リクエスト:歌声よ届け
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降り続く粉雪の中で、歌声が聞こえた。
小さな灯りがふっと消え入りそうな、そんな声だ。
歩道から外れて小さな公園の中へと入り、歌声を追いかける。
近づくにつれ、歌声の内容がはっきりと耳に聴こえてきた。
見つけたのは、雪よりも綺麗で輝いている銀色の髪だった。
耳にはヘッドフォンが当てられ、そこから音が漏れている。
銀髪の若者は噴水前のベンチに座り、音楽を聴きながらその曲の歌を歌っていた。
それをしばらく聴いていた男は若者に近づき、その目の前に立った。
見下ろすと、若者の、見上げた桃色の瞳と目が合う。
それから視線を手首にやった。
「!」
そこにはカッターナイフで切ったような浅い切り傷があり、赤い血を滴らせていた。
ポツポツと足下の雪が若者と同じ瞳の色に染まる。
「なにか用か?」
若者はヘッドフォンをはずし、目の前の男を睨みつけた。
構うな、失せろ、と目で訴えているのがわかる。
「……………」
男は無表情のままその場に片膝をつき、ポケットから黒いハンカチを取り出し、若者の手をとった。
「…!」
若者は驚いた表情を浮かべた。
突然のことに振り払っていいものかと躊躇する。
男は手首の傷を見る。
大した傷ではないが、他にも、塞がりかけの切り傷がいくつかあった。
「なぜ切った?」
男の低い声に若者はビクリと体を震わせ、眉を寄せて答える。
「…別にィ。切りたかったから切っただけだ。生きてるかどうか確認しねーと、やってられねえんだよ」
「歌いながらか…」
若者は苦笑混じりに、「ありゃりゃ、聴かれてた」と後頭部を照れくさそうに掻いた。
「ヘタクソだったな」
カチンとくる一言に飛段はムッと表情を変える。
「悪かったな、音痴で」
口を尖らせ、そっぽを向いた。
男は手首にハンカチを結びながら首を横に振る。
「そうじゃない。その歌っている奴らのことだ」
メロディーが流れたままのヘッドフォンを指した。
「……オレは…、割と好きだったけどな…」
「好きだった奴は少数だ。CDの売り上げも低かった。売れなければ話にならん。結果、そのバンドは解散した」
若者は寂しそうにヘッドフォンを見下ろし、流れる曲に耳を澄ませていた。
他人に批判されると、とても痛々しく聴こえる。
若者の一瞥した男は、立ち上がり、再び若者を見下ろした。
「おまえ、名前は?」
「……飛段」
飛段は手首に巻かれたハンカチを見つめながら名乗る。
「いい名前だ。芸名としても使えそうだな」
「…は?」
飛段は角都の顔を見上げた。
先程の男の言葉は聞き間違えではないかとわが耳を疑う。
「オレは角都だ」
角都は懐から名刺を取り出し、飛段に手渡した。
「そんなに奴らの歌が良かったなら、おまえがあとを継げ、飛段」
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