リクエスト:その芳香だけが
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角都は3階の通路で、追いかけてくる人形達を次々と倒していく。
今、飛びかかってきた一人を蹴り飛ばし、その背後にいた人形達を吹っ飛ばしたところだ。
「キリがないな」
頭刻苦で灰にしてやろうかと思ったとき、
「おや、随分とやられましたね」
「!」
振り返ると、飛段と肩を並べた賞金首がこちらに近づいてくる。
「あなたと対抗するには、こちらの人形ですか」
「貴様…」
角都は賞金首を睨みながら、後ろから飛びかかってきた人形を裏拳で吹っ飛ばした。
「飛段」
賞金首が声をかけると同時に、飛段は地を蹴って一瞬で角都の背後に回り込んだ。
「!?」
角都は首目掛けて振るわれた大刃を硬化した右手で受け止めるが、力負けしそうになり、なんとか踏みとどまる。
「その動き…」
明らかに普段の戦闘の動きを超えていた。
飛段の表情を窺うと、無表情だが額には汗が浮かんでいる。
息も荒い。
「潜在能力の限界まで引きずり出すお香を嗅がせました。その負担は大きく、普通の人間なら死に至るのが欠点ですが、その方は壊れてもすぐに直るでしょう」
「すっかり人形扱いだな」
角都ははらわたが煮えくりかえる思いだ。
飛段は躊躇なく角都に攻撃する。
たまに、自分の動きについていけず壁に激突したが、それでも攻撃はやまなかった。
角都は頭上に振り下ろされた大鎌を、硬化して目前で交差させた両腕で受け止める。
しかし、今の飛段はパワーアップもしているため、角都の足下の床が耐えられずヒビが刻まれる。
ビッ!
杭の先端が角都の口布を切り裂いた。
口布は床に落ち、角都の素顔が露わになる。
「そう、その口布が邪魔だったのですよ」
「!」
角都はすぐに息を止めたが、少し遅かった。
甘い匂いが鼻を突いたとき、ピリピリと脚が痺れ、その場に片膝をつく。
「…!」
通路にはあのお香が設置されてあったのだ。
「さあ、飛段」
飛段はゆっくりと近づき、角都を見下ろす。
2人はしばらく目を合わせたまま動かなかったが、賞金首が「さっさとしなさい」と言い、飛段は大鎌を振り上げる。
「大事なものを壊し、心を壊し、完全な人形になってしまいなさい」
賞金首がそう言うと同時に、飛段は角都の顔面目掛けて大鎌を振り下ろした。
「「…!」」
賞金首と角都は驚いた。
大鎌の大刃の先端が角都の目先で止まったからだ。
意思と戦っているのか、飛段の手はカタカタと震えている。
「なにをしているのです! あなたは私の人形でしょう!?」
賞金首が怒鳴り、飛段は独り言のように呟く。
「オレは……人形…。オレは……」
「…おまえは本当に人形か? 違う。おまえはオレの…」
その言葉を聞いた飛段は目をカッと開き、歯を食いしばった。
「うううぅ!」
唸りながら杭を振り上げ、
ドス!
大鎌を持った右手の甲を自ら貫いた。
「なにを…!」
賞金首は予想外のことに驚きを隠せない。
飛段は呻きながらその場に片膝をついた。
「うぅ、う~…」
角都は指先を動かしたあと、痺れる腕を上げて目の前の飛段を抱き寄せる。
「…!」
「飛段…」
その匂い、その声、その温もりに、飛段の瞳から一筋の涙が流れる。
「飛段!」
賞金首は声を荒げ、「さっさと殺せ」と命令した。
飛段の顔は無表情に戻り、そっと角都から離れて手の甲に突き刺さった杭を抜き取り、振り上げた。
ドス!
「…あ…?」
賞金首は目を見開き、己の心臓に突き刺さった杭を見つめ、飛段に顔を向けた。
飛段は杭を振り上げたあと、そのまま振り返って勢いよく賞金首に投げつけたのだ。
「人形遊びはしめぇだよ、バーカァ」
*****
賞金首の換金はゼツに任せ、角都は飛段を背負って宿へと向かっていた。
戦いのあと、飛段は全身筋肉痛で倒れ、身動きできなかったからだ。
大の大人が大の大人を背負っているため、先程から通行人達の視線が痛い。
喜ぶ女達もいる。
飛段は羞恥で顔を赤くしていた。
「や…、やっぱ自分で歩くってェ」
「歩けないからおぶってやってるんだ。黙ってろ」
飛段は小さく唸ったあと、顔だけは隠しておこうと角都の肩に顔を埋める。
「角都は平気…なのか?」
くぐもった声だったが、角都にはよく聞こえた。
「気にするな。オレは少ししか吸っていないから、こうして動いている。それに、おまえからは傷ひとつ受けていない」
「……………」
「約束する。二度と置いていくものか」
それを聞いた飛段は安心したのか、ようやく口元に笑みを浮かべ、「ああ」と頷き、再び顔を埋めた。
「やっぱオレ、角都の匂い、好きだ…」
心から安心する匂いと心地のいい揺れの組み合わせに、飛段は眠気に包まれ、やがて寝息を立てて眠り始めた。
角都は肩にのせられた銀髪の頭を見、その髪に頬をすりつけ、微かに香る匂いを嗅いだ。
天然の甘い香りがする。
「おまえほどではないぞ、飛段」
角都は小さく言ったあと、飛段が起きてしまわないように、そしてこの一時を少しでも長くするために、ゆっくりと歩を進めるのだった。
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