もうひとりのおまえに
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あちら側の世界で、飛段は大学へ行くために街の歩道を歩いていた。
横断歩道に立ち、信号が赤から青に替わるのを待つ。
何台も車が目の前を横切り、周りでは同じく信号を待つ者達が立っていた。
「!!」
ふと顔を上げて向かい側の歩道を見ると、同じく信号待ちをしている、見覚えのある男が立っていた。
他の者達より頭ひとつ上なため、容易に見つけることができた。
「角都…」
小さな呟きは街の騒音にかき消される。
角都がこちらを見ているように思え、目を逸らしてしまった。
心臓が早鐘を打ち、顔が熱い。
どうしようかと迷っているうちに信号から赤から青へと切り替わる。
同時に信号待ちをしていた者達が一斉に進み出した。
飛段もそれに混じって歩きだす。
飛段は目を合わさないように目を伏せていたが、角都との距離がだんだん縮まっていくのはわかった。
角都の脚が目に映り、早足になりそうになるのを堪える。
左手が無意識に後ろポケットに入り、ボタンに触れた。
角都とすれ違いになったと同時に、あちら側の角都と飛段と言葉を思い出し、意を決して行動に出た。
体より先に右手が動く。
「!」
角都の手首をつかんで止めるために伸ばしたはずなのに、先に手のひらをつかまれてしまった。
驚いて振り返ると、飛段の右手を握った角都が真剣な眼差しで飛段を見つめていた。
「飛段」
同時に強く抱きしめられる。
「か…くず…」
「ああ」
飛段は嬉しさのあまり泣きそうになった。
嗚咽を堪え、気持ちを伝える。
「オレ…、おまえが好きだ…」
「ああ。…オレもだ」
飛段の目から涙がこぼれ落ちた。
通行人の目も、横断歩道の真ん中だということも気にせず抱きしめ合う2人。
信号の青色はまだ点滅さえしていない。
ボタンを返すのは、この温もりに充分すぎるほど浸ってからでいいじゃないか。
角都のスーツのボタンは、ずっと待ていたかのように取れたままだった。
.END