銀色の華

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あれから2時間が経過した。

日は沈みかけ、オレンジ色の空が徐々に黒に染まっていく。


角都は飛段と分かれた場所からまったく動かず、門から飛段が出てくるのをずっと待っていた。


(…まさか…、捕まったのか…)


角都の不安は募るばかりだ。


門から他の門番が出てきた。

どうやら、交代の時間のようだ。


「あの屋敷に、銀髪の女が連れて行かれたのを見た」

「やはりか」


「銀髪の女」とは飛段のことだとすぐに理解した。

最初の門番は、まるで飛段が連れて行かれることを知っていたような口ぶりだ。


「私も思わず見惚れてしまった。あれは主に気に入られるぞ」

「そして、もう2度と外に出ることは許されない」


その言葉に角都はわずかに動揺する。


(どういうことだ?)


門番に直接聞き出したいのを堪え、飛段の身を案じた。


「飛段…」


*****


飛段は2人組の女によって、屋敷の主の部屋の前まで連れて来られていた。

うちのひとりが部屋の扉を数回ノックする。

「どうぞ」の声が扉越しから聞こえ、扉を開けて中に入った。


「連れてきました、主」


部屋には小さな白いテーブル、ダブルベッド、色んな化粧が並ぶ化粧台などが置かれていた。

飛段の鼻には少しキツめのお香の匂いもする。

部屋の中心にあるテーブルの席には目標の賞金首が足を組んで座っていた。

長い髪は結われ、高級な着物を身に纏っている。

こちらに振り向き、飛段を一目見ると「あら」と笑みを浮かべて手を頬に当てた。

姿だけでも満足しているようだ。


「なかなか上玉ではないか」


席を立ち、飛段のアゴを指先で上げてじっくりと見つめる。

その背は飛段よりも少し高めである。

飛段は睨みながら、いつその心臓を貫いてやろうかと機会を窺った。

主は飛段の背後に立つ2人組の女に顔を上げ、声をかける。


「よくやった。下がってよい」

「「は…」」


2人組の女はすぐに部屋を出、ゆっくりと扉を閉めた。


部屋には、飛段と主の2人だけとなってしまう。

主の視線が再び飛段に向けられる。


「……………」


飛段が睨んでいると、主は小さく笑って言う。


「怖がることはない。これから1年、私の下で働いてもらうだけだ」

「い、1年!?」


飛段は驚いて声を上げた。


「私の部下達から話は聞かなかったのか? 年に一度、里の美しい女性をひとり選び、私の側近になってもらう」

「いやいや、オレ…、じゃなくて私、観光客だしィ!」

「ああ、そうなのか。…例外だが、仕方がない。私はおまえが一目で気に入った」


主の妖しげな笑みに、飛段は思わず寒気を覚えた。

あの目は同姓を見る目ではない。

次の一言でそれは確信される。


「当然、夜の相手もしてもらう」

「ハ、ハァ!? テメーは女だろうが!!」


飛段はすぐに主から離れ、扉に背中をぶつけてしまう。

ノブを回してみたが、向こう側から鍵がかけられていた。

主はクスクスと笑いながら飛段に近づき、その首筋を舐める。


「!! 離れろ!! やめ…っ!」


快感などまったくない気持ちの悪さに襲われた。

角都の顔が脳裏をよぎり、飛段は目の前の体を突き飛ばす。


「やめろって言ってんだろがァ!!」


主は尻餅をつき、目を見開いて険しい顔でこちらを睨みつける飛段を見上げていた。

飛段は着物の袖で舐められた部分を拭い、怒りで体を震わせながら怒鳴る。


「このアマ…、あったまおかしーんじゃねえの!? よく見ろ!」


飛段は両手で襟を乱暴に開き、自分の平らな胸を見せ、言葉を続けた。


「オレァ、男だ!!」


潜入が台無しになることはおかまいなしだ。


「…!!」

「ゲハハハ! ビビったか、このアマー!」


しかし、主は落胆する様子は見せず、クツクツと笑いだした。


「ふふっ。貴様も同類ではないか」

「あァ!?」


声を荒げる飛段に、主は飛段と同じように襟を開き、胸を見せた。


「!?」


それを見た飛段は言葉を失い、その平らな胸を凝視した。


「くくっ。そう、私は…」

