堕天使からの贈り物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
異空間に吸い込まれたあと、飛ばされた世界でうつ伏せになって倒れていた。
頬に冷たいものが当たる。
その冷たさに眉をしかめ、目を開け、体を起こした。
「え…?」
最初に目にしたのはコンクリートの壁だ。
前と左右を、高い建物の背中で囲まれている。
どこからかたくさんの人の声、足音、エンジン音のようなものが聞こえた。
辺りは真っ暗だ。
空を見上がると、夜空は曇りに覆われ、雫をポツポツと降らしていた。
己の頬に当たったのは雨だと知る。
「え…と…、オレ…」
ここに来るまでの経緯を思い出す。
角都と共に賞金首と対峙し、そこで妙な術で空間に裂け目を作られ、そこに吸い込まれてしまったのだと。
そのあと、いきなり何者かにぶつかった。
背中にぶつかったため、顔は見ていないが己と同じ銀髪だったのは覚えている。
裂け目から角都の手が飛び出し、それは飛段ではなく、その者の襟をつかんだ。
その者は己と入れ替わるように裂け目へと連れて行かれた。
思い出すと同時に、キョロキョロと周りを見回す。
「どこだよ…、ここ…」
雨脚が強くなるにつれ、飛段の不安は増していく。
角都がいない恐怖が襲いかかってくる。
「角都…」
呟くと同時に振り返り、建物に挟まれたたったひとつの道を進んでいく。
灯りが見えてきた。
誘蛾灯に誘われる虫のように、フラフラと灯りへと向かう。
道を出ると、大通りへと出た。
そこで飛段は目を見開いて驚く。
夢を見ているかのようだ。
己の世界にはないものが目の前に広がっていた。
高すぎる建物、アスファルトの道路、車道を走る車、灯り、匂いなど。
飛段は混乱のあまり、体を震わせた。
焦りながら辺りを見回すが、いつも隣にいる角都の姿はどこにもない。
頬を伝うものが、雨なのか冷や汗なのかさえ、わからない。
「角都…」
一歩、強く踏み出した。
「角都ゥ!!」
同時に、思いっきり地面を蹴って走り出す。
「キャッ!」
「なんだアレ?」
傘を差した通行人達は、見慣れない格好なうえに大鎌を背負った飛段を凝視した。
街を巡回していた警官もその姿を見つけ、止めようと追いかけたが、忍の飛段に追いつけるわけがない。
飛段は構わずに夜の街を駆け抜ける。
角都の姿を捜して。
「角都―――!!」
クラクションが飛段の叫びをかき消す。
ダァン!!
トラックの正面が飛段の体にぶつかった。
跳ねられた飛段は一瞬なにが起こったのかわからない顔をし、車道に背中を打ち付ける。
「キャ―――!!」
「跳ねられたぞ!!」
見ていた通行人達は叫び声を上げ、それにつられて他の通行人達も騒ぎだす。
なのに、騒ぐだけで誰も飛段に近づこうとはしない。
(うるせえうるせえうるせえうるせえ)
飛段は騒々しくなる群れに腹を立てていた。
大鎌で全員皆殺しにして黙らせてやろうかと思ったが、数が多すぎる。
ブンブンとうるさい虫の群れを潰しにかかるほどヒマなわけでもない。
ゆっくりと体を起こし、フラフラとした足どりで歩道へと向かう。
それを見た通行人達は我が目を疑った。
誰もが即死だと思ったからだ。
飛段は頭部から血をダラダラと流しながら、角都の姿を捜し続ける。
通行人達は恐れをなして道を譲るように飛段を避けた。
雨は容赦なく飛段の体を冷やしていく。
大通りから逸れ、飛段は薄暗い場所でうつ伏せに倒れた。
もう何時間走り、街を彷徨ったことか。
角都は見つからない。
体が冷えたせいで眠気に襲われる。
目を醒ませばまたそこに角都がいるかもしれない。
そんな期待を抱き、飛段は目を閉じた。
「かく…ず…」
雨がやんだ気がした。
それでも降り続く雨音は今も耳に聞こえる。
片目をうっすら開けて見上げると、大きな影と黒い傘が目に映り、そして再び目を閉じ、意識を手放した。
.