もうひとりのおまえに
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角都は賞金首を逃がさないように地怨虞で縛り、座らせていた。
術を使われないように後ろで地怨虞でグルグルに縛ってある。
賞金首は目の前の角都と飛段を睨みつけた。
不覚だ、と言いたげな、とても悔しそうな顔だ。
「言うことを聞けば、貴様の首はとらん」
「角都、これじゃオレらが悪者」
だから悪者だって。
賞金首は嘲笑の笑みを浮かべ、鼻で笑った。
「信用できるか、そんな…、ぐ!?」
地怨虞が賞金首の体を締め付ける。
「貴様に拒否権はないとわからないか?」
角都は怒りを抑えていた。
ここで殺せば飛段は2度と帰ってこない。
賞金首を殺すのは、飛段を殺すのと同じことだ。
「オレ、あっちに帰りたいんだよ。なあ、頼むって」
飛段はしゃがんで目線を合わせ、両手を合わせて賞金首に頼んだ。
「……………」
賞金首は「あちら側の者か…」と呟いて飛段と目を見つめ、角都を一瞥し、やがて諦めたように目を伏せた。
「あの時、さっさと逃げればよかったな…」
面倒を起こさなければこのような目に遭わずに済んだのだ。
言うことを聞く代わりに首は狙わない、という条件を呑み、賞金首は両手を解放された。
印を結び、離れたところに裂け目を作り出す。
「こいつの世界と繋がっているのか?」
「ああ」
問題はこのあとだ。
どうやってこちら側の飛段を連れ戻すかだ。
角都自身が入れば裂け目を閉じられてしまう恐れがある。
悩ませていると、飛段は提案を出した。
「オレが迎えに行ってこようかァ?」
あちら側とこちら側が対面することになる。
それでも、それしか手はないだろう。
「任せていいか?」
「あったりまえだろォ」
飛段はそう言って笑みを浮かべた。
角都は飛段に、地怨虞で伸ばした己の右腕を渡す。
「飛段にこれをつかませろ。2回強く引っ張れば引き戻す」
「わかった」
飛段は角都の手を持ったまま裂け目へと近づく。
こちらに振り返り、切ない笑みを見せた。
「オレ…、あっちのおまえに好かれるかな?」
「オレと同じ性格なら、真っ直ぐな奴は嫌いではないだろう」
「ゲハハッ」
飛段は照れ笑いをしたあと、裂け目へと入っていった。
それからしばらくして飛段の手の感触がなくなった。
飛段が角都の手から離れたのだろう。
それでも角都は慌てなかった。
必ずこちら側の飛段を連れてくるだろうと信じているからだ。
ドス!
「ぐ!!」
「!?」
突然、賞金首が呻き声を上げた。
そちらに振り返ると、賞金首の胸の中心にはクナイが突き刺さっていた。
「おい…!」
角都は呼びかけるが、賞金首は血を吐いて返事を返せる状態ではない。
やむなく角都は賞金首の地怨虞を解いた。
賞金首はその場にうつ伏せに倒れる。
賞金首が死ねば、裂け目が閉じてしまう。
角都はクナイを引き抜き、地怨虞で賞金首の治療にあたる。
だが、急所を刺されているため、間に合わない確率が高かった。
裂け目がどんどん小さくなっていく。
焦りが生まれたとき、クナイが飛んできた。
角都は体を硬化させて防ぐ。
崖を見上げると、数人の男達がこちらを見下ろしていた。
リーダーである男が角都達を見下ろし、ほくそ笑んでいる。
「暁の角都か。まさかこんな場所でお目にかかるとは…」
同業の者達だと角都は感じた。
賞金首と己の首が目当てなのだろう。
間が悪い時に現れてくれたものだ。
右手は裂け目の向こう側で、左手は賞金首の治療にあたっている。
印を結べる状況ではない。
賞金稼ぎ達が崖を駆け下りて角都に躍りかかる。
角都は体を硬化させ、縫い目から地怨虞を出して賞金首達を倒していった。
しかし、そうしている間も裂け目は閉じていく。
賞金首の命も限界だ。
「!」
右手のひらになにかが触れた。
手をとられ、温かいものに添えられている。
角都の手はその感触を知っていた。
手首が2回引っ張られる。
それと同時に、賞金首が息絶えた。
角都は思いっきり右手を引き戻した。
裂け目が完全に閉じる寸前、同じ外套を身に纏った男が角都の手首をつかんだまま飛び出し、角都の胸に飛び込んだ。
「角都ゥ!!」
間違いなく、こちら側の飛段だ。
飛段が戻ってくればこちらのものだ。
再会喜ぶ前にジャマな奴らの始末が先だ。
*****
終わったあと、飛段は再び角都の胸にしがみついた。
「角都角都角都!」
「1回呼べば十分だ」
角都はマスクの下で緩やかな弧を描き、飛段の頭を愛おしげに撫でた。
「オレさ! あっちで角都に会ったぜェ!」
「ほう…」
「それでさ…!」
「飛段」
飛段の言葉を遮り、角都は口布をつけたまま飛段の唇にキスを落とした。
「それはあとでじっくり聞こう」
だからしばらくこのままでいさせてくれ、と角都は飛段を抱きしめる。
飛段は小さく頷き、角都の背中に手を回し、こちら側の角都との再会を静かに喜んだ。
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