銀色の華
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
着付け屋で、角都は黄色のカーテンの向こうで着付けをしてもらっている飛段を待っていた。
最初は、男に女物の着物を着付けろと言われて大変驚いた店員だったが、飛段を着付けていくうちにだんだんノッてきた。
普段の着付けよりも楽しそうだ。
「イデデテテテ!!」
帯をきつく締められ、飛段は耐えずに叫ぶ。
それからしばらくして、カーテンが開けられた。
「ふぅ。終わりましたよ」
店員は額の汗を白いハンカチで拭いながら言った。
その顔はやりきった感に溢れている。
向こうから飛段が出てきた。
それを見た客と他の店員は釘づけになった。
開けられたカーテンから出てきた飛段の姿は、白の布地に桜の花が散りばめられた着物を着、顔には薄化粧が塗られ、オールバックは下ろされいた。
男だと一発でバレることは、まず、ない。
「ほお。似合ってるじゃないか」
角都も感心するほどだ。
店員に手鏡を渡され、飛段は己の姿を見て、頬を染め、笑みを浮かべた。
「わぁっ、オレって超キレーv って喜ぶと思ったかコノヤロォォォ!!」
パリィン!
怒りに任せて手鏡を床に叩きつけた。
「似合わんと言われるよりいいだろう」
「どうでもいいしィ!! なんでオレが女装しなきゃなんねーんだよ!!」
「己が言いだしたことには責任を持て」
「オレ自身が女装やるなんて一言も口にしてねーし!!」
「いい案が浮かんだきっかけだ。褒めてやる」
そう言いながら角都は飛段の頭を撫でる。
飛段は一瞬嬉しそうな顔したが、すぐにまた険しい顔に戻った。
「ざけんなジジィ!! 自分がやればいいだろ自分がやれば!!」
185cmの角都にムリな注文だ。
ガタイも良すぎる。
しかし角都は飛段の頭を撫でる手を止め、諦めるように声を落として言った。
「……そうか…。それなら…、オレが…」
「やらせて!! オレ超やりたい!!!」
カーテンの向こうへ行こうとする角都を飛段は必死で阻止した。
角都のマスクの下がほくそ笑んでいたこととは知らず。
着付け屋から出て町を歩けば、飛段は注目の的だった。
通行人達はすれ違う際、必ず飛段を見ている。
チラ見10両で大儲けできそうだ。
(やりすぎたか…)
姿は町娘だが、町娘は町娘でも、先頭に村一番が付くだろう。
*****
百合の里付近の茂みから角都と飛段は門を窺った。
あの門番は石のように動かずにそこにいた。
「おまえは一度見られているから心配だ。なにかあったらすぐに逃げろ」
飛段だとバレないように、仕方なく大鎌を預かることにした。
伸縮式の杭だけでは心配だ。
「心配してくれんのかァ、角都ゥv」
その笑顔に角都は押し倒したい衝動を抑えた。
女装した飛段は、男の時とは違った色気がある。
「……いいか、2時間以内に帰ってこい」
「はいはい」
「気を抜くな、死ぬぞ」
「だから、それをオレに言うかよ、角都」
お決まりのセリフを交わしたあと、飛段は茂みから出て堂々と門へと向かった。
門番は飛段の方に顔を向け、そのまま凝視する。
早くも飛段の額から冷や汗が浮き出た。
それでも、意を決して門番に話しかける。
「え…と…、ここ、百合の里?」
まるで初めて来たような言い方だ。
はっとした門番はどもりながら答える。
「え…、ええ、か…、観光ですか?」
どうやら見惚れていただけだった。
「そ、そう。オレ…、じゃなくて、私、女ばっかりの里があるって聞いて…」
その様子を見ている角都は頭を抱えたくなった。
(声をもっと高くしろ。それと、もっと女らしくできんのか、あのバカは)
飛段はそわそわと落ち着きがない。
しかし、声が低いからといって門番はまったく気にすることなく「どうぞ」と言って飛段を門の向こうへと通した。
「あ…、ありが…とう…」
ぎこちない礼を言って門を潜っていく。
「今年は、あなたかもね」
門番の呟きを飛段はうまく聞きとることができなかった。
くの一アカデミー、女子寮、女湯、女子トイレ。
門の先を見た飛段の脳裏にそんな単語がよぎった。
まさに未知の世界だ。
周りは女、女、とにかく女ばかり。
男の姿は一人も見かけない。
「うわぁ、マジで女ばっかだ…」
飛段は泣きたくなった。
しかし、泣きつきたい相方は里の外にいる。
「あのコ、キレー」
背後からそんな声が聞こえ、振り返ってみると数人に固まっている女子がこちらを見てヒソヒソと声を潜めて話していた。
あの女子達だけではなく、他の里の者もなにやら飛段を見て「キレー」や「カワイイ」と話している。
「…オレが?」
暁の中で、デイダラやイタチやサソリのような綺麗ものに入ることを自覚していない。
「キレー」や「カワイイ」などと言われてもピンとこない。
角都からはあまり言われたことがないからだ。
(オレ、女だったらよかったのに…)
落ち込んでしまう。
その時、腹の虫が、グゥ、と鳴った。
肩を落とし、腹に手を当てる。
「腹減った…」
わずかな小遣いで美肌饅頭というものを買い、歩きながら遅れた昼食を摂った。
「うまっ!」
しかも、コラーゲンたっぷりだ。
「角都にも食わせてやりてーなぁ…」
最後の一口を食べ、モゴモゴと口を動かしながら、里の奥にあった目の前の屋敷を見上げる。
「んー…、どうやって入るか…」
さすがに堂々と入るのはマズいだろう、と思った飛段は裏に回ろうとした。
「屋敷になにか用か?」
「!」
背後から声をかけられて振り返ると、すぐ後ろに2人組の女が飛段を見上げていた。
「あ…、と…」
飛段がなにか言い訳を考えたとき、2人組の女は驚いた表情を浮かべ、なにやら小声で話し始めた。
「おい、どうだ」
「やや背は高いが、上玉だ」
うちのひとりがいきなり飛段の胸に手を置いた。
「!?」
驚いた飛段は思わず仰け反る。
「ふむ。胸も貧しい…。だが、顔でなんとかなるだろう」
「な…、なんだよ」
触ったのは女だが、軽くショックを受けた。
構わず2人組の女は話を続ける。
「おまえ、村の者か?」
「や…。ただの観光客…」
「ただの」部分を強調した。
「一人か?」
「そ…だけど…」
それを聞いた2人組の女は顔を見合わせ、妖しげな笑みを浮かべて声を揃える。
「「それは都合がいい」」
同時に、ひとりは飛段の右腕、もうひとりは飛段の左腕をつかんだ。
「なんだよォ!?」
そのまま、飛段はかかとを引きずりながら連れて行かれてしまった。
.