銀色の華
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから2時間が経過した。
日は沈みかけ、オレンジ色の空が徐々に黒に染まっていく。
角都は飛段と分かれた場所からまったく動かず、門から飛段が出てくるのをずっと待っていた。
(…まさか…、捕まったのか…)
角都の不安は募るばかりだ。
門から他の門番が出てきた。
どうやら、交代の時間のようだ。
「あの屋敷に、銀髪の女が連れて行かれたのを見た」
「やはりか」
「銀髪の女」とは飛段のことだとすぐに理解した。
最初の門番は、まるで飛段が連れて行かれることを知っていたような口ぶりだ。
「私も思わず見惚れてしまった。あれは主に気に入られるぞ」
「そして、もう2度と外に出ることは許されない」
その言葉に角都はわずかに動揺する。
(どういうことだ?)
門番に直接聞き出したいのを堪え、飛段の身を案じた。
「飛段…」
*****
飛段は2人組の女によって、屋敷の主の部屋の前まで連れて来られていた。
うちのひとりが部屋の扉を数回ノックする。
「どうぞ」の声が扉越しから聞こえ、扉を開けて中に入った。
「連れてきました、主」
部屋には小さな白いテーブル、ダブルベッド、色んな化粧が並ぶ化粧台などが置かれていた。
飛段の鼻には少しキツめのお香の匂いもする。
部屋の中心にあるテーブルの席には目標の賞金首が足を組んで座っていた。
長い髪は結われ、高級な着物を身に纏っている。
こちらに振り向き、飛段を一目見ると「あら」と笑みを浮かべて手を頬に当てた。
姿だけでも満足しているようだ。
「なかなか上玉ではないか」
席を立ち、飛段のアゴを指先で上げてじっくりと見つめる。
その背は飛段よりも少し高めである。
飛段は睨みながら、いつその心臓を貫いてやろうかと機会を窺った。
主は飛段の背後に立つ2人組の女に顔を上げ、声をかける。
「よくやった。下がってよい」
「「は…」」
2人組の女はすぐに部屋を出、ゆっくりと扉を閉めた。
部屋には、飛段と主の2人だけとなってしまう。
主の視線が再び飛段に向けられる。
「……………」
飛段が睨んでいると、主は小さく笑って言う。
「怖がることはない。これから1年、私の下で働いてもらうだけだ」
「い、1年!?」
飛段は驚いて声を上げた。
「私の部下達から話は聞かなかったのか? 年に一度、里の美しい女性をひとり選び、私の側近になってもらう」
「いやいや、オレ…、じゃなくて私、観光客だしィ!」
「ああ、そうなのか。…例外だが、仕方がない。私はおまえが一目で気に入った」
主の妖しげな笑みに、飛段は思わず寒気を覚えた。
あの目は同姓を見る目ではない。
次の一言でそれは確信される。
「当然、夜の相手もしてもらう」
「ハ、ハァ!? テメーは女だろうが!!」
飛段はすぐに主から離れ、扉に背中をぶつけてしまう。
ノブを回してみたが、向こう側から鍵がかけられていた。
主はクスクスと笑いながら飛段に近づき、その首筋を舐める。
「!! 離れろ!! やめ…っ!」
快感などまったくない気持ちの悪さに襲われた。
角都の顔が脳裏をよぎり、飛段は目の前の体を突き飛ばす。
「やめろって言ってんだろがァ!!」
主は尻餅をつき、目を見開いて険しい顔でこちらを睨みつける飛段を見上げていた。
飛段は着物の袖で舐められた部分を拭い、怒りで体を震わせながら怒鳴る。
「このアマ…、あったまおかしーんじゃねえの!? よく見ろ!」
飛段は両手で襟を乱暴に開き、自分の平らな胸を見せ、言葉を続けた。
「オレァ、男だ!!」
潜入が台無しになることはおかまいなしだ。
「…!!」
「ゲハハハ! ビビったか、このアマー!」
しかし、主は落胆する様子は見せず、クツクツと笑いだした。
「ふふっ。貴様も同類ではないか」
「あァ!?」
声を荒げる飛段に、主は飛段と同じように襟を開き、胸を見せた。
「!?」
