リクエスト:頬も林檎色
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
歯科医院から出てきたオレ達の表情は暗かった。
結局ヨルの歯は治せなかった。
角都は歯医者に折れたドリルの代金を請求されてしまったが、オレがケガをしたからと理由つけてチャラにしやがった。
またオレの額に×印の絆創膏が貼りつけられる。
「なんでドリルには勝って、虫歯には負けてんだよ」
ヨルの歯は、ドリルにも勝る頑丈さだった。
「安っぽいドリル使ってる医者が悪い」
さっきの恐怖と落胆が合わさって、さらに機嫌が悪くなってる。
「元はといえば、貴様がりんご飴ばかり食っているからこんな面倒なことになってるんだ。金のない貴様を医者に連れていっただけでも感謝してほしいくらいだ」
なのに、角都は恩着せがましいことを言いだした。
ヨルの目元がピクリと動く。
「ああ悪かったな! 面倒で!」
「あーあァ」とオレは声を漏らした。
険悪な雰囲気になってきた。
そろそろ止めないとマジで暴れかねない。
「やめとけって。宿でまたどうするか考えれば…」
「飛段は黙ってろよ!」
そう怒鳴られたとき、カチーンときた。
思い返してくれ。
ヨルもそうだが、オレも今日一日でどんだけ痛い目にあったかを。
ゴッ!
気が付いたら、ヨルの右側頭部を反射的に殴ってた。
ゆっくりと振り向くヨルの目が徐々に朱色に染まる。
キレたな。
けど、お互い様だ。
「このクソガキ―――!!」
「やんのかババア―――!!」
ドゴォン!!
瞬間、オレ達は角都のコブシに殴り飛ばされ、一軒家の壁を突き抜けた。
「いい加減にしろ。2度と虫歯ができないよう歯を全て叩き折るぞ」
オレは虫歯ないのに。
「痛ってェな、クソジジイが…」
後頭部を押さえ、ヨルより先に身を起こす。
食事中だったこの家の住人達は、家族そろってちゃぶ台を挟んでオレ達を凝視していた。
ヨルは気絶してるのか死んでるのか仰向けに倒れたままピクリとも動かない。
仕方なく背中におぶってやり、「お邪魔しましたァ」とオレ達が空けた穴から出た。
「オイオイ、さすがに死んだんじゃねー…の?」
穴を抜けると、敵に囲まれていた。
角都も同じだ。
どこかで見た格好だと思ったら、数時間前にオレ達を襲撃してきた奴らの仲間のようだ。
逃げた奴が増援をつれてきたな。
数は20はいるだろう。
「…マジかよ、面倒クセーな」
ため息をつくと、ヨルがオレの肩をつかんだ。
「お、生きてた」
「飛段…」
唸るような声に「ん?」と肩越しに振り返った。
うつむいたヨルの顔が少し長めの黒髪に隠れていて表情が窺えない。
「文句ならあとで聞くぜ」
今は状況が状況だ。
だが、ヨルは構わず顔を上げて言葉を続ける。
「…悪かったな」
「ハァ? !?」
その表情は実に爽やかだった。
目もキラキラとしているではないか。
今にも「ハハハ☆」と風をつれて笑いそうだ。
「誰だおまえ!?」
「おまえなりにオレのことを心配してくれたんだろ。なのにオレは自分のことばかりで…、本当に悪かったな」
オレはぞっとして鳥肌を立たせた。
この背中の物体は本当にヨルなのか。
角都が強く殴ったせいで頭強打して壊れてしまったのだろうか。
ヨルは自分からオレの背中から下りて前に出た。
軽やかなステップだ。
「角都も悪かったな。せっかく歯医者につれてってくれたのに。オレはおまえに感謝するべきだった」
「…誰だ貴様」
角都まで疑い始めた。
それでもヨルは気にせず「あはは」と爽やかな笑いをする。
敵も何事かとビビっている。
「いや、面倒をかけた詫びと…」
ヨルは自分の口を手で覆い、なにかを吐きだした。
手を差し伸べて見せたのは、芸術的に抜けた1本の虫歯だった。
もしかして、角都が殴った時に抜けたのか。
「オレを苦しめていた虫歯をとってくれた礼に、こいつら全員血の夢見せてやるよ」
この場にいる全員が、天使の笑みから悪魔の笑みに変貌した瞬間を見てしまう。
ヨル、復活。
そのあとは、口にできないほどの惨状となった。
敵もタイミングが悪かったな。
ご愁傷様。
.