リクエスト:意地っ張りでも

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「ジャシン様の贄にしてやらァ!! 角都! 雑魚は頼んだぜェ!!」


これが、角都の視界から消える前に、目的の賞金首を追いかけながら吐いた飛段のセリフだ。


角都は飛段に言われた通り、賞金首の部下の相手をする。

飛段曰く、すべて雑魚だった。


早々に片付けた角都は、飛段が消えた茂みを進んでいく。


しばらく進むと、茂みの向こうの猫の額くらいの更地に見覚えのある銀髪が目に入った。


いつも通り、賞金首を贄に捧げて祈りでもしているのかと思えば、そうではなかった。


飛段はその場に座り込み、頭を垂れて静かに呼吸を整えていた。

右足の膝から下がない。

切り落とされたのだろう。

辺りを見回すと少し離れたところに転がってあった。


「角都…」


角都の気配に気付いた飛段は顔を上げ、縦にした右手を己の目前に近づけて一言、


「ワリ☆」


ゴッ!!


同時に、角都は飛段の眉間に己のコブシを打ちこんだ。

吹っ飛んだ飛段は背後の木に背中を打ち付け、痛みに顔をしかめたあと角都を睨む。


「ワリーって言っただろが!!」


逆切れした飛段は、鎌を構え、右足のないバランスの悪い状態で角都に躍りかかった。


久々の大喧嘩となったが、今の飛段の勝率は極めて低い。


賞金首を取り逃がしてしまい、角都の機嫌は最悪だった。

高額な賞金首なため、情報屋の情報を頼りに1週間以上かけて賞金首が潜伏している地に到着したのだ。

せっかく居所もつかんで目的の賞金首を見つけ、追い詰めたというのに、相方が水の泡に変えてしまったのである。


「角都ゥ」

「……………」


気が済むまで、自然を一部破壊してしまうほどの喧嘩したあと、角都は飛段の体を地怨虞で縫ってあげた。

その間、会話はひとつもなく、終わればまた「行くぞ、飛段」と言ってくれるのかと思っていたのに、角都は黙ったまま立ち上がり、そのまま付近の町まで行く道のりを歩きだしたのだ。


飛段は慌てて追いかけて文句を連ねたが、角都は一言も言い返さなかった。

目を合わそうとしても、逸らされてしまう。


「角都よォ」

「……………」


長引く角都の無視に、飛段は不安を募らせた。

それに伴い、苛立ちも倍増していた。


「角都ちゃーん」

「……………」


……プイッ


「んだァ!! クソジジイ!!」


ゴッ!!


