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翌日、宿から出た3人のうち、ヨルだけが目元にクマをつくり、顔も眠たそうにしていた。
(ああ…、眠い…。貧血起きそう…)
先に寝ようとしたはずなのに、特に飛段がうるさくて眠れなかったからだ。
部屋についていた浴室からは「スゲー!」「デケー!」と大声が聞こえたり(なにが?とは聞かないように)、圧害達が勝手に背中から抜け出したり、寝てる時に地怨虞が駄々漏れて部屋中が埋め尽くされたり、騒がしいことこのうえない夜を過ごした。
角都はというと、そのことを先読みしていたのか、ヨルと飛段には内緒でシングルに避難していた。
あとから聞いたヨルは、宿を出てから角都に文句を垂れた。
「オレだってああなるならシングルで寝たかった」
「金がかかる」
「てめーはいいのかよ! 大体、おまえらその格好…」
角都は前髪を下ろし、外套の前ボタンを一番上まで留め、飛段は頭巾も口布もせず、外套の前ボタンを開けて胸を見せていた。
いつもと違和感ありまくりの姿にヨルは指摘せずにはいられなかった。
「だってよォ、スゲー息苦しいしィ…」
「貴様こそ、よく今まで恥もせず、風邪もひかなかったものだな。…ああ、馬鹿だからか」
「不死身だからだ、バーカァ!」
「わかったから、それ以上見るに堪えねーモン見せんな」
朝から調子を狂わせながら、3人は町を出た。
「うそ! もう居場所が特定できたのか!?」
居場所を話し始めた角都にヨルは驚きの声を上げる。
先頭を歩く角都は「オレの情報網をナメるな」と前を見ながら言う。
「貴様らが部屋で暴れている間、情報屋とコンタクトをとっていた。こうも簡単に見つかるとは、オレも思っていなかったがな。…場所はここからはそう遠くないところにある」
「“ウツリ”ってなんなんだ?」
飛段の質問に角都は答える。
「怪しげなものを作り出しては闇市場などで売り払っている男らしい。もう隠居したと聞いた」
「こんな傍迷惑なモン売ってんのか。なに考えてんだ」
ヨルは呆れた声を出した。
「理由はどうあれ、このふざけた指輪を外すことができれば、あとはどうでもいい」
角都は静かに言い返し、歩を進めた。
3人が到着した場所は、町の外れにある古びた2階建てのコンクリートの建物だった。
ところどころの窓ガラスが割れ、灰色の壁は薄汚れていた。
辺りは他の建物は見当たらず、建物の周りは雑草が茂っていた。
「こ…、こんなところに人なんて住んでんのかよ」
飛段は不安げな声を出した。
建物の屋上では1羽のカラスがヨル達に向かって「ギャァッ」と悲鳴のように鳴く。
「誰だ?」
「!」
振り返ると、杖をついた老人がそこに立っていた。
短い白髪で、老眼鏡をかけている。
買い物帰りなのか片手にはビニールの袋をぶら下げていた。
「貴様がウツリか?」
「なんだ? 若造」
角都に聞き返した言葉に思わずヨルと飛段が「ぶっ」と噴き出した。
いくら飛段の姿をしているからといって、若造扱いされたことが面白かったからだ。
角都はウツリに「ちょっと待て」と声をかけてから、2人に拳骨をお見舞いして沈め、またウツリのところに踵を返して戻ってきた。
「この指輪に覚えはないか?」
「!」
角都が見せた中指にはめられた指輪を見て、ウツリは目を大きく見開いた。
どう見ても、「知らない」と言い逃れができない反応だ。
「…オレが作ったものだ…。…話をしよう。中に入れ」
ウツリは角都達を通過し、建物の扉を開けて3人を招き入れた。
建物の1階のリビングで、ウツリはところどころが破れた茶色のソファーに腰掛け、3人は向かい側のソファーに詰めて座った。
「売り払ったものは、どれもしょうもないものばかりだった。主に戦闘に役立てるような武器…。たまに小物も作っていた。だが、オレが作った中でその指輪は最低の発明品だ」
「最低の?」
尋ねるヨルにウツリは答える。
