リクエスト:名を呼ぶ光
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「…なんだそれは…」
「小便してくる」と言って山道から外れた飛段を待つこと数分、飛段は黄色いフワフワした毛並の生き物を抱えて戻ってきた。
「……キツネ…」
角都の顔色をうかがいながら、飛段は小さく答えた。
子ぎつねは飛段の腕の中でぐったりとしている。
衰弱しているのか、呼吸も弱い。
「キツネ…」
飛段の言葉を復唱し、角都は眉間に皺を寄せた。
「捨ててしまえ」というのは簡単だが、飛段はそれを許さないだろう。
長年コンビを組んできているため、飛段の行動は大体わかる。
「…見せてみろ」
飛段は抱えた子ぎつねを角都にそっと手渡し、角都を信じてその様子を見守ることにする。
道の端に移動した角都はその場にしゃがみ、子ぎつねの容体を診る。
飛段は角都の後ろで前かがみになってのぞきこむ。
「…怪我をしているな」
子ぎつねは左後ろ脚に傷を負っていた。
罠にハマったのか、猟師にやられたのか。
角都はまず、竹の水筒に入った水で傷を洗い、腕の縫い目から出した地怨虞で傷口を縫っていく。
飛段の場合、これで治療は終わりになるが、今回は自動的に回復しない生き物だ。
「…これを使うのも久しぶりだな」
角都は右手を子ぎつねにかざし、チャクラを送り込んで回復させる。
そして、子ぎつねが目を覚ました。
顔をあげ、角都と飛段を不思議そうに見つめる。
「よかったなァ、おまえ」
飛段は嬉しそうな顔で手を伸ばし、子ぎつねの頭を優しく撫でる。
「角都もありがとなァ」
「造作もないことだ」
慎重な作業だったが、角都は強がる。
「もう少し休んでおけば、じきに動けるはずだ」
飛段は子ぎつねを抱え、まず人に見つかることはないだろう茂みの陰に子ぎつねを下ろした。
「角都に感謝しろよ」
そう言って再び子ぎつねの頭を撫で、飛段は山道で待っているだろう角都のもとへと走った。
子ぎつねは去っていくその背中をじっと見つめていた。
しばらくして、角都の予想よりも早く雨が降り出した。
町まではまだまだかかるため、とりあえず近くの大きな木で雨宿りをする。
2人は肩を寄せ合って木に背をもたせかけて座った。
雨脚は徐々に強まっていく。
「あいつ大丈夫かな…」
ふと、雨雲に顔を上げる飛段は置いてきた子ぎつねの心配をした。
「もう動き出してもいいころだろう」
角都は苛立ちを隠してそう言った。
たかが子ぎつねになにを嫉妬しているのだろう、と自分を小さく罵る。
「今日はここで野宿かァ…」
「そうだな」と言いかけた角都だったが、あることを思い出した。
「…近辺に、たしか、洞窟があったはずだ。野宿ならそこにかぎる」
「おお、やっぱり詳しいなァ、角都。よっしゃ! 行ってみようぜ!」
飛段は立ち上がり、大きな一歩を踏み出した。
バシャッ、とそこにあった水たまりを踏んでしまい、勢いよく飛んだ茶色の濁った水飛沫は、飛段の足を汚すだけでなく、立ち上がろうとした角都の顔にかかってしまった。
「あ…」
「……………」
反射的に目を閉じた角都の顔と、白い頭巾は水と泥で汚れ、角都は片膝を立てたまま動きを止め、黙ったまま右手で目のあたりを拭い、目をカッと開いた。
「ひ…!」
飛段は逃げようとしたが、それよりも早く地怨虞で伸ばされた右手に顔面をつかまれ、そのまま足下の水たまりに顔面を叩きつけられた。
水と泥がたっぷりと染み込んだ外套を着たまま、角都が言っていた洞窟に到着した。
「コート、重…っ」
出入口で飛段は外套を脱ぎ、ぎゅうっと雑巾のように絞った。
「おい、ここで絞るな」
角都も外套と頭巾を脱ぎ、その場に座りこんだ。
十分に外套を絞った飛段も角都の向かい側の壁に背をもたせかけて座り、洞窟の先を見つめる。
「けっこう奥に行けそうだな…。なにがあるんだ?」
「いろんな場所に通じているらしい。他の山や、町、村、表には隠された場所…。おまえの場合、迷子になるのがオチだろうな」
