もうひとりのおまえに
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飛段は目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。
体には暁の外套がかけられ、傍には焚き火が燃えている。
周りを見回すと森の中の小さな面積の更地にいることがわかった。
「起きたか」
声がした方に振り返ると、頭巾を外したままの角都が、切り株に腰掛けながら焚き火に枯れ枝をくべていた。
その姿はオレンジ色の炎に照らされている。
「オレ…、死んで…ねえ?」
「治療したからな」
短刀で刺されたところを見ると、地怨虞で縫われた痕があった。
触るとチリチリとした痛みが走る。
角都は「あまりいじるな」と注意した。
「食うか?」
「…うん」
干し肉を渡され、空腹に気付いた飛段はそれを受け取り、口に運んだ。
「ボタンの相手とは、オレか?」
「ゲホ!! ガハッ、ゴホッ!」
唐突な質問に干し肉が喉につまりかける。
飛段は真っ赤な顔で噎せ、角都に涙目を向けて言った。
「な…、なんで…」
「オレの素顔を見たとき、酷く驚いただろ」
「う…」
「違うのか?」
「いえ…。その通り…です」
角都の素顔を前に、嘘はつけない。
「やはり、あちら側にはオレもいるのか…」
デイダラ達もいるのだから、己がいてもおかしくはないと考えた。
飛段は思い出しながら出会いを語る。
「酔っ払いに絡まれてたところを助けてもらった…」
「タダでか?」
「タダに決まってんだろ!!」
こちら側の角都が他人を助ける時は間違いなく有料だ。
「恋仲なのか?」
飛段は赤くなりながら首を激しく横に振る。
「まさか! 会ったのその1回だけで、名前も知らねえよ!」
おそらく、あちら側でも名前は角都なのだろう。
角都と飛段は同時に推測した。
「あちら側のオレはなにをしているように見えた?」
「たぶん、リーマン」
「リーマン?」
「サラリーマン」
「……………」
目を細めた角都を見て、飛段はサラリーマンというのがこの世界にはないのだと察した。
簡潔に言う。
「社会人!」
「とりあえず、給料をもらって生活しているのか」
その問いに飛段は頷いた。
あとはどう説明していいかわからなかったからだ。
「…なあ、こちら側のオレと角都って、ホントにただの連れなのか?」
おそるおそる問い、真剣な目を向けた。
角都は枯れ枝を焚き火にくべながら答える。
「…「ただの」とは言っていない」
「…!」
角都の言いたいことを察した飛段は嬉しそうな顔をし、その場に寝転んだ。
「ゲハハッ、そっかァ…」
寝ながら干し肉を口にした。
真上の星空を見上げながら、言葉を続ける。
「……こっちのオレが羨ましいぜ、ホント…」
「想いを告げないのか?」
「ちょっと…、怖ェ…」
ボタンを返すと同時に想いを告げようとは考えていた。
だが、相手に拒まれるのが怖い。
その思いもあって1週間以上も渡せずじまいだった。
「…不安に思うことはない」
「けど…」
「こちら側でも、あいつから「好きだ」と告げられた。だから今のオレ達がある」
「……………」
なにを思ったのか、飛段は目を閉じて黙り、そのまま眠りについた。
角都は枯れ枝を焚き火にくべながら、こちら側の飛段のことを思い出していた。
当初、想われるのは正直鬱陶しいと思っていた。
だが、今では己は飛段のことを想っている。
本人が調子に乗るから口に出さないだけだ。
「飛段…」
肩に寄りかかって眠る飛段を思い出し、角都は無意識に己の肩を擦った。
“角都、捜索中の賞金首の居場所がわかったぞ”
「!!」
頭に響いたペインの声とともに角都は目を覚まし、上半身を起こした。
夜明け前で、焚き火の火は消えている。
飛段は仰向けで眠っていた。
「どこだ?」
“その先の山岳地帯だ”
情報とは少しズレている。
情報屋からの情報では、山岳地帯の手前の街にいると聞いていたからだ。
移動されたか、と角都は舌を打つ。
ペインとの連絡が切れたあと、地面からゼツが現れた。
「頼マレテイタ服ヲ持ッテキタゾ」
昨夜、飛段がケガで寝込んでいる時に注文したものだ。
角都は「すまんな」と言って受け取った。
ゼツが地面に潜り、外套を身に纏って頭に頭巾を口には口布をつけたあと、飛段を起こして出発した。
*****
街には寄らず、ペインに指示された山岳地帯に到着した。
崖が多く、ここを飛段に歩かせるのは危険だと思ったが、飛段は呼吸を荒くしながらもついてきている。
崖の上を進んでいくと、角都は、崖下の崖と崖の間を歩いている人影を見つけた。
標的の賞金首だ。
「飛段、そこにいろ」
同時に、角都は崖から飛び降りた。
「角都!」
角都のように飛び下りれる高さではない。
「!!」
賞金首がほぼ気付くと同時に角都はその目の前に着地した。
賞金首はクナイを取り出し、刃先を向ける。
「貴様はこの間の…!」
「オレから逃れられると思うな。今回用があるのは貴様の首ではなく、術の方だ」
ここで逃してなるものか。
角都は相手の方からかかってくるのを待たず、自ら攻めた。
けっして殺してはならない、と己に言い聞かせながら戦う。
クナイの刃を硬化した右腕で叩き折り、首をつかもうと地怨虞で手を伸ばすが、賞金首は後ろ飛びで避けた。
いつまでも避け続けられるわけでもなく、背中を崖にぶつける。
逃げ場がなくなり、素早く印を結び始めた。
土遁の術で逃げる気だ。
そう感じた角都は逃げられる前に縫い目から地怨虞を伸ばした。
印を結び終えるか、地怨虞で捕まえるかの勝負だ。
「角都ゥゥゥゥゥウウウ!!!」
ドシャ!!
「ぐは!?」
「!!」
角都を追おうと崖をゆっくりとおりていた途中で、足をかけた部分が崩れてしまい、飛段はそのまま落下し、賞金首の真上に落ちたのだった。
予想外のことに角都は間違って殺していないかと賞金首に駆け寄り、生死の確認をする。
賞金首は泡をふいてノビていた。
「あ、勝った☆」
飛段は賞金首にのったまま角都にピースを向ける。
「……………」
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