「たとえば、里に暗号を届けようとするが敵に見つかり、絶体絶命の状況。その時、この指輪をはめ、別の奴と入れ替わって自分の体とともに犠牲になってもらい、暗号は守られる。…本当は体ごと入れ替わる指輪を開発したかったんだが、なにが足りなかったのか精神だけ入れ替わっちまう」
「骨董品屋に売ったのは?」
今度は角都が尋ねた。
ウツリはうなじを掻きながら答える。
「売ったというか、隠した。オレの発明品を狙う輩がいるからだ。この前、また忍び込まれて部屋を荒らされた」
この建物の窓ガラスが割れていたのは、侵入された形跡だったようだ。
ウツリは煩わしげに「もう隠居したってのに、カンベンしてほしいぜ」と呟く。
「これ、どうやって外すんだァ?」
「…鍵だ。鍵が必要だ」
そう言われて飛段は指輪の鍵穴を見る。
「鍵はアンタが持ってんのか?」
ウツリはヨルに顔を向けて頷き、薄笑みを見せた。
「近々捨てようかと思ってたところだ。おまえ達は運がいい。待ってろ。取ってきてやる」
ウツリは杖を支えにソファーから立ち上がり、背を向けて部屋を出た。
それを見届けたあと、ヨルは2人に「おい」と声をかけ、角都は「ああ」と答える。
「囲まれてるな」
3人の視線がリビングの窓に集中する。
「んだァ? 敵か?」
飛段が立ち上がろうとしたとき、いきなり窓ガラスを割って忍服を纏った人間が飛びこんできた。
「!!」
3人はソファーから出入口へ飛んだ。
割れた窓からは次々と忍達が侵入してくる。
ざっと20人近くいる。
「ウツリを出してもらおうか」
先頭の忍が代表として言いだし、ヨルが尋ねる。
「出してやってもいいけど、どうする気だ?」
「奴が作り出した発明品をすべて回収させてもらう」
「なら、オレ達の用事が済んでからにしろ」
角都の言葉に忍はフッと笑った。
「悪いが、我々も急ぐ身だ」
忍が手を挙げると、背後で待ち構えていた忍達が一斉に動き出した。
ヨル達が戦っている最中、2階の部屋でウツリは戸棚の奥から銀色の小箱を取り出した。
「下が騒がしくなってきたな…」
下の騒ぎを気にしながらも、小箱を開け、中にたったひとつだけおさまっていた銀の指輪をつまんだ。
「しかし…、オレにもつきがまわってきたもんだ…。コレさえあれば…」
その時、バンッ、と勢いよく扉が開き、ウツリはビクリと体を震わせて振り返った。
部屋に突入してきたのは、ヨルと、見た目角都の飛段だった。
地怨虞がうまく操れないのか、飛段の両腕はだらしなく床に垂れている。
ヨルはそれを巻きとって部屋の中に入れ、扉を閉めた。
向こう側から敵が「開けろ!」と扉を乱暴に叩いている。
2人は扉に背を持たせかけて侵入させまいとする。
「おっまえ…っ、せっかく最強な体持ってんのに、なんで有効活用しねーんだよ!!」
「しょーがねーだろォ! 印も結べねえし! つーか、下、角都ひとりにして大丈夫なのかよ」
「外側は不死身だし、内側はアレだ。ほぼ大丈夫だろ」
先程もうまく大鎌を扱っていたのを思い出す。
「なんだ、若造の方じゃないのか…」
「!」
ヨルはウツリの持っている指輪に目を留めた。
「それ…!」
「ああ。もうひとつの指輪だ。コレを使い…、オレは新しい体を手に入れる」
ウツリはそう言って不気味な笑みを見せる。
「ハァ!?」
「オレももう年だ。最初は賭けだったさ。それに恐ろしさもあった。裏の者に売れば、長生きはできそうにない。だから、表の者が買いやすいように骨董品に売りつけたんだ。小物屋に売りたかったが、引き取ってくれるところがどこにもなくてな。捨てられても困るだろう? 道端で売りつけても、胡散臭がって誰も買いやしない」
「それでまんまと角都と飛段がはめちまったわけだ」
「いや、角都にはめたのはおまえだからな? ヨル」
真剣な顔で言うヨルに思わずツッコむ飛段。
「まさか、おまえ達のようなものが持ってくるとは…、計算違いだったな。だが、オレも焦ってるんだ」
戸惑いながらも、震える手つきでウツリは自分の人差し指に指輪をはめようとした。
それを見過ごせず、ヨルの行動は素早かった。
背中から左手用の夢魔を引き抜き、刃先で指輪を上に弾いた。
