リクエスト:その芳香だけが
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賞金首のアジトは町にある今は廃れた5階建ての木造の建物にあった。
まるで大きなドールハウスのようだ。
情報屋から居場所を聞きだし、そこに到着した角都は警戒しながら中へと入っていく。
通路の床は一歩一歩進むたびに軋み、今にも割れそうだ。
曲がり角からそっと他の通路を窺うが、見張りはひとりもいない。
「……………」
薄暗い階段を上がったとき、
「!」
踊り場に美しい女が立っていた。
角都を待っていたかのようだ。
角都は冷静に警戒する。
「ご主人様は、こちらです」
女は無表情のまま声を発した。
角都が言葉を返す前に背を向け、階段を上がっていく。
角都は警戒を解かないまま女についていった。
木造の階段はミシミシと音を立てる。
4階で女は通路へと曲がり、ある一室へと案内した。
扉を開け、角都を先に入れる。
「やはり生きてましたか」
部屋の中心には、堂々と椅子に脚を組んで座った賞金首がいた。
その口元には笑みが浮かんでいる。
角都の背後の扉が閉められた。
賞金首は言葉を続ける。
「到着、早かったですね。あの情報屋、ちゃんとした情報は売るのに逃げ足は遅い…」
鼻で笑ったとき、角都は睨みながら低い声で言う。
「今すぐオレの連れを返せ」
それを聞いた賞金首は意外そうな顔をした。
「組織では相方殺しのあなたが、そんなことを口にするとは…」
そしてすぐにニヤリと笑う。
「これは滑稽だ」
「聞こえなかったか? オレの連れを返せと言っている」
角都は両腕を硬化させ、賞金首に向かって振り上げる。
「ふっ、「オレの連れ」?」
賞金首が鼻で笑うと同時に、なにかが天井を突き破って角都の背後に着地し、武器を振るった。
「!?」
角都は目の端でその人物を確認し、反射的に屈んだ。
見慣れた赤い三刃が頭上を通過する。
「飛段…!」
角都に刃を向けたのは、飛段だった。
飛段は眉ひとつ動かさず角都を見つめ、床を蹴って角都の頭上を飛び越え、賞金首の傍らに着地する。
「私の人形ですよ。どうしても、あなたに紹介したくてね。…カワイイでしょう? 銀髪…、桃色の瞳…、白い肌…。私はこういう人形が欲しかった」
賞金首はそう言いながら、飛段の右頬を撫でる。
飛段はまったく抵抗せず、人形のように動かなかった。
「そいつに触れるな…! 貴様の人形ではない!」
角都は唸るように言った。その姿が見たかったのか、賞金首はクスクスと笑っている。
「確かめてみますか?」
同時に、飛段が懐から杭を取り出し、角都の懐に飛び込んできた。
杭の先は角都の顔面に向けられる。
角都は首を傾けてそれを避け、後ろに飛び退いて飛段から離れた。
「やめろ、飛段!」
それでも飛段の攻撃はやまず、左手の大鎌と右手の杭を交互に振るって攻撃してくる。
角都は硬化させた両腕でそれを弾き返していく。
「飛段!!」
「…!」
一瞬、飛段の瞳が揺らぎ、動きが止まる。
「なにをしているのですか、飛段」
賞金首は椅子から立ち上がり、指を鳴らした。
すると、どこに身を潜めていたのか、飛段が突き破った天井や扉や窓から、賞金首の人形達が続々と部屋に集まってきた。
角都の敵ではないが、数が多いうえに、狭い部屋では戦いにくい。
そう判断した角都は硬化した右腕を床に振り下ろし、床を叩き割り、そこから3階へと飛び降りた。
「追いなさい」
人形達もそこから飛び降りていく。
飛段と2人きりになった賞金首は飛段に近づき、その表情を窺った。
無表情のままだ。
「なぜ、動きを止めたのです?」
「……………」
今、飛段の中では角都のことが渦巻いていた。
飛段の口が半開きになり、小さく呟く。
「か……くず……」
パアン!
それを聞いた賞金首は飛段の頬を打った。
飛段は顔を横に向けたまま動きを止める。
「人形に、そんな感情はいらない」
賞金首は笑みを浮かべてはいるが、目元が痙攣している。
声にも苛立ちがこもっていた。
懐から小瓶を取り出し、コルクを口で開けて飛段の鼻先に近づける。
その匂いに、飛段の中の角都は闇へと消えてしまう。
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