堕天使からの贈り物
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「角都さん」
マンションの出入り口に入ろうとしたとき、不意に肩をつかまれた。
振り返ると、その人間は隣の部屋の住人だった。
「鬼鮫か…」
会社は違うが、誘われてはよく一緒に飲みに行く、飲み仲間というやつだ。
角都は「ああ」と言って一緒にエレベーターに入り、上へと上がる。
「おまえも会社帰りか」
「ええ」
エレベーターが目的の階に到着し、角都が下りたと同時に鬼鮫は尋ねる。
「昨夜、銀髪の青年をタクシーに乗せませんでしたか?」
ピタリと角都の足が止まり、角都はゆっくりと鬼鮫に振り返った。
なぜ知っている、という目で睨む。
鬼鮫はなだめるように話した。
「いえ、偶然にもお見かけしたもので…。声をかけようとしたのですが…」
声をかける前に角都が乗ったタクシーが動き出してしまったそうだ。
「知ってる顔が倒れていたからな…」
友人でもないが。
「そうでしたか」
鬼鮫は納得の声を出し、角都とともに自分が住んでいる部屋へと向かう。
このまま部屋で分かれるかと思っていたが、
ガシャーン!
ガラス割れる音が角都の部屋の扉越しから聞こえた。
鬼鮫は怪訝な目で角都の部屋の扉を見つめる。
「なんの音ですか?」
「まさか…」
角都は急いで鞄から部屋のカギを取り出し、扉を開けて中へと入る。
心配になった鬼鮫も角都に続いて中へと足を踏み入れた。
玄関からすでに惨状と化していた。
壁には汚いぞうきんで拭いたのか汚れていて、床には花瓶の破片が散らばっている。
奥からは掃除機の音が聞こえた。
吸い込みが悪そうな音だ。
角都は鬼鮫と一緒に急いでダイニングルームの方へと走り、勢いよく扉を開けた。
「!!」
「うわ」
ダイニングルームの惨状は玄関以上だった。
ソファーは破れ、電灯は壊され、キッチンには皿の破片がいたるところに散らばっている。
飛段は皿の破片を、使い慣れていない掃除機で吸い取っていた。
掃除機が今にも壊れそうだ。
角都に気付いた飛段はギクリとし、引きつった笑みを見せた。
「あ…。おかえり…」
「ガラスを吸い込むな!!」
角都は飛段に走り寄って掃除機を奪い取り、スイッチを切った。
吸い込み切れなかったガラスがザラザラと音を立てて掃除機の吸い込み口から流れ出てくる。
掃除機のゴミパックの交換もしなかったようだ。
「!!」
そこで飛段は初めて角都の後ろにいる鬼鮫の存在に気付いた。
「鬼鮫!?」
思わず指をさして叫んでしまう。
角都は振り返り、驚いている鬼鮫の顔を見つめて尋ねる。
「知り合いか?」
「い…、いいえ…」
こちら側の鬼鮫にとって、飛段は初対面の相手だった。
鬼鮫の反応を見た飛段は、鬼鮫も今目の前の角都と同じだと察した。
「話はあとだ。先に片づけるぞ」
鬼鮫と一緒に周りを片づけ始めた角都に、飛段は「オレも手伝う」と声をかけたが、
「おまえはそこで正座してろ!!」
「…はい…」
角都に怒鳴られ、ダイニングルームの隅で、言われるままに正座していることにした。
ようやく片づけが半分以上終わったとき、インターホンが鳴らされた。
角都は玄関へと向かい、扉を半分だけ開けて来訪者を見る。
「よう」
「ああ、おまえか」
来訪者も、飲み仲間のひとりだ。
隣のマンションに住んでいる。
「久しぶりにいい酒が手に入ったんだ。飲もうぜ」
来訪者は片手に持っていた酒瓶を見せつける。
「入れ。鬼鮫とガキがいるがな」
「ガキ?」
来訪者は怪訝な顔をし、角都の部屋へと足を踏み入れた。
そのまま角都とともに奥のダイニングルームへと進み、“ガキ”と顔を見合わせる。
「「!!」」
お互いに驚いた顔をした。
先に声を上げたのは飛段の方だった。
「サソリ!?」
そこでまた鬼鮫と同じような反応を返されるのだろうと思っていた。
「飛段か? おまえ、こんなところでなにやってんだ?」
「!」
こちら側のサソリも、飛段のことを知っていた。
(オレを知ってる…!?)