「オイオイ、バカにしてんじゃねーよ。なんだよ、そんなに入り組んでんのか?」
「ああ」
角都は洞窟の出入口付近に落ちている枯葉や枝を自分と飛段の間に集め、小さな火遁で火を灯した。
雨雲に覆われた空は、暗くなるのが早い。
「……腹減った…」
たき火をじっと見つめていた飛段は唐突に言い出した。
それに伴い、腹の虫も情けなく鳴る。
「明日までガマンしろ」
明日の早朝に発てば、昼頃には町に到着するはずだ。
しかし、明日の昼まで待てるほど、飛段は気長ではない。
「できねーよ。…こんなじめっとした洞窟なら、どこかにキノコかなんか生えてるだろ。おまえの分まで探してきてやるよ」
洞窟の奥に目を向けた飛段は、そう言って立ち上がった。
「聞いてなかったのか。奥は道が複雑になっている。おまえだとすぐに迷子になるぞ」
「てめーも聞いてなかったのかよ。バカにすんなって、オレ言ったよなァ? 平気平気。それに、万が一迷った時には大声で呼ぶし、おまえならすぐに迎えに来てくれるだろ?」
「……………」
昔なら、「甘えるな」と言っているところだ。
飛段は足下に太い枝を見つけ、その先端に布を巻いて焚火の火をつけ、松明をつくった。
「すぐに戻るって」
松明を右手に、飛段は洞窟の奥へと進む。
角都は座って腕を組んだまま、飛段と松明の火が見えなくなるまで視線をそらさなかった。
「角都もずいぶんと心配性になったもんだなァ。ん? ああいうのを過保護っていうんだっけ?」
そんな独り言を呟きながら、飛段はキノコを探し求めて洞窟の奥へと進む。
振り返ってみるが、右の角を曲がってしまったため、角都と出入口は見えない。
耳を澄ますと、自分の足音と静かな雨の音が聞こえる。
「………!」
カツン、と足先でなにかを蹴った。
石かと思って前屈みになって松明の火で照らすと、壁に当たって動きを止めたそれは青色に光っていた。
「…これ…、宝石か?」
それを拾い、目元に近づける。
左手におさめられたその宝石の表面はツルツルで、暗いところでも青色に輝いていた。
「キレーだな…」
それは飛段の声に反応するように点滅した。
「こんなところにあったのか」
「!」
突然奥から男の野太い声が聞こえ、驚いた飛段は危うく宝石を落とすところだった。
「誰だ!?」
警戒し、声が聞こえた方向に松明を向けると、声の主はすぐ目の前に照らされた。
その姿を見た飛段は思わずビクッと体を震わせる。
現れた男は、灰色のローブを身にまとい、顔には白く細長い顔をしたキツネの仮面を被っていた。
仮面の男は飛段の驚く顔を見て、「これは失礼。驚かせるつもりはなかった」と袖で顔を隠す。
「そりゃ、そんな姿でいきなり出てこられたらビビるって…」
「ほほほ。すみません…」
うつむくと笑っているように見えるので余計に不気味だ。
仮面の男は飛段に手を差し出した。
「それは私の落とし物です。この暗がりの中、探すのが大変でした。見つけてくださって、ありがとうございます」
仮面の男は深々と頭を下げる。
飛段は手の中の宝石と仮面の男を交互に見たあと、訝しげな顔のまま、仮面の男に宝石を差し出した。
「たまたま拾っただけだけどな」
仮面の男は死体を思わせる白く爪の伸びた右手を伸ばし、その宝石を受け取った。
「!?」
同時に、左手で飛段の手首をつかみ、引き寄せた。
「な…!」
その手を払おうとしたが、びくともしない。
目の前に、仮面の男が顔を近づける。
「…報酬を受け取ろうと言いも考えもしない。…気に入った」
「なに…が…」
大鎌を置いてこなければ大きく抵抗できるのだが、外套と置いてきてしまった。
飛段は空いている右手で腰に差した杭を取ろうとしたが、
「頂戴する」
「!!」
仮面の男の右手が、飛段の胸の中心を貫いた。
飛段の手から落ちた松明は、湿った地面を転がり、壁にぶつかると同時に消えた。
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