ご主人様はオレのもの
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オレが角都のとこに来て早くも1週間が経過しようとしていた。
毎日朝昼晩は散歩につれてってくれるし、クシで毛並を整えてくれるし、ごはんはウィンナーやハムをくれるし、風呂も毎日入れてくれるし、一緒に寝てくれる。
なんて充実した毎日なんだ。
この1週間で角都のことでわかったことと言えば、角都は大学生で、近くの暁大学ってところに通っているらしい。
高校の上って聞いたことある。
高校ってとこもどういうとこか知らねえけど。
あと、優しいだけじゃなくて、オレが勝手にエサとか漁ってたらちゃんと叱ってくれる。
軽く叩くか、注意するか。
それでも、一緒に寝ることは許してくれる。
「角都まだかな。まだかな。まだかなァ」
リビングをウロウロ歩きまわっても、ゴロゴロ寝転がっても、角都はまだ帰ってこない。
大学がちょっと憎い。
外から階段を上がる音が聞こえる。
この靴音は間違いない。
オレは突撃準備にかかった。
靴音が部屋の前で止まり、鍵が開けられ、扉が開かれる。
同時にオレは突撃した。
「角都ゥゥゥゥ!!☆」
「!!」
「おかえりィィィィ!!」
角都の胸に飛びつき、顔を擦り寄せて甘えるオレ。
「飛段、全力で飛びかかってくれるな…」
衝撃で角都は軽く噎せた。
「おまえが遅いのが悪いんだ、バーカァv」
スリスリ。
「んん!?」
オレの知らない匂いがする。
香水みたいな。
この濃さは密着しないとつかない。
「まさか…! 浮気!!?」
頭に“うわき”という文字が直撃する。
「どうした?」
角都はショックを受けて茫然としているオレを心配した。
「角都! オレに内緒でどこぞの女とイチャイチャしてたのかァ!?」
「なにを怒っている?」
「とぼけんなァ!!」
「…ああ、腹が減ったのか」
「違―――う!」
こんなに人間の言葉が喋れればと思ったことはない。
角都にひっつく図々しい女、絶対つきとめてその顔ズタボロにしてやる!!
嫉妬に燃えるペットは恐ろしいんだぜェ!!
翌日の昼、午後から講義があるから角都は準備を終え、外へ出る前に玄関に座るオレに声をかけた。
「それじゃあ行ってくる。冷蔵庫の中、また勝手に漁るなよ」
「おゥ。行ってらっしゃーい」
扉が閉まり、聞きなれた靴音が1階に下りると同時にオレは目をギラリと光らせた。
「いつもオレがいいコちゃんでいると思ったかァ、かぁくずゥ☆」
オレはリビングへと走り、ベランダの窓と向き合った。
勢いをつけ、何度もジャンプし、窓の鍵を開け、あとは力任せに窓を開けて外へと出た。
なんだか雨が降りそうな曇り空だ。
2階から飛び降りて塀の上へとうまく着地、できるわけがなかった。
バランスを崩し、歩道に落ちてしまう。
「うぐっ」
腹と顔面を打ってしまったが、すぐに起き上がって角都のあとを追った。
角都の大学は窓からでも見えるほど近い場所にあった。
徒歩で5分くらいだ。
「あ! しまったァ!」
行き帰りする大学生が通るせいで角都を見失ってしまった。
急いで正門を通り、キョロキョロと見回すが見慣れた背中はどこにも見当たらない。
あいつけっこうデカいのに。
「角都ゥー! 角都ゥー!」
尾行していることを忘れ、焦って角都の名を呼んだが、角都は来てくれない。
代わりに、
「キャー! カワイイ!」
「なになに!? ネコ!? イヌ!?」
「野良かしら!?」
女子の集団に囲まれた。
「どいてくれェ!!」
*****
もみくちゃにされて酷い目に遭った。
隙を見て逃げ出したオレは、大学内の庭をウロウロとする。
「女怖ェ…」
フラフラとした足どりで校舎へ向かっていると、
「!」
ポツポツと雨が降ってきた。
だんだん強まってくる。
「マジかよォ…」
濡れたままで家に帰ったら角都に怪しまれる。
ていうか、怒られる。
このまま迷子になった挙句帰ってしまうのはカッコがつかない。
せめて角都にくっついた女が誰なのかはっきりさせてから帰りたい。
美人だったらどうしよう…。
オレはオスだし、つうかペットだし、勝ち目ねえかも。
冷たい雨に打たれてるだけでこんなネガティブになっちまう。
鐘の音が聞こえ、次に校舎からガタガタという音が聞こえた。
2階の方か。
校舎近くの木に登り、2階の窓を窺うと、何十人かの大学生が席を立ったり、友達同士で話し合ったり、教室から出たり入ったりしているのが見えた。
「!!」
そんな中、前から3列目の席に角都が座っているのを発見した。
長い机に並べた教科書やノートなどをカバンにしまっている。
「角都!」
声を上げたが、当然角都はこちらに気付かない。
立ち上がろうとした角都に、友人なのか、赤毛の男が声をかけた。
なにやら話している。
オレは気になって耳を澄ませた。
「なんだ、サソリ」
「角都、夜ヒマだったら付き合わねえか?」
「悪いが、夜はダメだ。ペットを飼っているからな。放っておくと拗ねる」
「ああ、そういや、最近飼い始めたとか言ってたな。ペット欲しいってツラでもねえだろ」
「…別に…、ペットを飼いたかったわけじゃない」
「ああ? 欲しくもねえのに飼ったのか? 押しつけられたわけじゃねえんだろ?」