それを見た飛段は言葉を失い、その平らな胸を凝視した。
「くくっ。そう、私は…」
「オカマだったのかよ!!?」
「……「男だったのか」と言ってほしかったのだが…」
頭の悪い飛段に主は調子が狂いそうになる。
「うるっせェー! なんで主が男なんだよ! 性別は女だって聞いてたのに!」
「…主は女だ」
「ハァ? だっておまえ…」
主は不気味な笑みを浮かべた。
「私は影武者だ。そして本物は、死んだ」
「し…、死んだ?」
「ああ、私が殺した」
同時に、主は印を結んだ。
印が結び終える前に、飛段は懐から杭を取り出して勢いよく投げた。
だが、主は顔を傾けて杭を避け、目標を失った杭は窓へ当たり、ガラスを割って床に転がった。
「!」
飛段の足下の床に浮き出た円が妖しく光り、飛段は金縛りのように動けなくなった。
倒れることもできない。
「ううぅ…!」
円からでようと脚や腕を動かそうと力むが、体が細かく震えるだけだった。
主は立ち上がり、飛段にゆっくりと近づく。
「ほう。頑張るじゃないか」
不気味な笑みを浮かべたまま、飛段のアゴをつかみ、じろじろとその顔を眺めた。
「おまえを殺す前にその体を楽しませてもらおうか」
「な…っ、て…め…、女にしか…」
「確かに性の対象は女だが、おまえのような美しい男を相手にするのもまた一興…」
頬を撫でられ、飛段は顔を逸らせようとしたが、それさえもできない。
「主というだけで好き放題ができる。美しい女を抱き、飽きれば捨てるだけ。おまえの場合、男であろうが1年以上は楽しめただろう」
主の手は飛段の頬から首へ、首から胸へと下へさがっていく。
「や…めろ…! 汚い手で触るな…!」
(角都…!)
「オレは…、角都のだァ!!」
ゴッ!!
「「!?」」
割れた窓から部屋へと飛び込んできた人影が、背後から主の頭をつかみ、床に叩きつけた。
「その通りだ。オレの所有物に触れるな」
「角都!」
その姿を見た飛段の顔がパッと明るくなった。
角都は飛段に近づき、円の前で立ち止まり、印を結んだ。
「解」
同時に円は消え、糸が切れたかのように飛段は解放され、あとから襲いかかってきた脱力感に倒れそうになり、角都の腕に支えられた。
「おまえ…、どうやって…」
「夜の闇に紛れ、圧害で飛んできた。おまえの居場所は、これで知れた」
角都が差し出したのは、飛段の杭だった。
「ガラスが割れる音に気付いた」と続ける。
「そ…っか…」
「こいつが賞金首か?」
背後でうつ伏せに倒れている主に目をやった。
飛段は小さく首を横に振る。
「違う…。本物は…、もう…」
「…ニセモノか」
その声は落ち着いていた。
「くくっ…、はははっ! 残念だったな…」
主は嘲笑の笑みを浮かべ、床から顔を上げた。
額と口端から血を流し、鼻血を手の甲で拭って言葉を続ける。
「そうか、おまえ達は賞金稼ぎか…。くくっ、滑稽だな。私を殺すか? 一文の価値もないがな!」
「てめ…っ!」
自分のことはいいが、角都のことまで嗤われるのは我慢ならない。
立ち上がろうとする飛段を優しく押さえ、「そうだな…」と呟くように言い、主を睨みつけて続けた。
「金にならなければ貴様に用はない。だが…、オレの連れの体に触れたなら話は別だ。その代償は高いぞ」
「…っ!」
その目を見た主の顔は恐怖で強張り、背筋を凍らせ、滝のような冷や汗を流した。
逃げる前に角都は地怨虞で右手を伸ばし、主の襟をつかんだ。
「貴様の贅沢はここまでだ」
「ひ…っ!」
角都の鋭い言葉とともに、そのまま勢いをつけて窓の外へと主を放り出した。
「うわあああああ!!」
主の声はだんだん里の中心へと降下し、ドスン、という音が聞こえた。
あとから、その付近にいる里の女達の悲鳴が聞こえる。
「男だ」「主が男になった」などと。
角都の右手に持っているものを見て、飛段は「あ」と声を漏らした。
角都の手には、主の服の一部が握られていたからだ。
角都はそれを捨て、飛段の背中をポンと叩いた。
「ここに用はない。行くぞ、飛段」
.