ご主人様はオレのもの
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ケージの中から見る世界は同じようでそうじゃない。
違う人間が何人も何十人も何百人も通過するし、天気だって晴れだったり雨だったり曇りだったり色々だ。
でも、見てるだけじゃ、やっぱり退屈。
何度このケージの中に戻ってきたことか。
戻るたびにオレは成長してるから、最初は広かったケージも今は窮屈さを感じる。
せめて、窓側じゃなくて、出入り口付近にある大きなケージの中に入れてくれ。
「わー、カワイイ!」
女の子が目を輝かせながらショーウィンドウに近づき、オレをじっと見つめる。
「ママー、このコ欲しいー」
「ダメよ。うちはペットなんて飼えないんだから」
親と子のお決まりの会話だ。
大体、オレを飼っても、ちゃんと最後まで面倒見る自信があるのかよ。
オレを飼う奴らは、最初は「カワイイ」とか言っておきながら、あとから面倒になって放置した挙句、返却するんだ。
1週間餌も与えられずに放置された時は死ぬかと思った。
心が。
オレは犬か猫かもわからない動物で、車に轢かれても、エサを与えられなくても死なない。
オレが返却されるのは、そういう理由も含まれている。
「カワイイ」が「気味悪い」になってしまう。
ペットショップの店員も、そう思ってるに違いない。
ちゃんと風呂に入れてくれたこともない。
目の前のガラスに映る自分の姿を見た。
銀色の毛並、細長い尻尾、ピコピコ動く耳、ピンクの瞳。
「飼いたい」っていう奴はほとんどコレにつられる。
他のペットにはないものもあるからな。
あとで気味悪がられるなら、もう少しブサイクでもよかった。
「……寝よ…」
気分が沈み、せめて夢では良いもの見ようと丸くなろうとしたとき、ふと、視線を感じ、ガラスの方を見た。
「!!」
ビクゥッ!!
赤と緑の目の男がこちらをじっと見つめていた。
女子供に見られることはいっぱいあったが、男は初めてだ。
おいおい、しかもガン見だぜ。
「なんだおまえェ!」
オレの言葉は人間にはわからない。
だから露骨に警戒してやった。
それを見た男は、通り過ぎたかと思いきや、流れるようにペットショップの中へと入ってきた。
窓からレジへと振り返り、男と店員がなにやら話しているのが見えた。
「あいつを飼いたい」
嫌な予感がした。
「オレじゃないオレじゃない」
店員が近づき、ケージごとオレをレジへと運んだ。
「こちらでございますね?」
オレはフルフルと首を横に振る。
「違う違う、オレじゃない」
「ああ」
「ゲハ―――!?」
オレを確認した男は満足げに頷いた。
「ちょっと待て! ペット飼いたいってツラか!?」
クセになった眉間の皺といい、ペット虐待しますってツラだ。
「カゴに移し替えますね」
店員が犬猫用のケージを持ってこようとしたとき、男はそれを止めた。
「いや、このまま連れて帰る」
「!」
カゴもなしに連れてかれるのも初めてだ。
男の大きな手がオレの体を抱き上げ、料金を払ってそのままペットショップを出る。
背後から「ありがとうございました」と店員の声を聞いた。
「残念だったな、オッサン。オレはこのままトンズラさせてもらうぜェ♪」
どうせこいつも、他の奴らと一緒だ。
適当な育て方してペットショップに返却するに決まってんだ。
それなら、野良として生きる方を選ぶ。
いざ男の腕から飛び降りようとしたとき、寒風が吹き、オレの体を震わせた。
「うわっ、さぶいっ」
思わず身を縮こませる。
そういや、今はまだ冬だった。
「冷えるな…」
男は自分の首に巻いた黒いマフラーを解き、それをオレに包ませた。
先程まで男が巻いていたから、あったかい。
「温かいか?」
オレを見下ろす男の顔に優しい薄笑みが浮かんだ。
「!!!!??」
心臓超バクバク。
オレの顔は耳まで真っ赤。
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