ボヤージュ
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レンガの壁の大きな病室で、飛段は白いソファーに座り、目の前の開け放たれた窓の向こうを茫然と眺めていた。
柵が邪魔で、向こうの青空がちゃんと見えない。
飛段は精神病院に入院していた。
先程、自分の病室からこの病室に移されたところだ。
ベッドはなく、白いソファーしかなかった。
柵をすり抜けて入ってくる風は、白いカーテンを揺らしていた。
窓を見つめながら、閉ざされた扉の向こうから近づいてくる足音に耳を澄ませる。
扉が開かれ、そちらに視線を移した。
眼鏡をかけた医師と数人の看護師達が部屋に入ってくるのを確認したあと、再び視線を窓へと移す。
「調子はどうですか?」
「相変わらずです」
医師の質問に、飛段は答えた。
「よく眠れますか?」
「いえ…」
医師は飛段の横を通過し、質問を続ける。
「眠れないんですか?」
「眠るのが…、怖いんです」
「怖い?」
医師は飛段に振り返り、尋ねた。
「夢を見るんです…」
同時に、飛段の脳裏に身に覚えのない記憶がよぎった。
切り取られて繋げられたかのような場面がビデオの早送りのように、飛段の頭の中を流れていく。
不気味な笑い声を上げながら三連鎌を振り回す自分、
人を次々と殺していく自分、
骸骨のような姿になる自分、
刀で刺されようが岩で潰されようが生きている自分、
穴の中に埋められる自分…。
そして、常にそんな自分の隣にいた存在が浮かんだとき、
「うあああああああ!!」
飛段は狂ったような叫びを上げながら、弾かれるようにソファーから立ち上がって窓へと走った。
そんな飛段を看護師達が数人がかりでソファーへと引き戻し、抑えつけた。
それでも飛段は叫び暴れ続ける。
医師は看護師のひとりに視線を送った。
その看護師は、用意していた注射器を取り出し、暴れる飛段の左腕に針を刺して薬を注入した。
飛段は目をカッと開いたあと動きを止めた。
ゆっくりと呼吸を繰り返して背もたれに背を預ける。
そして、意識が薄らいでいくのを覚えた。
医師は看護師から細い管が何本もついてある白い仮面のようなものを渡され、それを飛段の顔に被せた。
「そういえば…」と眠りに落ちる前に飛段はこの部屋に来る前のことを思い出していた。
自分の病室からこの病室に移される間、飛段はある男に出会っていた。
病室から出て普通の廊下の奥には扉があった。
その扉の先には、また廊下がある。
右側には、精神患者を入れておくための檻があった。
まるで刑務所だ。
その廊下の奥の扉の先が、飛段が移される部屋がある。
右側に檻がある廊下へと続く扉が開かれ、飛段は渡って行く。
背後には、2人の男性看護師がいた。
見張りと言ってもいい。
右に振り向くと、檻の中に男がひとりいた。
その男と目が合った。
体はツギハギだらけで、白目の部分が赤、黒目の部分が緑という不気味な目をしていた。
しかし、飛段は不思議とそれを恐ろしいとは思わなかった。
そのまま通過しようとしたとき、飛段ははっとした。
振り返って2人の看護師を押し退け、男が入れられている檻にしがみついて叫ぶ。
「オレ、あんたのこと知ってる!!」
男は驚いた顔をした。
構わず、飛段は嬉しそうな笑みを浮かべながら叫び続ける。
「会いたかった!! ずっと!!」
檻の間に腕を入れ、男に手を伸ばした。
男は、その手をつかむべきかと戸惑う。
「か…!」
「離れなさい!」
その男の名前が飛段の口からついて出る前に、2人の看護師が飛段を檻から引き剥がした。
そのまま引きずられるように連れて行かれる。
それでも、部屋に入るまで飛段の目は男から離れなかった。
男も、飛段から目を離さなかった。
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