リクエスト:偽りの恋唄
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あれから何時間が経過しただろうか。
飛段とカタリは角都を探すために川沿いを歩き続けていた。
そうしていると雨まで降ってきた。
「風邪引くぜ。だからさっさと町出ようって…」
「焦ることはない。どうせ奴の方から現れる」
「……………」
昨夜と同じ橋に到着すると、カタリは欄干に座り、琵琶を弾き、唄を口にする。
飛段は静かにその唄に耳を澄ませていた。
また内容が頭の中に流れ込んでくる。
約束を破って男を裏切った女の唄、最終的に女を残して病に負けた男の唄、戦争から戻ってこなかった男の唄。好きな男の恋を実らせようとする女の唄など。
「…なんで…、なんで悲恋ばっかなんだ?」
カタリの琵琶の音色が止まる。
「…失敬。……なぜかな…」
あの日からだ。
胸が苦しくないわけでもないのに、自身を痛めつけるように悲恋ばかりを唄ってしまう。
「飛段」
「!」
カタリは手招きし、近づいた飛段を抱きしめた。
「ずっとオレの傍にいてくれ」
「……………」
「ああ」と答えようとした。
「そいつはオレの傍にいるべきだ」
突如聞こえたその声に2人ははっと振り向いた。
「「!?」」
角都が橋を渡り、こちらに近づいてくる。
「死に損ないが来たな」
カタリが呟き、欄干から下りる。
「飛段」
角都が飛段に手を差し伸べると、飛段は一瞬躊躇を見せて怒鳴った。
「しつけーんだよ、てめーも! オレはカタリについていく! カタリだけがオレの相棒だ!」
「そいつには別の相棒がいた。そいつをオレが殺した。そうだろう?」
角都と目が合ったカタリは奥歯を噛みしめ、持っている琵琶を力強く握りしめた。
飛段は「え?」とカタリに振り返る。
「そいつの琵琶の音色はチャクラを吸収するだけでなく、相手の感情を別の感情に変換することもできる。愛を憎悪へ。憎悪を愛へ。貴様の相棒も似たような術を使っていたな」
「覚えていたか…。5年前に、貴様に殺されたオレの相棒・ハナシのことを!!」
「賞金は600万。金額は覚えているが名は忘れた」
「角都!!」
カタリは指から血が出るほど強く絃を弾いた。
再びチャクラが吸い取られていき、角都は苦しげな表情を浮かべる。
「やれ! 飛段!」
カタリの声に飛段は懐から杭を取り出し、角都に迫る。
「大切な者に殺されてしまえ」
カタリは嗜虐的な笑みを浮かべて声を震わせて言い、それを見届けた。
ドッ!
飛段の杭が角都の胸を正面から貫いた。
仮面のひとつが潰されたことを角都は痛みの中で理解する。
それでも力を振り絞り、動きを止めたままの飛段の背中に手を回して抱きしめた。
「飛段」
耳元で名を呼ばれ、茫然としていた飛段の表情がはっとなる。
角都は飛段を抱きしめたままその場に膝をついた。
「さあ、残りは4つだ。おまえの術でそいつを…」
煽るカタリに、飛段は「違う」と呟く。
「3つだ…。昨日…、角都が…、角都がオレを庇ったから…、オレがやられそうになって庇ったから…!」
「!?」
昨日、賞金首の部下が角都をけなすようなことを口にし、それに飛段が腹を立てて敵の大将を殺すことをそっちのけにし、部下に襲いかかった。
その隙に賞金首は飛段に雷遁の術を放つが、それは間に入った角都に当たってしまい、角都は心臓を1つ失ってしまった。
賞金首は逃げる前に再起した角都に仕留められたが、飛段は「なぜ庇った」と角都を責め立て、一度は落ち着き、宿に到着して蒸し返し、昨夜の喧嘩に発展したのだ。
飛段は急いで杭を引き抜き、前に倒れかける角都を抱きしめて支える。
「角都!! 角都!! 角都ゥ!!」
大粒の涙を流しながら飛段は本当に愛しい者の名を叫んだ。
それはカタリにとって信じ難いことだった。
「そんな…、オレの術を解いた…?」
その時、手元に衝撃がぶつかった。
「!?」
飛段の大鎌が投げつけられ、琵琶を破壊したからだ。
投げつけたのは飛段ではなく、角都だった。
地怨虞で伸ばした右手で飛段の大鎌を取り、投げつけたのだ。
「琵琶がなければ、そうなっていたのは貴様の方だ」
「……………」
カタリは黙ったまま、足下に落ちた折れた仕込み刀を手に取った。
「なぜ、おまえの隣にはそんな奴がいるんだ?」
カタリの質問に角都は静かに答える。
「こいつはただの物好きだ」
「角都ゥ、オレェ…」
鼻を啜りながら飛段は角都にすがりつく。
「泣くな、鬱陶しい」
そう言いつつ、袖でその涙を拭った。
「…そうか」
カタリはため息をつき、仕込み刀を持ったまま欄干に座った。
下の川は雨のせいで流れが早くなっている。
「いいことを教えてやろう。飛段とともに宿に泊まったが、なにもしていない」
「!」
「ハナシの顔がチラついてな…。飛段も、躊躇していた。…おまえにはもったいない」
「それでも、オレの相棒はこいつしか務まらない」
「…そう見える」
角都はカタリが薄く笑ったように見えた。
「オレときたら…、すぐ傍にいたにも関わらず、ハナシを庇うこともできなかった…」
そう言ってうつむき、折れた仕込み刀の刃を己の首筋に当てた。
「逆恨みはここまでだ。琵琶はなくなったが、最後にいい唄を聴かせてもらった思いだ。…これにて、終曲」
仕込み刀を持った手を引き、鮮血を飛び散らせた。
口端から血を流しながらもカタリは満足げな笑みを浮かべる。
「失敬」
そう言って後ろに倒れ、そのまま川へと落下した。
角都と飛段は橋の下を確認したが、そこには流れの早い川しかなかった。
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