しかし、ここのサソリも、角都と鬼鮫と同じだと理解した。
なぜなら、サソリの体は生身だったからだ。
夏服を着ているため、傀儡の部分がないことがよくわかる。
サソリは携帯を取り出し、電話をかけた。
「バカ発見したぞ。場所は……」
場所を告げ、電話を切る。
その光景を見ていた飛段は、サソリが小さい箱を耳に当てて独り言を言っているようにしか見えなかった。
あちら側には携帯というものは存在しないから。
それから大人しく待っていると、インターホンが鳴らされた。
角都は玄関へと向かい、来訪者2人をダイニングルームへと連れてきた。
走ってきたのか、2人とも息が荒かった。
飛段と顔を見合わせ、「やっと見つけた」としかめっ面で声をそろえる。
2人の顔を見た飛段は「あ!!」と叫んだ。
「デイダラ! イタチ!」
2人も飛段のことを知っている様子だ。
デイダラは飛段の両肩をつかんで怒鳴る。
「このバカ! どっか行くならオイラ達に声くらいかけてけ! 寮にも大学にも顔出さねえから心配したんだぞ、うん!」
「リョウ? ダイガク?」
知らない単語に困惑する飛段。
あちら側にはないからだ。
「サソリと同じ大学に在学してたのか」
角都は腕を組みながら呟いた。
「連れが迷惑かけたな、うん」
サソリから事情を聞いたデイダラは角都に言った。
「ほら、謝れ」と飛段の頭を右手で押さえつけるが、飛段は「なんだよ」と抵抗する。
そこで飛段は気になったことが浮かび、デイダラの右手をつかみ、その手のひらを見つめた。
ぎょっとしたデイダラは「なんだ?」と首を傾げる。
飛段は黙ったまま、手のひらをつついたり軽く引っ掻いてみた。
デイダラの手のひらにあるはずの口がなくなっていたからだ。
「やめろ。地味にくすぐったい」
困惑したデイダラは飛段の手をやわらかく振りほどいた。
「帰るぞ」
それから飛段の手首をつかんで角都の部屋から出ようとする。
「帰るとこなんかあるのか」と飛段はぼんやりと思い、「あ」と声を漏らし、角都に振り返った。
「鎌とコート…」
自分にとっては必需品だ。
「…今日のところは大人しく帰れ。鎌はまた取りにくればいい」
角都に言われ、飛段は大人しくデイダラに引っ張られるままにダイニングルームを出た。
「イタチ、帰るぞ。…イタチ?」
イタチがついてきてる気配がないためデイダラは立ち止まり、もう一度ダイニングルームに顔を出した。
「……………」
「……………」
イタチと鬼鮫は黙ったまま互いを見つめあっていた。
とても入り込める雰囲気ではない。
「目で語ってるぞ。うん」
「あの2人はなぁ…」
あちら側でもこんなカンジだから、飛段は特に珍しいことではないと思った。
こちら側の2人がこの時が初対面だとはあとで知ることになる。
帰り道、住んでいるところは意外にも近場にあった。
大学付近の寮だ。
自分の部屋へと向かいながら、デイダラは飛段がいなくなった間のことを飛段に話していた。
「寮長も怒ってたぞ。うん。連絡もなくて一夜過ぎても帰ってこないって」
長く話を聞いているうちに、飛段は確信した。
この世界が自分が住んでいる世界とは別物だということ、なのに顔見知りがこの世界にも存在していること、そしてまたもうひとりの自分がこの世界に存在していることなど。
(もしかして、角都がつれてったのって、こちら側のオレってこと?)
こちら側の飛段が行方不明なら、そういうことになるのだろう。
「どうしよ…」
デイダラ達に聞こえないくらい小さく呟き、頭を抱えた。
「ん? その紙なんだ?」
デイダラはイタチが大事そうに持っている紙切れに気づいた。
「鬼鮫さんのメアドだ…」
「いつの間に!?」
ただ見つめあっているだけだと思っていた。
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