リクエスト:一杯飲まされ
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それから1週間が経過した頃だろうか。
閉店中にも関わらず、飛段は再びオレの前に姿を現した。
引っ越し業者とともに。
朝からインターホンに叩き起こされたオレはパジャマのまま不機嫌に応答に出て、引っ越し業者が来たことを知った。
引っ越し業者が家を間違えているのではないかと思ったが、インターホンから、引っ越し業者の次に「角都マスタァ」と聞き覚えのある声が聞こえて一気に覚醒した。
パジャマのまま家を出るとそこには気持ち悪いほどのにんまり顔をした飛段が立っていた。
引っ越し業者共はいつでも荷物をオレの家の中に運べるように全員荷物を持って構えている。
「…どういう冗談だ?」
「ゲハッ、オレ、ここに引っ越すことに決めたから」
「…………what?」
純粋な日本人なのに思わず英語になってしまう。
「いやさァ、オレここでずっと働いていたいし、でもオレの家からわざわざ電車で通うのもメンドイし、帰りはタクシーだし。だったらマスターと同居した方が早いな、と思ってさァ」
まさか、「じっくり考えてみる」というのはそういうことだったのか。
「やられた」とオレは汗ばんだコブシを握りしめる。
もはやこれはストーカーの領域を突破している。
「なら、近所のマンションに住むとか…」
「よし、運んでくれェ」
「お、おい!」
オレが制止する間もなく、引っ越し業者共は突撃する足軽のごとくオレの城にズカズカと上がり込んで荷物を運んでいく。
設置場所はあらかじめ飛段から教えられているのかスムーズだ。
「飛段!」
オレは睨んだが飛段は平然としている。
それどころか嬉しそうに頬を染めている。
「これがオレのやりたかったことだ」
「……………」
呆れ果ててしまい、「出てけ」という言葉さえ出てこなかった。
諦めのため息をついたとき、飛段はオレの首にまとわりついてきた。
「いつでもコキ使ってくれていいんだぜェ? マスター兼ダーリン♪」
「誰がダーリンだ!!」
「じゃあハニー?」
「余計に悪い!!」
「やっぱ角都がいいな。うん、角都。角都角都角都ゥ」
「鬱陶しい!」
怒鳴りつつ、オレは体に空いた穴が塞がっていくのを感じた。
結局、常識を越えた飛段の行動に成す術もないオレは、もうどうでもよくなって飛段とともに店をやっていくことに決めた。
オレの役に立ちたいと思っているのか、以前よりよく働くようになった。
「角都ゥ、一杯やろうぜ?」
閉店して部屋に戻り、毎回そのような誘い文句で誘惑するようになった。
もちろん、一緒に酒を飲むといった平和的なことでもない。
しかもタチの悪いことに、隙あらばオレの尻を狙おうとする。
そのたびにオレは飛段を張り倒して立場を逆転させた。
ちなみに、飛段はもう使いものにならないというのに、未だにあの画像を待受にしている。
大事な思い出だからだそうだ。
平和な暮らし30余年。
残りの人生はすべてこの押し掛け女房に振り回される暮らしで終わりそうで泣きたくなる。
まあ、退屈はしないだろう。
こんな気苦労の多いマスターと、元・モデルの自己中店員が経営しているバーでよろしければ、いつでもお越しくださいませ。
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