堕天使からの贈り物
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夕方、雲の多いオレンジ色の空の下、飛段はデイダラとイタチに行き先を告げて2人と別れ、ある場所に向かった。
到着した場所は角都の家だ。
階段で上がってもよかったが、エレベーターというものがあちら側にはないので角都の部屋がある階までのぼっていく。
部屋番号を思い出し、部屋のインターホンを鳴らした。
「………角都ー?」
ノックをしても返事はない。
扉の前にしゃがもうとしたとき、
「角都さんならお仕事ですよ」
「!」
声が聞こえた方に顔を向けると、隣の部屋の半開きの扉から鬼鮫が顔をのぞかせていた。
「鬼鮫…」
「こちらで待たれますか?」
鬼鮫は扉を開けて誘うが、飛段は断る。
「いい。直接迎えに行く」
イタチになんだか悪い、という理由もあった。
「角都の会社知ってたら、教えてくんね?」
年上に対して失礼な言い方だが、鬼鮫は気にせず、部屋に戻って地図を取ってきて飛段に見せた。
「ここからここで…」と丁寧に道のりと乗車する電車を教え、赤いペンでなぞり、その地図を渡す。
「わかった」
飛段が行こうとしたとき、鬼鮫は「あ、待ってください」と背中に声をかけ、飛段を止めた。
「夜から雨が降るらしいので…」
玄関に置いてある傘立てから2本の黒い傘を取り出し、飛段に渡した。
「ありがとな」
飛段は笑みを見せて礼を言ったあと、もう一度鬼鮫に背を向けて走り出す。
*****
仕事が終わり、会社から出て空を見上げた角都は眉を寄せた。
雨脚がやや強めの雨が降っていたからだ。「そういえば天気予報は雨だと言っていたな」とため息をついた。
傘を忘れてしまうなど、角都としては珍しいことだった。
飛段が寮に帰った途端にコレだ。
会社のを借りるか、雨脚が弱まるのを待つか。
そう考えていたとき、
「角都ゥー」
向こう側から飛段がとじたままの傘を両手に走ってきた。
びしょ濡れである。
「飛段!?」
驚いた角都は、走り寄ってきた飛段を見下ろす。
「迎えに来たァ」
「おまえ、傘を持っているのに…」
なぜ差さずにきたのか。
「だって、コレ…、どう使っていいかわかんねーし…」
飛段は傘を使ったことがない。
雨の道を歩くときは、暁の笠を被ってしのいできた。
角都は怪訝な顔でじっと飛段を見つめる。
飛段が冗談で言ってるとは思えない。
カバンから黒いハンカチを取り出し、飛段の髪や顔を拭いた。
髪を下ろした姿は初めて見る。
「…行くぞ」
角都は飛段から受け取った黒い傘を差し、飛段を隣に入れて声をかけた。
「お…、おう…」
角都の言葉は、あちらの角都と重なった。
*****
2人は電車に揺られながら、角都の家へと向かっていた。
その間、飛段は座りながら、「でんしゃってのに乗るのにスゲー時間かかっちまった」と話した。
切符を買ったり(こちらの飛段の金で)、改札で引っかかったり(切符の入れ忘れで)、帰宅ラッシュで満員だったり(殺意を覚えた)など。
角都は「おまえは電車に何度も乗っていたじゃないか」と口にせず、たまに相槌を打ったりしながら黙って聞いていた。
そのうち、飛段の目がうとうととしてきたのがわかった。
滑舌も悪くなっている。
「でさァ…」
そして、そのまま角都の肩に寄りかかり、眠ってしまった。
目的の駅までまだ先なので、角都はもう少しの間、眠らせておくことにした。
会社までの道のりに疲れたのだろう。
ふと、角都は周りを見回した。
帰宅ラッシュより遅く乗ったため、乗客は少ない。
居眠りしているサラリーマン、向かい側の窓に映る流れる景色を眺めるОLしか乗っていない。
飛段に視線を落とし、寝顔を見つめた。
4年前と同じだ。
違うのは、繋がりを持ったことだ。
周りをもう一度見回し、誰もこちらを見ていないことを確認したあと、飛段のアゴを人差し指で持ち上げ、その唇に自分の唇を重ねようとした。
「…ぅ…」
