リクエスト:一杯飲まされ
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目が覚めたオレの視界に入ったものを順に説明しよう。
まずは白い天井、上半身を起こして辺りを見回せば、黒のクローゼット、全身鏡、小さなテーブル、黒の絨毯など、一見でオレの寝室であることが確認できる。
ただし、この部屋の中に仲間はずれが混じっている。
それは、オレの隣で寝息を立てて眠っている全裸の男だ。
しかも、オレまで全裸とはどういうことだ。目が覚めて視界の隅に入った気がしたからわざわざ最後の方に持ってきたのに、やはり夢の残像でもないようだ。
昨夜、この男がオレの店に訪れたのは覚えている。
というか、この男は最近オレの店に顔を出していた。
それから愚痴も聞いてやった。
それから、ああそうだ。
『マスター、一緒に飲んでくれる相手が欲しいんだ。なあ、一杯やらない? まさか、酒が飲めない、なんてこと…、ないよなァ?』
店にいた他の客も帰ったところで、ほろ酔いしていたこいつの言われるままに酒を飲んでやったんだ。
そこから記憶がない。
まさか、一杯やるどこか一発やってしまったのでは。
だが、オレはどちらかといえばノーマルだ。
男を抱いたことはない。
「んー…」
考えていると男が目を覚ました。
銀の髪色、白い肌、整った顔立ち、不思議な目の色、確かに男にしては色がある。
男はオレと目を合わせ、クスッと笑った。
「おはよ」
「「おはよ」じゃない」
オレは男を睨みつけたが、男は大きな欠伸をしながら上半身を起こし、「んんっ」と腕を伸ばした。
「あ、そうそう、マスターが先に寝てる間にシャワー使わせてもらったから」
水道代とガス代が余分にかかってしまった。
いや、そんなことよりだ。
「昨日の記憶が曖昧だ。貴様、オレが飲んだ酒になにか入れただろう?」
男の顔がキョトンとなる。
それから薄笑みを浮かべ、なにをするかと思えばいきなりオレの口に吸いついてきた。
「!?」
それから舌を差しこまれ、口内を舐めまわされる。
こいつ、意外と上手い。
「ぅ…」
息苦しくなって男の胸に片手を置くと、男は目で笑って唇を離してくれた。
「酷ェな…、昨日の夜はあんなに激しく抱いてくれたっつーのに…。どうしたんだ? 急に冷めてさァ」
あんなに? 激しく?? 抱いた???
まったく身に覚えがない。
しかしオレが「受」でなくてよかった。
「オレは理由もなく男を抱く趣味はない」
「オレだって抱かれる趣味はねえよ。言っただろ?」
そういえば、愚痴でそんなことを言われた気がする。
どういう内容だったかは、ぼんやりとしか思い出せない。
「貴様、なんのつもり…」
その時、遮るようにどこからかくぐもった音楽が流れた。
携帯の着信音か、最近の曲だ。
それはオレの枕の下から聞こえた。
男は枕の下に手を突っ込み、銀色の携帯を取り出して通話ボタンを押し、耳に当てる。
ボタンを押す前に、待受画面を見て一瞬嫌そうな顔をしたのをオレは見逃さなかった。
「もしもし? だからもう電話してくんなって言ったじゃん」
しつこいとでも言いたげな電話の応答だ。
女だろうか。
「オレ辞めるぜ。意思曲げねーぜ。大体、元々気紛れで始めた仕事だからいままでやってきたんじゃねーか。ギャラもいいし」
仕事先か。
「ハァ? なんでって? そんなの社長に聞きゃいいだろーが。…ハァ。わかったわかった。アンタには世話になったからなァ。ああ。昼過ぎでいいか? いつものカフェ。…じゃあな」
最後は諦めたかのようなため息をつき、通話を切った。
それからベッドから下りてベッド脇に放り出されていた己の服に着替え始める。
「仕事先に呼びだされちまった。まぁ、勝手に出て行ったオレも悪いけどさァ…」
それからまたこちらに近づき、前屈みになってオレの頬にキスをした。
「アンタ、よかったぜ。また店に行った時は愚痴でも聞いてくれよ」
そう言って手を振って自然に寝室を出て行った。
玄関の扉が閉まる音が聞こえ、オレははっとすると同時に、胸に複雑な痛みを覚えた。
(なんだ!? この、ヤリ逃げされた女のような気持ちは…!!?)
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