「……あのペットショップを通りかかると、窓側のケージにいたりいなかったりがよくあって、少し気になっていた。話に聞けば、飼われては返却を繰り返されていたそうだ。…この前、また返却されていたから、思い切って……」
「自分で飼うことにしたのか」
全然知らなかった。
ずっと前から角都はオレのことを見ていてくれたんだ。
薄笑みを浮かべた角都を見て、オレは泣きそうになった。
いや、もうボロ泣きだ。
「か…、角都ゥ~」
今すぐあの胸に飛びつきたい。
「おまえもペットを飼っていたじゃないか。…デイダラ…だったか? そいつの世話はいいのか?」
「世話っつうか、出かける時とか連れまわしてるぜ。あいつも素直に待てるペットじゃなくてなぁ…」
そんな会話を背に、いてもたってもいられなくなったオレは木から飛び降り、また顔面を打ち、それでも立ち上がって校舎の出入り口を捜して忍びこんで角都の教室へとダッシュする。
「角都! 角都!」
階段を駆け上がって2階へと到達したとき、
「キャッ!」
「うぉ!?」
女の足にぶつかって、危うく階段を転げ落ちるところだった。
不意に、角都の服についていた匂いと重なり、はっと顔を上げた。
「!!」
「!? ちょっと…、なんでここにいるのよ!?」
そいつは、前のご主人だった。
前のご主人である女は、汚らしいものでも見るような顔でオレを見下ろし、手をしっしっと振っている。
「店に返却したはずなのに!」
オレは牙を剥き、威嚇する。
「どけよ! テメーに用はねえ!!」
散々オレを殺そうとした性格ブスのクセに。
こんな奴が角都と密着していたなんて考えられない。
考えたくない。
「あっち行きなさいよ!」
そうはいかない。
オレは今すぐ角都に会いたいんだ。
「そこをどけよ!」
「言うこときかないと、また殺すわよ!!」
「!」
女の足がこちらに迫ってきた。
当たれば間違いなく階段から落とされる。
死なないけど。
「なんだ、騒々しい」
その声に女の足が止まった。
オレと女はそちらに顔を向ける。
曲がり角から出てきたのは、角都だった。
「角都君!」
「!!」
急にぶりっこぶって角都の背中に隠れやがった。
マジ本気殺してやりたい。
角都はオレを見て、目を丸くした。
「…飛段?」
それを聞いた女は「え?」と片眉を吊り上げる。
「…もしかして…、角都君、飼ってるの?」
「ああ。オレのペットだ。…放してくれ」
背中にしがみつく女の手を外し、角都はこっちに来てくれる。
「角都…」
これが優越感というものなんだろう。
オレが笑みを浮かべたとき、角都が自分よりオレを選んだのが気に食わなかったのか、女は笑みを引きつらせながら冷たい言葉を発した。
「私も前にそのコを飼ってたわ…」
それに角都は足を止め、オレは顔を強張らせ、体を石のように硬直した。
「やめろ…、なに言う気だよ…」
冷たい汗を流すオレをよそに、女は容赦なく言葉を続ける。
「そのコは、食事を1週間与えなくても…」
「せっかくオレの居場所を見つけたんだ…」
「水に沈めても…」
「なんで壊そうとすんだよ…」
「車で轢いても…」
「やめろよ…、やめろォ!!」
「死なないのよ、そいつは!!」
まるで「死刑」と宣告されるように指をさされた。
居心地の悪い沈黙が流れる。
角都の顔を見るのが怖い。
軽蔑しているのか、悪い意味の好奇心を持ってしまったのか。
どちらにしろ、もう一緒に風呂に入ることも寝ることもできない。
そんなの、考えただけで耐えられない。
やっと、オレにとっての「最高のご主人」を見つけたと思ったのに。
雨音だけの静かな空間を壊したのは、角都の言葉だった。
「……だから?」
オレと女は唖然とする。
思わず角都の顔を見たが、いつもと変わらず平然としていた。
「だ…、だから…」
予想外の反応に女は明らかに動揺している。
肩越しに女を見る角都の目付きが鋭くなった。
「飛段が貴様に危害を加えたか?」
その目を見た女はビクリと体を震わせ、口を噤んだ。
角都は容赦なく続ける。
「むしろ逆だろう。 食事を与えなかった? 沈めた? 轢いた? 随分な可愛がり方だな」
軽蔑の目は、オレではなく、女に向けられている。
「あ…」
こちらに近づき、雨と泥で汚れたオレを優しく抱き上げてくれた。
「帰ったら風呂だな。仕方のない奴だ…」
女に向けたのとは違う優しい声色で言われ、オレはまた泣きそうになって遠慮なく角都の胸に顔を擦りつけた。
「き…、気味悪くないの!?」
女は虚しい抵抗を続ける。
それが角都のトドメの言葉を吐かせるとも知らずに。
「飛段(こいつ)を気味悪く思う貴様の方が、気味悪い」
女はもうなにも言い返さなかった。
角都はそのまま階段を下り、オレを抱えたまま1階の廊下を渡っていく。
「よ…、よかったのか?」
オレは角都の顔を窺った。
それに気付いた角都は薄笑みを浮かべて言う。
「なんだ? あの女か? 以前からベタベタくっついてくるから、鬱陶しいと思っていた」
「そ…、そっか…」
オレは角都がなんとも思ってないことにホッとして、再びその身を角都に預けた。
それがおかしかったのか、角都はふっと笑い、こう続けた。
「おまえが一番かわいい」
途端に、オレの顔からボッと火が出た。
オレも角都が一番だぜェ
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