ご主人様はアイツのもの
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作戦決行は暁大学で行われることになった。
オレは当然不本意。
なんで他の奴と角都をくっつけなきゃならねーんだ。
角都を人質にとりやがってあのヤロウ、作戦中にその尻尾に噛みついてやろうか。
いっそ食い千切ってやる。
そうじゃないとオレの気がおさまらない。
やり方の汚さといったら、ドラマで出てくる悪役そのものだ。
ここで主人公の決めゼリフ「てめーの思い通りにはさせない!」とかが言えたらなァ。
「なにさっきからブツブツ言ってんだ、ひだん。うん?」
「ん―――」
オレは今、サソリの飼っているでいだらと庭でひなたぼっこをしていた。
オレの抱えている悩みをこいつに打ち明けてもどうにもならないだろう。
「でいだらはさァ、飼い主と他の奴がくっついたらどう思う?」
「受け入れる」
「ハァ!?」
迷いのない即答にオレは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「だって、旦那に奥さんができたら、オイラのお母さんになるみたいなもんだろ? うん。実際、今旦那が付き合ってる奴にも可愛がってもらってるしな。オイラはあいつ好きだぜ。うん」
考え方が違ったようだ。
でいだらは飼い主のことを親だと思ってるが、オレはそうじゃねえ。
でいだらは呑気に「そいつ、旦那と同じ芸術家志望の奴で、オイラと同じ金髪で…」とサソリのコイナカ相手について語っていた。
オレが小さくため息をついた時だ。
「おい」
背後から聞こえた声に「げ」と露骨に嫌な顔をした。
振り返ると、このイライラの元凶がやってきた。
でいだらは警戒しながら小声で尋ねる。
「ひだん、こいつは誰だ? うん」
「こいつは…」
「オレの子分を少し借りるぞ」
そう言ってかくずはオレの首輪をくわえ、オレを拉致していく。
「放せよー! 自分で歩くってのォ!」
でいだらはきっと茫然と見ていたに違いない。
*****
角都は第1号館から出てくる。
そこから食堂に向かう気だ。
「ひだん!」
角都が庭に向かって声をかける。
いつもなら、声を聞いたオレは角都に飛びついて食堂に向かうが、今日は違う。
かくずが「行け」とオレの尻を前右足で突き飛ばした。
オレは茂みから飛び出し、角都の前で立ち止まる。
「どうした? ひだん」
いつもの様子が違うことに角都も気付いたようだ。
オレは角都に背を向け、第1号館の隣にある第2号館へと走った。
「ひだん! どこへ行く! また迷子になりたいのか!?」
駆け足ながらも角都が追いかけてくる。
これでいいんだろ、かくず。
「でっ」
第2号館に入る前にオレは誰かにぶつかった。
「な、なんだ?」
ビンゴだ。
飛段発見。
「!」
「あ…」
角都と飛段の目が合った。
「…このヤロ!」
「痛てェ!?」
「ひだん!」
ムカついたオレは、飛段の手に噛みつくという作戦上にないことを実行した。
噛みついたオレは当然角都に怒られた。
飛段は「血は出てないから大丈夫」となだめたが、オレはわざと強く噛まなかったんだ。
血が出なかったのはオレの優しさだと思ってほしい。
おわびとして、角都は飛段に昼食を奢ると言って、一緒に食堂で食べることになった。
飛段は遠慮してるのかしてないのか肉うどんを注文し、反対に角都は天ぷら蕎麦を注文して向かい合わせで食べた。
オレはテーブルの下で角都が持ってきた弁当箱に入ったソーセージを食べていたが、気になって味がわからなかった。
2人は楽しそうに話している。
「そういえば、外国語の講義で一緒だったな」
「角都はよく前の席に座ってるな」
「そういうおまえは、一番後ろの席にいたな」
「こんな頭だから、後ろにいても目についちまうけど」
面白くない。
オレは全然面白くない。
黙って耳を傾けていると、その話の光景が頭に浮かぶ。
前の席で教授の話を聞きながら、ちゃんとノートをとったり、英語で教科書の内容を答えたりする角都と、退屈に講義を聴いたり、たまに寝たり、たまに角都の後ろ姿を見つめる飛段。
話しているうちに飛段の緊張が緩んでいるのがわかる。
けど、これで恋愛にどう発展するってんだ。
オス同士ってけっこう難しいんだぜ。
ガキはできないし、普通の恋人みたいに手を繋いで町を歩くこともできない。
見たことないし。
なにより、角都はそっちの気がない。
たぶん。
食事が終わったあと、2人は次の講義に行くために別れた。
それで終わらせちゃいけないのがオレの仕事だ。
オレは2人が食事してる間に角都の学生証をカバンから漁りだし、飛段のカバンへそっと移した。
こういうことを繰り返すことで2人の間を少しずつ縮めていく。
「よくて親友で止まるんじゃねーの?」
「その可能性もある。だが、それで終わらせないためにオレ達は動くしかない」
2人の講義の間、オレとかくずは非常口の階段の2階と3階の踊り場に座っていた。
「…だからさ、最終的にそれ決めるのは2人の気持ち次第ってことだろ。特に角都。あいつはメスにしか興味ねーんだって。あとオレ♪」
最後、特に重視してほしい。
「あいつは…、男では、初めてあの男に恋した」
「は?」
「最初から男そのものが好きだったわけではないということだ。あの顔だ。女に好意を寄せられても不思議ではないだろう」
確かにそうだけど。
あいつとすれ違った女共も、何度かあいつに振り返って「カッコいい」「彼女いそう」だとかキャッキャ騒いでたし。
「きっかけは外国語の講義だ。最初はただの優等生にしか見ていなかったらしい。だが、奴の姿を見かけ、奴の声を聞くうちに、徐々に意識し始めたそうだ。あいつにとって、その辺のどの女より魅力的な存在だったんだろう」
あいつ、こいつにそんな報告してたのか。
「ま、角都が魅力的ってのはホントだけどな」
「おまえの主人は、他人とはいつもあんなカンジなのか? 誰かと食事をしたり、話したり…」
「…いや…、サソリくらいじゃねーの? ほら、あの赤髪の。もともと、慣れ合いするガラじゃねーしな、角都は」
じゃあ、角都にとって飛段という人間は今友人という立場なのだろうか。
面と向かって話したのは、まだ2回目なのに。
そう思うと胃がキリキリとしてきた。
「そろそろ講義も終わるころだな。次の作戦を決行するぞ」
「まだやるのかよォ」
「うるさい。貴様は黙ってオレに付き従え」
「うっわ、その上から目線ムカつく」
「黙れ」
「ゲハー」
かくずはオレのしっぽをくわえ、ひきずった。
階段の段差はおかまいなしだ。
子分でも、もうちょっと丁寧に扱ってほしい。
階段を降り切ったところでかくずが言う。
「さっきは…、よくやってくれたな」
「……………」
もしかして、褒めたのだろうか。
引き摺られながらも、嬉しくなって、ちょっと顔が熱くなった。
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