ご主人様はアイツのもの
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深夜、オレは息せき切らしながら公園へと走った。
大学以外での集まり場所と言ったらここしかない。
やっぱり、かくずは公園にいた。
滑り台の下で伏せて寝ている。
オレの気配に気付いたのか、右目だけ開けてこちらを確認したあと、大きな欠伸をして体を起こした。
「どうした?」
オレはかくずを睨みつけ、体当たりする。
「!」
そのまま押し倒す。
なんだ、そのとぼけた顔は。
「なんで!?」
オレの声は震えていた。
息を荒く吸って吐いたりしながらまた「なんで」と口にする。
「なんで裏切った!!?」
「……………」
角都は黙ったままだ。
このまま喉を食い千切ってやろうかと思ったが、どうやらオレはまだ躊躇っているらしい。
「角都がケガした! 知らないとは言わせねーぞ! 噛み傷があったんだからな!!」
そう、今日は雨だったから、オレは家で留守番を任されたんだ。
前のように、大学から帰ってくる角都の帰りを待っていた。
なのに、帰ってきた角都は右腕と左脚から血を流しながら帰って来たんだ。
めくられた肌には噛み傷があった。
どう見ても犬のものだ。
よほど深く噛まれたのか血は止まらなかった。
角都は病院に行きもしないで包帯だけで済ませた。
それで痛みを抑えられるわけがないのに。
「…そうか」
「なにが「そうか」だ! 簡単に約束破りやがって! 信じてたんだぞ、オレは! おまえを!」
オレは怒っているはずなのに、それ以上に悲しかった。
唸りながら睨みつけていると、かくずは急に体を反転させて、反対にオレを押し倒した。
形勢逆転にオレは暴れる。
「放せコラ! どけ! 触んな!!」
もがいていると、オレの爪がかくずの頬を引っ掻いた。
その瞬間、オレは暴れるのをやめる。
かくずの右頬の一線の傷から血が伝い、オレの額に落ちた。
「あ…」
かくずは黙ったままこちらを見下ろし、顔を近づける。
噛み殺されると思ったオレはぎゅっと目をつぶったが、額に生温かいものが触れ、目を開けた。
かくずがオレの額についた自分の血を舐めていた。
丁寧に、汚れでも拭き取るように。
「…すまん…」
かくずはオレからゆっくりと離れる。
「あいつの想いが叶うのはそう遠くはないだろう。予定より早いが、おまえを解放してやる。ご苦労だったな…」
かくずはそう言ってオレの横を通過した。
オレは怒鳴るべきなのか。
「勝手なことを言うな」「約束を破ったクセに」「角都に謝れ」「さっさと消えろ」
吐きだす言葉が見つからない。
だから少し待て。
そうか、「待て」だ。
「待…」
振り返ったが、もうかくずの姿はどこにも見当たらなかった。
「かくず…、待てって…」
小さく漏れた、行き場のないオレの言葉は、冷たい風とともに消えた。
「かくず…」
オレはなんのためにここに来たのだろうか。
あいつにどうしてほしかったのだろうか。
なんて言ってほしかったのだろうか。
鎖は外されたはずなのに、体が酷く重かった。
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