リクエスト:名を呼ぶ光
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どれくらい進んだだろうか。
右へ曲がり、左へ曲がり、また右へ曲がり。
角都の代わりに松明を持つイヅナの腕もそろそろ痺れてきた頃だ。
「ねえ…、迷って…ないよね…?」
「不安なら戻れ」
今更戻れるわけがない。
もう来た道を忘れてしまっているのだから。
角都から離れてしまえば、確実に迷ってしまい、2度と出られなくなるかもしれない。
イヅナは早歩きで角都のあとをついていった。
「…着いたぞ」
「!?」
入口が見えた。
ほのかに明かりが見える。
「外!」
イヅナはふっと息を吹きかけて松明の火を消し、角都の横を通過し、外へと出る。
崖の洞窟から雑木林に出、その向こうには立ち並ぶ屋台や人の気配があった。
おまつりでもやっているのかと思いきや、
「! なに…ここ…」
そこは市場だった。
周りは高い崖に囲まれている。
通行人のほとんどはガラの悪そうな輩ばかりだ。
「ここは…」
イヅナは角都の外套に潜りこんで隠れ、裾から市場の様子を窺った。
「…ここは非合法市場だ。本来なら売ることを禁止されているものも売ってある。普通の市場よりはなんでもそろっているな」
「た…、確かに…、ここなら…、ヤコがいるかも…」
「そいつを捜しにきたのだろう。オレの左脚にしがみついていては捜せないぞ」
それでも角都は重みを感じないかのようにスタスタと歩いている。
イヅナも体のサイズのおかげか、しがみついているのは苦ではなさそうだ。
「ど…、どうせオレっちと目的は同じだろ? それに、角都はデカいから、オレっちより捜しやすそうだ」
角都の度胸と身長が羨ましいようだ。
角都は振りほどこうとはせず、ただ鼻で笑っただけだった。
通行人のほとんどが角都がおぶっている飛段を不思議そうに見る。
さすがにこれでは目立つか、と思った角都は近くの宿で飛段を預けることにした。
宿の主人に金を渡し、脅しも入れ、誰も部屋に近づけさせないようにする。
一応、傍には圧害と頭刻苦をつけておいた。
この場所で、ひとりきりにするわけにはいかないからだ。
ここでは、誘拐されて売り物にされても仕方ないのだ、飛段のあの容姿では。
宿をあとにした角都は、人込みの中を歩き、市場の者や通行人に聞きながら、情報を集めた。
イヅナは角都の右肩に乗り、少しその高さを楽しんでいる。
「飛段はとりあえず安心だけど、いい情報が集まらない」
「元々は貴様の任務だろう。オレばかりに任せるな。追跡の術は持ち合わせていないのか」
落ち込んだのか、イヅナの耳がしゅんと垂れる。
「オレっち…、そんな大層な術持ってないんだ…。任務に出たのはいいけど、仲間とはぐれちゃうし…、ヤコを見つけてラッキーと思ってたら、ケガ負っちゃうし…」
ああ、だからケガしていたのか。
角都はケガの原因を知った。
「…だから、オレっち、いつまで経っても仲間から落ちこぼれ呼ばわりだし…」
弱気なイヅナに苛立ち、角都はイヅナの首をつかんで目を合わせた。
「いいか。そうくよくよ悩むくらいなら、落ちこぼれと呼ばれないようにしっかりとヤコを探せ。飛段のためにもだ」
「う…、うん! そのつもりだ!」
イヅナは小さな手でガッツポーズをとり、右肩に戻された。
単純なところがどこかの馬鹿と似ていて、角都はどこか憎めずにいる。
「そこの旦那」
急に後ろから声をかけられ、振り返ると、手を擦りながらニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる中年の男がいた。
「旦那、いいキツネをお持ちで。…それ…、いくらで売ってもらえます?」
「!!!」
イヅナは真っ青になって叫びそうになったが、その口を角都の指に挟まれて黙らされる。
「こいつの貰い手はもう決まっている。遅かったな」
そう言って足早にそこを立ち去る。
「び…、びっくりした…」
「ここの奴らは珍しいものはなんでも売ろうとする。貴様は気付かなかったかもしれんが、他の商人にも狙われているぞ」
イヅナは慌てて角都の首に巻きつき、角都の私物と見せかけるためにマフラーのマネをする。
「オレの今の格好と不釣り合いだろう」
「……あ、そうだ」
少し考え込んだイヅナは、ぱっと顔を明るくさせ、どこからか一枚の木の葉を取り出して頭に載せ、角都の肩から飛び下りると同時にくるりと宙返りした。
ボンッ、と煙が発生し、そこから飛段が出てきた。
「!」
「えへへー。オレっち、化けるの得意なんだァ。まあ、忍狐だと出来て当然の術だけど…」
声も飛段とそっくりだった。
へらっと笑ったとき、頭からキツネの耳、尻からキツネの尻尾が生えてしまい、イヅナは慌てて尻尾を両手でつかんだ。
「うわっ。もう…、気が抜けるとすぐこれが…」
角都は思わず両手で頭に生えたキツネ耳を押さえつけた。
突然の行動に、イヅナは首を傾げる。
「…角都?」
「変えろ…」
「へ?」
「今すぐ別の生き物に変えろ!!」
今日一番の迫力に、すっかり怯えきった「はい…」と震えた声を出して頷いた。
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