飛段が目を覚ましたのだと思ってすぐに人差し指を離した。
だが、いつまで経っても目を開けない。
寝言だったようだ。
飛段は角都の袖をつかみ、肩に額をこすりつけた。
「かーくずゥ」
寝言とともに幸せそうな笑みを浮かべる。
己の名前を呼ばれて嬉しいはずなのに、角都は胸に痛みを覚えた。
己の名前のはずなのに、己ではない気がして。
飛段を拾った日から記憶を遡る。
静かに、角都の中で確信のようなものが生まれた。
角都と飛段はマンションの角都の部屋に戻り、順番に風呂に入り、夕食を食べた。
食べ終えたあと、唐突に飛段は言った。
「鎌とコート帰してくれねえか?」
「…ああ」
角都は自分と飛段の皿とまとめてキッチンの洗い場に持っていき、飛段の大鎌を持って戻ってきた。
大鎌にはニンジンのヘタがくっついていた。
「またオレの鎌、包丁に使ったな!?」
またもや調理道具として使われていたようだ。
匂いを嗅ぐと、わずかに血肉の匂いがする。
肉まで切られていたようだ。
角都は脱衣所から飛段の外套を取ってダイニングルームへと戻ってきた。
取ってきたそれを飛段に渡す。
飛段は着ているシャツを脱ぎ、それを身に纏おうとした。
「本当の飛段はどこだ?」
飛段の手がピタリと止まる。
驚いた顔で角都の顔を見つめた。
怒っている様子もなく、角都は腕を組みながら飛段を見据えている。
「え…と……」
飛段はどう答えようかと迷った。
それに頭が少し混乱している。
いつ気付かれたのか、と。
「…オレ…、こっちの飛段じゃ…ねえんだよ…」
角都が黙っているため、いつ怒鳴りだすかと警戒しながら言葉を続ける。
「こっちの飛段…。たぶん…、オレがいた世界に飛ばされたと…思う…。入れ替わっちまって…」
「……………」
「……もしかして…、信じてる?」
信じてほしいのだが。
なにしろ現実味のない話だ。
それでも角都は深く聞くこともなく頷いた。
「双子説を考えていたがな」
「オレみたいなのが2人もいたら、角都の取り合いになっちまうよ」
殺し合いになることは間違いない。
「…それで…、あっちに行ってしまった飛段を、こちらに戻せるのか?」
その問いに飛段は自信なさげにうつむく。
「わかんねえ…。けど、もう一度飛ばされた場所に行ってみる。だから、角都、待っててくれよ」
角都の顔に迷いの色を浮かぶ。
「……こちらの飛段は…、オレを知らないかもしれない」
知らず知らずのうちに、スーツのボタンが取れた部分をつかんでいた。
飛段は激しく首を横に振る。
「こっちのオレとどう出会ったのかは知らねえけど、どんな出会い方をしても、オレは角都を絶対忘れない。こっちの角都とあっちの角都が似てるなら、こっちのオレとあっちのオレも似てるはずだ」
サソリとデイダラだって、こちらでもあちらでも付き合っているのだから。
こちらの鬼鮫とイタチがあちらと同じく付き合い始めるのも時間の問題だ。
世界は違っても、全員同じ人間だ。
「やり直しだ。もう一度、オレと会ってくれ」
今度こそ、こちらの自分と。
角都は頷き、飛段を玄関先まで見送ることにした。
「あ…、あのさ…、オレを拾った場所、どこかわかる?」
忍のサンダルを履いた飛段は角都に尋ねた。
よくよく考えれば、角都に拾われてこちらに来るまでの道のりを覚えていない。
角都は「最後まで仕方のない奴だ」とため息をつき、飛段が持っていた地図を渡してもらい、黒いペンで道のりを書いた。
「悪いな…。それじゃ…」
飛段が玄関の扉を開けて行こうとしたとき、角都は「おい」と呼びとめた。
扉が半開きのまま、飛段は角都に振り返る。
「その…、あちらのオレも…、同じなのか…?」
「おう。こちらもあちらも超カッコイイ男だぜ」
飛段は笑顔で答え、玄関を出る。
扉が閉まる音とともに、エレベーターを使わずに片廊下から飛び降り、屋根から屋根へと飛び移りながら、こちらの世界に来た時の場所へと向かった。
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