「あ!」
3人が指輪を見上げたとき、飛段の背後の扉が壊された。
忍達が侵入してくると同時に、ヨルは指輪に向かって手を伸ばし、うまく小指に入れた。
「!」
そのあと、磁石のように引っ張られ、飛段と手を重ねた。
それから角都の体とシンクロすると同時に、ヨルは素早く土遁の印を結び、飛んできたクナイを硬化した両腕で弾く。
「スゲー! おまえ土遁使えるわけ!?」
「覚えてただけだ! 飛段はオレの武器で戦え!」
飛段は床に落ちた夢魔を拾い、敵に斬りかかっていく。
敵に囲まれたヨルの背中から圧害が出た。
ヨルは角都が結んでいた風遁の印を思い出しながら印を結ぶ。
「風遁・圧害!」
「ちょ…っ、待て! ここで出すのか!?」
止める飛段の言葉を無視し、ヨルは圧害を発動させた。
うまく制限ができず、圧害の口から吐き出された台風が忍もろとも天井を吹っ飛ばす。
すっかり静けさを取り戻し、剥き出しになった建物の2階でヨルと飛段は悪だくみを考えていたウツリを見下ろし、睨みつけていた。
戦意を喪失しているウツリは小刻みに震えながら、「すみません…、調子に乗りました…。ごめんなさい…」と素直に謝る。
それで2人が簡単に許すはずもない。
「「ごめんなさい」「すみません」で済んだらジャシン様はいらねえーんだよ、あァ!?」
「血の夢見せるぞコラァ!」
まるでタチの悪い不良のような2人を、ウツリは泣きながら「鬼だ」と思わずにはいられなかった。
「ああん?」
「クソヤロー」
「やめろ」
ゴッ!!
その声とともに2人は背後から殴られた。
「角都!」
「角都ゥ!」
「今度はおまえ達が入れ替わったのか」
「うそ! なんでわかった!?」
その現場を見ていない角都に驚くヨルに角都はため息混じりに答える。
「オレの名前を呼んだ時点でわかるだろう」
角都は2人の間を通過し、ウツリの胸倉をつかんで持ち上げた。
「ひ…っ」
「自分用にひとつ残しておいたか。だが、まんまとヨルに横取りされた様子だな。…貴様がオレ達にするべきことはなんだ? 思い出して言ってみろ」
角都の迫力に怯えながら、ウツリは震えた声で言う。
「ゆ…、指輪を外す…」
「そうだ」
角都は胸倉から手を放し、解放されたウツリの体は床に尻餅をついた。
ウツリは額に汗を浮かばせながら、そそくさと戸棚を漁り始める。
もう目の前の3人に関わってはいけないと判断したのだろう。
それもすでに遅い判断だった。
本に挟まれていた小さな鍵で指輪を外されたあと、その指輪はウツリの手に渡らず、角都の力強いコブシに握りつぶされてただの銀の塵となった。
「またこんなくだらないものを作り出せば、殺す。他人の体ではなく、自分の体で長生きできるよう心がけることだな」
絶句するウツリに捨てゼリフを残し、角都はヨルと飛段を引きつれて1階へと降りた。
「他人の心臓で生きてるヤロウが、それを言うのかよ」
「オレはちゃんと自分の体で生きている。長生きできるよう、ちゃんと心がけてもいる」
飛段の呆れた言い方に角都はしれっと答える。
「屁理屈だ」
ヨルはそう言って肩を落とした。
「それにしても、せっかくいい眺めの体だったのになァ」
「うんうん」
角都の背中を見つめながら飛段が言ったことに、ヨルも頷いた。
角都は肩越しに2人を見ながら言う。
「おまえ達に言っておく。体が大きいのも考えものだ。姿が隠しにくいし…」
ゴッ!
出入口から出ようとしたとき、角都は潜るのを忘れて額をぶつけた。
「…自分の身長…忘れて…ぶふっ」
「くっ…、ヨル…っ、笑うな…っ、ぶくく…」
目を逸らして笑いを堪える2人。
しかし、目に見える殺気に笑いを引っ込めざるを得なかった。
「よし…、互いのパーツを交換して縫いつけてやろう…。まずは首からだ」
目がマジなうえ、口から地怨虞が漏れている。
「…やっぱ角都はこうでないと…」
「でも、もうちょいオレの体でいてくれても…」
イヤアアアアア!!
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