満月の夜に
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満月の月光は吸血鬼の力を満たす。
異教徒狩りの本拠地に空から乗り込んだカクズは見張りをしていた者達から片っ端から鋭い牙と爪で八つ裂きにしていく。
夜の闇でも見通すことができる視覚と範囲の広い聴覚、血を嗅ぎわける嗅覚で、入口からその周りの異教徒狩りの者たちを見つけ、逃すことなく次々と息の根を止めていった。
女性がいないため、力の補給はできなかったが、満月のおかげで本拠地の奥まで乗り込むことができた。
そこには、目当ての異教徒狩りの首謀者がいた。
騒ぎを聞きつけていたため、地下へと続く隠し階段から逃れるところだった。
逃げられる前にカクズは素早くその男の首根っこを押さえ、異教徒狩りで生け捕りにした教徒たちの居場所を聞き出し、その首を砕いた。
それから地下へと行き、檻に閉じ込められている教徒たちを解放する。
やったことは人助けと同じだが、教徒たちはカクズの姿を見るなり、檻が解放されると同時に逃げ出した。
それが当たり前の反応だ。
やはりヒダンが変わっているのか、とカクズは改めて理解する。
誰もカクズのことを「ジャシン」とは言わなかったのだから。
仕事を終えたカクズは本拠地に火をつけ、さっさと引きあげる。
最後の依頼にしては、わずか1時間と数分で終わらせることができた。
(これでおれの仕事は当分休業だな)
問題はこのあとのことだ。
ヒダンが屋敷でカクズの帰りを待っている。
ヒダンの望み通り、カクズはその首筋に噛みつかなければならない。
飲むか、引き裂くか。
カクズは飛行中頭を悩ませていた。
だが、屋敷が見えた瞬間、頭の中が真っ白になった。
屋敷が真っ赤な炎に包まれている。
屋敷の周りには、松明を持った、見慣れた団体がいた。
依頼した教団の連中だ。
司教もいる。
カクズは司教の前に舞い降りる。
「…どういうことだ?」
低い声とともに司教を睨みつけると、司教の背後で並んでいる教徒たちが一斉にボーガンを構えた。
「今まで御苦労だったな、カクズ様」
「貴様…」
司教の口元に嘲笑の笑みが浮かぶ。
「もはやあなたは我々の脅威に戻った。今まで依頼をやり遂げていただいたお礼に、その永遠の命、ここで終わってもらいます。本望でしょう?」
仕事を終えたカクズに力はあまり残されていない。
教団はそこを狙ってきた。
依頼人の裏切りにカクズは怒りを抑えていた。
「なにをしたかわかっているのか? 中にはまだヒダンがいるんだぞ。生け捕りにされた仲間をオレに助けさせたクセに…!」
「ヒダン? …ああ、まだ食されてなかったのですか。男はお口に合いませんでしたか?」
まるですでに見放していたかのような言い方だ。
カクズの右手の指の筋肉と骨がパキリと鳴った。
「あいつも貴様らと同じ教徒だろう…!」
「まあ確かに素直で誰も信仰心の強いコでしたが…、病持ちでは…」
司教の言葉にカクズは耳を疑った。
「…病持ちだと?」
「おや、知らなかったのですか? もう、長くはないのですよ」
だからこそ、ヒダンは贄に選ばれてしまった。
病名も知らない病を移されてはたまらないと。
ただの厄介払いだった。
「どちらにしても、あのコは助かりませんよ」
司教が手を挙げると、ボーガンを構えた教徒たちはカクズに狙いを定め、引き金に指をかけた。
矢は吸血鬼を傷つけることができる銀製だ。
それでも、カクズは怯むことなく、牙を剥いた。
「そこをどけ!!」
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