「オカマだったのかよ!!?」

「……「男だったのか」と言ってほしかったのだが…」


頭の悪い飛段に主は調子が狂いそうになる。


「うるっせェー! なんで主が男なんだよ! 性別は女だって聞いてたのに!」

「…主は女だ」

「ハァ? だっておまえ…」


主は不気味な笑みを浮かべた。


「私は影武者だ。そして本物は、死んだ」

「し…、死んだ?」

「ああ、私が殺した」


同時に、主は印を結んだ。


印が結び終える前に、飛段は懐から杭を取り出して勢いよく投げた。

だが、主は顔を傾けて杭を避け、目標を失った杭は窓へ当たり、ガラスを割って床に転がった。


「!」


飛段の足下の床に浮き出た円が妖しく光り、飛段は金縛りのように動けなくなった。

倒れることもできない。


「ううぅ…!」


円からでようと脚や腕を動かそうと力むが、体が細かく震えるだけだった。

主は立ち上がり、飛段にゆっくりと近づく。


「ほう。頑張るじゃないか」


不気味な笑みを浮かべたまま、飛段のアゴをつかみ、じろじろとその顔を眺めた。


「おまえを殺す前にその体を楽しませてもらおうか」

「な…っ、て…め…、女にしか…」

「確かに性の対象は女だが、おまえのような美しい男を相手にするのもまた一興…」


頬を撫でられ、飛段は顔を逸らせようとしたが、それさえもできない。


「主というだけで好き放題ができる。美しい女を抱き、飽きれば捨てるだけ。おまえの場合、男であろうが1年以上は楽しめただろう」


主の手は飛段の頬から首へ、首から胸へと下へさがっていく。


「や…めろ…! 汚い手で触るな…!」


(角都…!)


「オレは…、角都のだァ!!」


ゴッ!!


「「!?」」


割れた窓から部屋へと飛び込んできた人影が、背後から主の頭をつかみ、床に叩きつけた。


「その通りだ。オレの所有物に触れるな」

「角都!」


その姿を見た飛段の顔がパッと明るくなった。

角都は飛段に近づき、円の前で立ち止まり、印を結んだ。


「解」


同時に円は消え、糸が切れたかのように飛段は解放され、あとから襲いかかってきた脱力感に倒れそうになり、角都の腕に支えられた。


「おまえ…、どうやって…」

「夜の闇に紛れ、圧害で飛んできた。おまえの居場所は、これで知れた」


角都が差し出したのは、飛段の杭だった。

「ガラスが割れる音に気付いた」と続ける。


「そ…っか…」

「こいつが賞金首か?」


背後でうつ伏せに倒れている主に目をやった。

飛段は小さく首を横に振る。


「違う…。本物は…、もう…」

「…ニセモノか」


その声は落ち着いていた。


「くくっ…、はははっ! 残念だったな…」


主は嘲笑の笑みを浮かべ、床から顔を上げた。

額と口端から血を流し、鼻血を手の甲で拭って言葉を続ける。


「そうか、おまえ達は賞金稼ぎか…。くくっ、滑稽だな。私を殺すか? 一文の価値もないがな!」

「てめ…っ!」


自分のことはいいが、角都のことまで嗤われるのは我慢ならない。

立ち上がろうとする飛段を優しく押さえ、「そうだな…」と呟くように言い、主を睨みつけて続けた。


「金にならなければ貴様に用はない。だが…、オレの連れの体に触れたなら話は別だ。その代償は高いぞ」

「…っ!」


その目を見た主の顔は恐怖で強張り、背筋を凍らせ、滝のような冷や汗を流した。


逃げる前に角都は地怨虞で右手を伸ばし、主の襟をつかんだ。


「貴様の贅沢はここまでだ」

「ひ…っ!」


角都の鋭い言葉とともに、そのまま勢いをつけて窓の外へと主を放り出した。


「うわあああああ!!」


主の声はだんだん里の中心へと降下し、ドスン、という音が聞こえた。

あとから、その付近にいる里の女達の悲鳴が聞こえる。

「男だ」「主が男になった」などと。


角都の右手に持っているものを見て、飛段は「あ」と声を漏らした。

角都の手には、主の服の一部が握られていたからだ。

角都はそれを捨て、飛段の背中をポンと叩いた。


「ここに用はない。行くぞ、飛段」


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