「…それで、なんでオレを襲う必要がある?」
それには鬼鮫が答えた。
「元々、飛段を連れ戻してこい、と命を受けたのでね。あなた方を追いかけていたわけですよ。飛段も楽しげでしたので、しばらく放っておきましたが、催促のお達しが来たのがきっかけです」
あれは襲撃ではなく、迎えだったようだ。
「というわけで、帰るぞ、飛段」
立ち上がったイタチは飛段の手首をつかんで引っ張った。
飛段はその手を乱暴に振り払う。
「帰らねえ!」
「ワガママを言うなよ、うん!」
「オレ、今の方が楽しんだ! 仕事手伝わされるけど、角都は親父と違って好きにさせてくれる! 帰ってほしかったら、異国に追い返したおふくろ連れて来い!」
「ムチャを言わないでください」
飛段を取り押さえようとする4人。
飛段は角都に手を伸ばした。
「角都! オレ、おまえと一緒がいい! 角都ゥ!」
角都は思わずその手をとろうとしたが、途中で手を止めた。
この手をつかむということは、将軍を敵に回すことになる。
今の仕事どころか、表の連中にも警戒しながら過ごすことになるだろう。
「角都!!」
「…飛段」
ゆっくりと席から立ち上がった角都は、飛段のその手を優しくつかんだ。
「…家に帰れ」
「…え?」
角都が発した言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
抵抗が止まり、鬼鮫たちも力を緩める。
「…どうし…」
「身分が違う」
簡単な理由だった。
けれど、飛段を納得させるには十分な理由だ。
飛段は角都の顔をじっと見つめ、やがて諦めたように肩を落とした。
「……わかった…」
そう言って、長門達に「世話になったな」と言ってイタチ達より先に店を出た。
イタチ達も逃げないように見張りながらその背中についていこうとする。
「角都、と言ったか。苦労をかけたな」
最後尾のサソリは出て行く前にそう言って、懐から出した金の入った袋を角都の席に放ってから出て行った。
目の前に好きな金があるというのに、角都の中にはこれっぽっちも喜びの感情が湧きあがらない。
「……本当に…、これでよかったのか?」
長門の言葉に、角都は「これでいい」とは答えなかった。
しばらくして角都は立ち上がり、「世話になった」と店から出て行こうとした。
「!」
扉を閉めようとしたとき、そこには飛段の愛刀が立てかけられていた。
その柄には御守りであるはずのペンダントが巻かれている。
それを手に取った角都はふとペンダントヘッドを裏返してみる。
名前の他に、もうひとつ異国語が刻まれていた。
“see you again”
その文字は、もともと刻まれていたものだろうか。
角都にはわからなかったが、置き去りにされた刀とペンダントを見て、飛段の伝えたいことだけはわかる。
「また会おう。…そういうことか?」
もうすぐ夜が明ける。
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