リクエスト:一杯飲まされ
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「どういう気持ちの切り替わり?」
「放っておいたら目覚めが悪い。ヘタをすれば連れ込まれていたかもしれないからな」
バーに帰ってきたオレ達は、カウンターを挟んで話をすることにした。
「せっかく携帯捨ててやったのに…」
飛段は口を尖らせながら、カウンターに置かれた自分の携帯を見つめ、指でつつく。
「そんなもの、もう脅しの道具にもならん」
飛段がギクリと体を震わせたのがわかった。
飛段は引きつった笑みを浮かべ、「どういうこと?」と尋ねる。
「その画像の時間を見ろ。閉店してすぐの時間だ。オレをベッドまで運んだり脱がしたりでヤッてるヒマはなかったはずだ」
それを見た飛段は「あ」と小さく漏らした。
携帯のデータの記録というのは重要だ。
絶対的な証拠になる。
しばらく携帯の画面とにらめっこしていた飛段だったが、「はーぁ」と大きなため息をつき、カウンターに伏せた。
「バレたかぁ…」
それほど落胆した声でもなかった。
オレに顔を上げ、苦笑を浮かべて語り始める。
「マスターの推測通り、あの薬は媚薬だ。ヤりたい一直線になれる速効性で効き目の強力な薬らしいんだけど、マスターは体質が合わなかったらしい」
オレが覚えていないところは飛段が全て記憶していた。
媚薬を飲まされたオレは真偽はわからないがオオカミの如く飛段に襲いかかったらしい。
飛段を押し倒したあと、脳が沸騰してしまったのかすぐに倒れてしまった。
もしかしたらオレは危うく死ぬところじゃなかったのか。
飛段は救急車も呼ばずにオレを寝室へと連れ込み、互いの服を脱がせて例の写真を撮ったようだ。
ちなみに、寝る前にオレの唇を舐めまわしたといらぬ情報も聞かされ、オレは砕いた氷を目の前の顔面にぶつけてやった。
「なぜオレに薬を…」
「いやぁ、もうセックスでもしたい気分だったしィ」
飛段は額を擦りながら答える。
オレは鼻で笑った。
「処女のクセにか?」
「いや、後ろじゃなくて前を使うに決まってるじゃん」
(…うん?)
オレは首を傾げた。
「どういうことだ?」
声が震えている。
なのに飛段は呑気に答えた。
「いや、簡単に言ったら、マスターの尻にオレの…ってマスター! 手がシザーハンズ!!」
オレは両手に持てるだけアイスピックやナイフを持ち、飛段に向けた。
やはりこいつは殺っておくべきか。
飛段は「待て待て」と目前で手をブンブンと振った。
「結局ヤってねーんだしいいだろォ!? 逆にオレの尻がヤバかったくらいだ!」
自分よりガタイのいい男に力で勝てるわけがないだろう。
一応自分の尻の危機を感じているくらいなら、いっそのこと本気でヤってしまおうか。
「それでおまえはどうする気だ? もう脅しの道具はないぞ。大人しく事務所に戻るのか?」
尋ねると、飛段は腕を組んで天井を見上げながら「うーん」と考える。
まだ20そこらのガキだ。
見つけられるものはたくさんある。
「…じっくり考えてみる」
「そうか」
オレは拭いたばかりのグラスを飛段の目前に2つ置き、シェイカーで作ったオリジナルのカクテルをそのグラスに注いだ。
飛段が飲みやすいようにと甘口めに作った空色のカクテルだ。
「一杯、やらないか?」
オレが1つのグラスを受け取ってそう言うと、飛段はニッと笑ってオレのグラスに、チン、と自分のグラスを当てた。
「そういえば、初めてこの店に来た時も、初めてのバーで戸惑うオレにマスターは「どうぞ」と声かけてくれたし、こういうオリジナルのカクテルを出してくれたなァ」
そういえば、とオレも思い出す。
入ってきた途端にバーの雰囲気に気圧されてどうすればいいかとキョロキョロさせていた迷子の子供みたいな客を。
「ごちそうさま」
「ひとつ聞いていいか?」
「ん?」
「なんでオレと寝ようとした?」
そっちの気があるわけでもないのに。
「オレ、この店とマスター、けっこう好きだし」
簡単に言ってくれるものだ。
飛段は立ち上がり、今度はちゃんと私服に着替えて出入口へと向かう。
「またのお越しを」
オレがそう言うと、飛段はまた笑顔を見せて「おう」と手を振って店を出ていった。
店内は再び静けさを取り戻した。
「ここにいたいならいていいぞ」と言ってもよかったかもしれない。
せっかく、この仕事にも板がついてきたというのに。
少し寂しさが残り、そろそろ嫁でももらおうかといういつものオレならあり得ない発想が浮かんだ。
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