殴られるが言葉はない。


*****


付近の町に着いたあとも、角都は無視を続けていた。

町を歩いているときも、食事をしているときも、宿に入ったときも。


宿の2階の部屋で、飛段は、座卓で帳簿をつけている角都の背中をじっと睨むように見つめていた。

角都はもともと無口なのは知っているが、わざと無口になられるのは余計に気に食わない。

敷かれた布団の上でゴロゴロと仰向けになったりうつ伏せになったりしたあと、飛段は我慢できずに角都に声をかけた。


「いい加減機嫌直してくんねーかなァ。ガキじゃあるめーし…」

「……………」


角都は一度筆を止めたが、再び動かし始めた。

飛段の眉間にさらに深い皺が刻まれる。


「ホント、1回キレるぞ」

「……………」


飛段は角都に近づき、背中に触れた。


「角都…」


飛段の不安混じりの声に、角都は筆を置き、飛段に振り返った。


「もういい。寝ろ」


実は、角都の機嫌は町に入る前に直っていたのである。

飛段を反省させるためにわざと無視を続けていただけだった。

食事の時に無視をやめようかと思ったのだが、タイミングがわからず長引いてしまっただけなのだ。


これで飛段が安心して眠りに就けると思ったが、


「……「もういい」って…」

「今言った通りだ」

「……………」


飛段は「もういい」の言葉を、拒絶ととらえてしまった。


フラリと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。


「どこへ行く?」

「…散歩」

「おい…」


角都は立ち上がりかけた。


「うるせえよ!!」


飛段は角都に背を向けたまま怒鳴り、襖を乱暴に閉めて出て行ってしまった。


「……………」


ひとり部屋に残された角都は、飛段が出て行った襖をしばらく茫然と見つめていた。

拗ねたあと、飛段がどこかに行ってしまうことはたまにあった。

だが、数時間すればすぐに戻ってくる。

行く当てもないのだから、戻るしか選択肢はない。

だから、角都も、またすぐに戻ってくるだろうと先に眠りに就くことにしたのだ。

その方が飛段も戻ってきやすいと思ったからだ。

バツが悪くなることもない。


翌朝、障子の隙間から差しこんだ朝日に、角都は目を覚ました。

隣の布団に飛段の姿はなかったが、部屋の奥からシャワーの音が聞こえる。

飛段が朝風呂に入っているのだとわかった。

飛段の布団の上には脱ぎ捨てられた服がある。


「……!」


角都は違和感に気付いた。

脱ぎ散らかされた服とは反対に、隣の布団はキチンとなっている。

一度も使われていないかのようだ。

皺ひとつ見当たらなかった。

飛段が自分からすすんで布団を整えている姿は見たことがない。

言われなければやらないのだ。


服に目を向けると、外套やズボンのところどころに小さな葉っぱや泥が付着していた。

町の外に出たのだろうか。


半身を起こして怪訝な目で外套と隣の布団を交互に見つめていると、浴室から出てきた全裸の飛段が頭を拭きながらこちらに戻ってきた。

飛段は黙って角都と目を合わせたあと、脱ぎ散らかした服を手にとって着替え始める。

毛先から雫がポタポタと畳の上に落ちた。


「昨夜、どこへ行っていた?」


飛段がズボンを履いているとき、角都は声をかけた。


「……散歩」


「ウソだな」と角都は思った。

飛段はウソがヘタクソだ。


「どこを散歩をしていた?」

「…町」


飛段はこちらに振り向きもせずに答えた。

手荒なマネをしてでも本当のことを吐かせてやろうかと思ったが、昨日の今日で喧嘩をするのもアホらしいと思ってやめた。


「……まあいい。今日はおまえが取り逃がした賞金首の行方を追うぞ。怪我をしているはずだ。そう遠くには行っていないはずだ」


ここら一帯は険しい山に囲まれている。

怪我を治してからでないと、山を越えるのは困難だろう。

飛段はレッグウォーマーを履きながら、素っ気なく返事を返す。


「ああ」


*****


まだ拗ねているのか、町に出ても飛段は大人しかった。

昨日鬱陶しいほど騒いでいた男とは思えない。

いつもは「黙れ」と言っていたが、常日頃飽きることなくベラベラと喋り続けている男が黙っていると、角都は内心でそわそわと落ち着かずにはいられなかった。

黙ってほしいのかほしくないのか、と自分自身に呆れてしまう。


立ち寄ったのは、診療所だった。

小さな町なので、病院と言えるのはここしかない。

取り逃がした賞金首が怪我を負っているなら、ここに立ち寄ったかもしれないと考えたからだ。


「…オレ、ここで待ってる」


飛段は診療所の扉の隣の壁にもたれかかった。

角都が「なぜだ?」と尋ねると、「消毒液の匂いが嫌いだから」とこれまた素っ気なく返した。


「別にオレが入る必要ねえだろ。おまえについてるだけだしィ」

「……………」


角都はなにも言わずに診療所の中へと入っていく。

人の少ない待合室を抜け、医師の元へ向かう。

医師はちょうど休憩をとっているところだった。

ゆっくりと茶を啜っていたところに、いきなりの怪しい訪問客に老年の医師はぎょっとしたが、角都の全体を見ると、「ああ」と小さく声を漏らした。


「よかった。昨日、来たよ」

「…なに?」


医師の唐突な発言に角都は低い声で聞き返す。


「おや? 同じ服を着ているから、てっきり昨日の方のお連れさんかと…」


すぐに飛段の顔が脳裏をよぎった。


「連れとは、銀髪の青年か?」

「ええ」


医師の話では、昨夜、飛段が突然診療所に来て、「ここに怪我をした男が来なかったか?」とその男の特徴を付け加えて尋ねた。


『こんなヒゲでー、こんな格好でー、オレよりでっかくて角都よりちっせー。あ、角都ってのはァ…』


角都のようにビンゴブックを持っていないため、絵に書いたり体で表現したりして伝えたそうだ。

ついでに角都のことも丁寧に教えていた。


(あの馬鹿が…)


