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襲撃を受けたあと、騒ぎを聞きつけてきた長門達は、半壊している一室を見て仰天した。
また喧嘩をおっぱじめたのかと2人を責めたが、角都は納得してもらうまで丁寧に事情を話した。
それから朝日が顔を出すまで、騒ぎの片付けのせいで長門達と角都はゆっくりと睡眠をとっているヒマはなかった。
江戸の朝は早い。
襲撃前に熟睡をきめていた飛段は朝から元気そうだ。
店の着物に着替えて、茶屋の表に椅子を出し始めている。
「おいおい、今日も店やるぞ、店!」
角都含め長門達は店内の席でぐったりしていた。
「元気だな、あいつ…」
疲れがにじみ出ている弥彦の言葉に、角都も同じ言い方で返す。
「たまに、ついていけなくなる…。年かもしれん」
「疲れた角都、初めて見た」
物珍しげに角都を見て小南は小さく呟いた。
客が来るまでまだ時間がある。
それまで、机に伏せて数刻寝ようかと欠伸をしながら思った長門だったが、
「おい、客が来たぜ!」
店の外から聞こえた飛段の言葉に、重い頭を上げる。接客態度が悪いと思われないために、目も大きく見開いた。
「いらっしゃいませ」
飛段につれられて店に入ってきたのは、3人組の男だった。
その服装を見て、客でないことがわかる。
中央に先立つのは橙色の仮面をつけた男に、その後ろについていくのは黒い肌の男と、白い肌の男だ。
双子なのか、肌以外同じ顔をしている。
「マダラのお奉行…」
弥彦が呟くように言い、仮面の男は返す。
「久しぶりだな」
マダラと呼ばれた仮面の男は長門達がいる前の席に座った。
黒い男と白い男は席に座ろうとはせず、マダラの左右に立つ。
飛段は角都の後ろに立ち、奉行所の奴らか、と構える。
「ただ茶を飲みに来たわけではなさそうだな」
長門が言うと、マダラは「察しがいいな」と言ってから呑気に茶を飲んでいる角都を一瞥し、小南に茶を頼んだ。
「黒ゼツと白ゼツも飲むか?」
振り返らず尋ねるマダラに、傍に立つ2人は「いらない」と同時に首を横に振った。
長門と弥彦はマダラが座る席へと移動し、向かい側の席に座った。
小南が茶を持って行き、マダラの目の前に置くと、マダラは懐から帳面を出してここに来た理由を話しだす。
「江戸の町で、また盗人事件があった。前のように…」
「……またかよ…」
うんざりしたように言う弥彦は顔をしかめ、手のひらで目を覆った。
長門も若干悔しげな表情を見せている。
茶を啜る角都の後ろで立ち聞きしていた飛段は声をひそめて隣に立つ小南に尋ねた。
「盗人事件って? ここ、関係あんの?」
簡単に教えていいのかと躊躇いの表情を見せつつ、小南も声をひそめて答える。
「今、江戸で頻繁に起きてる事件よ。私達も2回ほどお金を盗まれてるの。犯人は真っ黒な服で身を包んで、顔を頭巾で隠した輩ってことしかわかってないわ」
思い出す小南は、内心悔しい思いでいっぱいだった。
その事件のせいで、せっかく目的の金額に達しようとしていた金を奪われてしまったのだから。
それも、2回もだ。
やってきた取り立て屋に事情を話しても、「また集めろ」と冷たく言い放たれるだけだった。
(頭巾で…)
その会話を背中で聞きながら角都は、昨夜、襲撃してきた連中も同じ格好をしていたことを思い出す。
あれは金というより、自分達を狙ってきただけのように思えた。
それとも、金を盗むために先に用心棒である自分達を始末したかったのだろうか。
「また来るかもしれないな…」
弥彦の言葉に、長門は頷く。
「ああ。可能性はある」
小南も不安の色を見せた。
マダラはそんな長門達の様子を眺めながら、仮面を少しだけ上げて茶を啜っている。
「……お奉行…」
飲みきった茶を机に置いた角都はマダラに声をかけた。
全員の視線が角都に集まる。
「ひとつだけ、聞いてもいいか?」
なにを考えているのか。
真剣な角都の表情を見、マダラは茶のおかわりを注文した。
その夜の丑三つ時、茶屋に忍び寄る、真っ黒な服で身を包んだ4人組がいた。
慣れた手つきで鍵を開け、扉をそろりと開けて奥へと進む。
薄暗い中、忍び足で客間へ侵入し、部屋の隅にある戸棚を漁り、3段目の戸棚から金の入った袋を取り出した。
下から押さえつけると、金属と金属が擦れ合う音が聞こえる。
4人が顔を見合わせ、出るぞ、という頷きを見せた時だ。
客間の出入口である障子が大きく開かれた。
「!!」
「御用だ!!」
最初に部屋に足を踏み入れたのは提灯を持った弥彦だった。
「やっぱり来たな!」
飛段は刀の柄をつかみ、弥彦の前に出た。
盗人たちは背中合わせになり、全員背中に携えた細長い刀を抜いて足を踏み出して斬りかかってくる。
飛段は振り下ろされた2人分の刀を防ぐ。
「っと! なんだァ? お遊戯でもしてくれんのかよ」
始めの一撃でわかった。
ひとりずつだと大した奴らではないと。
背後から残りの2人が斬りかかってくる。
その刀を受け止めたのは、角都の刀だった。
「オレを信用しすぎだ、飛段。手は貸さない、と始めに言ったはずだろう」
「ゲハハッ。けどよォ、こうして飛び出してきてくれただろ。なんだかんだ言っても、てめーは世話焼きだ、角都。長門達のために、こんな計画も思いついちまうし」
「……黙ってろ」
2人は同時に力任せに相手の刀を薙ぎ払う。
「こいつら…、侍か!」
金を持った盗人がくぐもった声で言った。
勝率が低いと判断したのか、「もういい、退け!!」と指示を出し、盗人たちは刀を持ったまま出入口へと走る。
途中で竹ぼうきを構えた長門と弥彦に行く手を阻まれそうになったが、刀を振り回して避けさせ、そのまま一直線に出入口を出て、向かい側の茂みに飛びこんだ。
角都達はそれを深追いしようとはせず、真っ暗な森を見つめた。
「怪我ねーか?」
「ああ」
尋ねる飛段に長門は頷く。
「とりあえず、これも予定通りな」
飛段は刀を鞘におさめ、角都に顔を向ける。
「ああ。できれば、ここで取り押さえておきたかったが…。ここを血の海にするわけにはいかないだろう」
そう言ってから角都も刀を鞘におさめた。
先程の連中の戦い方を見て、昨夜の輩とは別ということもはっきりした。
「じゃあ、本戦といくか」
飛段は口端を吊り上げ、角都とともに出入口へと向かった。
「待て」
「オレ達も行くぜ」
飛段と角都が振り返ると、そこには刀を手に持った弥彦と長門が立っていた。
懐かしさを感じた角都は、薄笑みを浮かべる。
「…おまえ達は、捨てたと思っていたがな…」
「ああ…。けど、これも大事な思い出だ」
そう言いながら、長門は刀についたホコリを払った。
飛段は目を丸くしている。
「おまえらも侍だったのか?」
長門の代わりに、角都が答えた。
「そこらへんの侍と違って、貴族に仕えていた。だが、主人を暗殺されて、お役御免なったがな」
「角都も、その、お役御免になったひとりな」
弥彦の口から出た角都の過去に、飛段は「ええ!?」と驚きを隠せない。
「…今の方が生きやすい」
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