小さな日記
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換金所から宿へ戻るため、深夜の夜道を歩く。
つい数時間前まではまだ町の人間はちらほらといたのに、今では人ひとり見当たらない。
町は眠りについていた。
あいつも今頃宿のカビ臭い布団の上で大の字になって眠っている頃だろう。
賞金首を仕留めたあとは「疲れた」だの「早く宿に泊まりたい」だの散々ガキのように喚いていたのを思い出す。
街灯の電気がぽつぽつと消えていく。
代わりに、ほのかな光が町を包んだ。
見上げると、闇の空に青白い満月が浮かんでいるのが見えた。
見事な満月だ。
見上げているのはオレひとりではないのか。
辺りを見回すが、やはり誰もいない。
月など、長く生きてきて腐るほど見てきたはずだ。
それを綺麗などと思うようになったのは、いつも周りのことで新鮮さを見出すあいつの傍にいるからだろう。
あいつは当然のものをいちいち大袈裟に、馬鹿のように(いや、馬鹿だ)表現したりする。
オレは「うるさい」や「馬鹿が」などと言いながらも、その言葉をしっかりと耳におさめているのだ。
無意識に。
再び月を見上げる。
今なら、月になにか見える気がする。
たとえば、迷信だと馬鹿にしていたウサギなど。
……いや待て、本当になにかいるぞ。
黒い影が見えた。
微かに月と同じ光を放っているように見える。
それはこちらを確認すると、ぴょんぴょんと跳ねた。
よく見ると、月を背景に、電柱の頂上で跳ねているだけだ。
「角都ゥー!」
それは電柱から飛び降りてオレの前に着地し、月の光を染み込ませたかのような髪を撫で上げ、笑みを見せた。
「でっけー月が出てるから、そこの河原で月見しようぜェ」
その手には、温かな茶の入った水筒と、微かに甘い香りがする風呂敷があった。
風呂敷の中は月見の定番である、あの和菓子だろう。
月よ、そこにウサギがいるのなら、そのウサギはこいつと同じ毛色なのか
月は答えず、オレ達を見下ろすだけだった。
それが優しく見えるのも、やはりこいつの影響なのだろう。
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