診療所に入らなかったのは、昨夜会った目の前の医師と顔を合わせたくなかったからだ。


「……それで?」

「銀髪の子が来たときはその患者は来なかったが、出て行ったあと、すれ違いのように来たよ。特徴通りの男だったから、間違いないと思う」


角都は懐から数枚の金を取り出し、医師の手に握らせた。


「その男は? 居場所を知らないか?」

「……治療を受けたらさっさと出て行った。治療したてだから…、山を越えるなら、坂もそれなりに緩やかな北の方角に行くだろう」

「そうか…」


角都は一言礼を言ったあと、診療所の出入り口へと真っ直ぐに向かった。


これで飛段が昨夜なにをしていたのかはっきりした。


汚名を返上するため、賞金首を捜していたのだ。


外套に葉っぱや泥がついていたのは、町の外へ出てターゲットを捜し回っていたからだろう。

一睡もせずに。


「飛段」


扉を開けると同時に、声をかけた。


しかし、そこで待っているはずの飛段の姿はなかった。


角都は推測した。


飛段は聞いていたのだ、と。

こっそりと診療所の開け放たれた窓から医師と角都の会話を。

賞金首が北の方角に行ったのかもしれない、という言葉を聞いてすぐにそちらに向かったのだろう。


角都も北の方角の山へと向かっていた。

時刻は昼を過ぎた。


数時間が経過したというのに、飛段の姿も賞金首の姿も見つからない。


木の枝から木の枝へと飛び移りながら辺りを見回す。


「飛段…」


小さな声が飛段に聞こえるわけがない。

本人を前にしないと怒鳴ることもできない自分自身に腹を立てた。

我ながら面倒な性格である。

それは飛段も同じだ。

苛立ちはぶつけ合えるのに、肝心なところで意地を張ってしまう。

どちらかが素直になれば、こんなことにならずに済んだのではないか。


いや、己が素直ならこんなことにならずに済んだのだ。


実際、一番焦っているのは己ではないのか。


角都は自問自答をしながら飛段の姿を捜した。見つけたらどうするべきか。

それは角都の中ではっきりしている。


「!」


木々を抜けた、陽に照らされた岩場で、角都は飛段を見つけた。

大きな岩の上に、血で描かれたジャシンマークの上で仰向けに倒れている飛段の胸には杭が刺さっている。

祈りの最中だった。

岩の下には胸を押さえたままうつ伏せに倒れている目的の賞金首が転がっていた。


「飛段」


岩の上に飛び乗って声をかけると、飛段は目を開けて角都の姿をとらえた。


「角都…」


杭を抜き取り、半身を起こして角都を見上げ、笑みを浮かべた。


「見ろっ。ご要望の賞金首はこの通りだぜェ」


転がっている賞金首に手を差し伸べて自慢げに言った。


「ああ」


角都は片膝をついて飛段と目線を合わせ、飛段の頭に右手を伸ばし、その頭を優しく撫でる。


それからこちらに強引に引き寄せ、左手の人差し指で己の口布を引き下げて飛段の唇に己の唇を合わせた。


「…っ!」


突然のキスに飛段はびっくりして目を見開いた。


「…ん~! ぅう! んんんん!」


息苦しくなり、角都の胸をドンドンと軽く叩いて訴える。

角都は一度唇を離し、飛段の口端から伝う血と唾液を舌先で舐めたあと、その舌を飛段の口内へと滑るように入れた。


「く…っ、う…、はぁっ、はっ…、ふぅっん…」


歯列はなぞられ、逃げる舌を絡め取られ、緩く、きつく、吸われる。


「かく…っ、ふぅっ、角……都…っ」


時々角度を変えては、何度も飛段の口内を犯した。


「ぷはっ」


気が済むまで口内を掻きまわされたあと、ようやく解放された飛段は涙目で赤面したまま酸素を貪った。

その姿が角都の欲を煽るとも知らず。


それでも角都は理性をなんとか保ったまま、飛段の体を抱きしめて言う。


「もう、オレから離れるな…、飛段」

「っ…」


飛段は角都の背中に手をまわし、強く抱きしめる。


「スゲー…ズリィよ、ホント…。角都…」


角都の頬に己の頬をすり寄せると、角都は飛段の喉に唇を押しつけた。

右手が自然と飛段の外套にかかる。


「お…、おい…、先に換金所は…」

「金より先におまえが欲しい」


飛段にとって、とてつもなく嬉しい言葉だった。

顔から湯気があがりそうになる。


飛段の鎖骨から顔を上げた角都は尋ねる。


「おまえは欲しくないのか? オレが」

「そ…、そりゃ…、超…欲しい…」


(なんて恥ずかしいセリフ言わせんだよ)


角都はふっと笑って飛段にキスしたあと、行為を再開させる。


(角都が素直になると、オレ、マジ死にそう…)


角都の愛撫が心地良くて、飛段は途中で眠気に優しく包まれた。

このまま寝てしまっていいのだろうか、と迷ったが、今の角都なら許してくれる気がしてゆっくりと目蓋を閉じる。


「飛段、おまえがいるだけでオレは満たされる…」


飛段が眠ったのだと思い込んだ角都は、その耳元に囁いた。


「愛している」


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