リクエスト:要は中身
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ゲホゲホッ」
小棚の上に積まれた何冊かの古文書をどけただけで大量のホコリが舞いあがり、ヨルはたまらず咳き込んだ。
一方、その部屋の隅に移動した飛段は、顔面にクモの巣が引っかかってしまい、「うわっ」と声を上げていた。
足場も色んな資料や骨董品が広がったり転がったりしているので歩きづらく、ほこりにまみれた2人の顔には露骨に“不機嫌”が貼りついている。
ここは角都の知り合いが経営している小さな骨董屋だった。
そこには古い本や品物がそろっていて、角都は新しい古書が欲しくて立ち寄ったのだ。
だが、その古書の探し役はヨルと飛段に任せ、当の本人は店先でこの店の主人と古い話で盛り上がっている。
「あのヤロー、自分のモンは自分で探せってんだ。パシりやがって」
「今回、賞金首を取り逃したからその罰ゲームみたいなもんだろ」
ここに来る2時間前、ヨルと飛段が目的の賞金首の取り合いをしたせいで、まんまと賞金首に逃げられてしまった。
獲物を逃してのこのこと戻ってきた2人に、角都は硬化したコブシを食らわせ、「罰だ」と2人にこの仕事を押し付けたのだった。
「とりあえず、さっさと捜してご機嫌になってもらおうぜ、飛段」
「へーへー」
飛段は口を尖らせながら、棚の引き出しを開けたり、ツボの中をのぞいたりする。
「…あ?」
別の棚を開けた飛段は、その中に入ってある銀細工の小箱を見つけた。
明らかに本1冊が入る大きさではなかったが、何気なく手に取り、振ってみてカラカラという音を聞き、箱を開けてみる。
「!」
そこには、2つの銀の指輪が入っていた。
(婚約指輪、ってやつか?)
首を傾げた飛段は、肩越しにヨルを見る。
ヨルは積まれた本の題名を指でさしながら確認しているところだった。
飛段は再び指輪に視線を落とし、その内の1つを手にとった。
よく見ると、指輪には小さな鍵穴がある。
試しに中指にはめてみた。
婿用だったのか、呆気なく飛段の中指にするりと入った。
「おお、ぴったり」
その瞬間、頭に、バンッ、と衝撃が走った。
「痛ってー!」
頭を押さえてその場にうずくまり、しばらく頂点からビリビリと走る痛みに襲われる。
ヨルは飛段を叩いた分厚い本を抱えたまま飛段を睨みつけるように見下ろした。
「なにサボッてんだよ、バカ飛段」
「サボッてねェ…。サボッてねえよォ…」
飛段はうずくまったまま訴える。その手にはまだもう片方の指輪が入った小箱が握られたままだ。
ヨルの視線がそれに移る。
「? 飛段、なんだそれ?」
「ああ? これェ? さっき見つけた婚約指輪ァ…」
飛段はそう言って小箱を開けて中身と自分の中指にはめた指輪を見せつけた。
それを見たヨルは「ぷっ」と噴き出し、「おまえは誰と婚約する気だ」と笑う。
「おい、まだか」
その時、部屋の出入口に角都が現れた。
主人との話は済んだようだ。
「ああ、これだろ?」
ヨルは飛段で叩いた本を角都に見せつけた。
角都は褒めもせずに「さっさとしろ」とその本を手に取るために部屋に足を踏み入れる。
そんな角都の態度にムッとしたヨルは、飛段の手から小箱をひったくり、中の指輪をつかんで角都に近寄った。
「ほらよ」
本を渡そうとしたとき、ヨルは不敵な笑みを浮かべ、差し出された角都の左手をつかみ、その人差し指に無理矢理指輪をはめた。
「!」
いきなりの不意打ちに驚く角都の足下に、渡されるはずだった本が落ちる。
「それ、婚約指輪だってさ。飛段とおそろいだな」
1、2歩角都から離れたヨルは腕を組んでニヤニヤしながら言った。
けれど、内心ではヨルも少し驚いていた。
まさか、第一関節で止まるだろうと思っていた指輪がすっぽりと角都の人差し指の奥まで入ったからだ。
(もしかして、どっちも男用?)
どちらもびっくりするぐらいサイズがぴったりだ。
「貴様…!」
角都は左手を握りしめ、ヨルを殴ろうと振り上げる。
「待てよ! それぐらいでキレんなって! 大体角都が人使い荒…」
慌てるヨルの言い分も聞かず、角都は握ったコブシを振り下ろした…つもりだった。
「!?」
角都の左コブシは狙いを大きく外し、飛段の方へとんでいく。
「な!?」
当然驚く飛段。
だが、顔面を守ろうと上げられた飛段の左手も勝手に角都の方へと引っ張られるように移動する。
パンッ、と乾いた音とともに、角都の左手と飛段の左手が重なり、互いの手を握りしめた。
「…え? なにしてんだおまえら!?」
その光景は、男同士がイチャついているようにしか見えない。
飛段と角都は互いの左手をとろうとしたが、2人の目が合った瞬間、突如、2人の体に電流が走った。
「な、なんだ!?」
「これは…!」
バチイッ、と2人の間に火花が飛び散り、2人は弾かれるように手が離れるとともにその場に仰向けに倒れた。
「2人とも!?」
ヨルは2人に駆け寄り、しゃがんで交互に顔をのぞきこんだ。
呼吸は正常で、ケガはひとつもない。
「おい! 大丈夫か!? 角都! 飛段! コラ、起きろ!」
目を覚まさない飛段にヨルが平手を打ちつけると、
「うるさい」
いきなりコブシが飛んできた。
ヨルは「わっ」と驚いて反射的に顔をそらして避け、尻餅をつく。
「な…、なにす…」
「オレは平気だ。騒ぐな、殺すぞ」
「…は?」
上半身を起こした飛段の顔つきは、いつもより真面目に見えた。
しかも、言葉遣いも角都のそれと似ている。
「痛ってェー。なんだァ? さっきの電気みたいな…」
続いて上半身を起こした角都は飛段を見て言葉を切った。
「角都…、「痛ってェ」って…」
角都と飛段は互いの姿を見て茫然としている。
ヨルが声をかけようとしたとき、先に角都が口を開いた。
「な…っ、なんで…、オレがそこに…」
「角都?」
そう声をかけたヨルに、角都ははっとヨルを見る。
「角都!? 角都って…」
同じく飛段も戸惑っている様子だ。
「貴様…、飛段か?」
「ハァ!?」
いつもとは違う飛段の言動にヨルと角都は嫌な予感を覚えた。
「……まさか…」
ヨルは傍に落ちていた手鏡を手に取り、角都に向けた。
鏡に映った自分の姿を見た角都は「あああああ!!?」と絶叫を上げ、「角都ゥゥゥゥ!?」と鏡に指をさした。
「おまえ飛段か!!?」
同じく驚いたヨルも顔を青くして声を上げた。
角都…いや、角都の体をした飛段は「バカなァァァァ!!」と頭を抱えて絶叫を上げ続けた。
のちに、「うるさい」と飛段の体をした角都に殴って黙らされるハメになるが。
.