リクエスト:頬も林檎色
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翌朝、角都に腹を踏まれて起きたオレが、部屋の中に設置された洗面所に行った時だ。
「痛っ」
オレが歯ブラシに手を伸ばしたとき、突然ヨルが顔をわずかに歪めた。
「どうした?」
「……いや…」
ヨルは片眉を吊り上げてそう答え、コップに入った水を口の中に含んでゆすいで吐き出し、怪訝そうな顔をしたまま洗面所から出て行った。
オレは首を傾げ、歯ブラシに歯磨き粉をつけた。
宿から出たあとも、ヨルは右頬に手をあてたまま、わずかに眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしていた。
歯の隙間になにか詰まったのだろうか、なにも食べてないのに口の中をモゴモゴとさせている。
「ヨル、ヨル」
オレは「手を出せ」と声をかけ、素直に手を差しだしたヨルの右手につまようじを1本そっと載せた。
ブスッ
「痛てー!」
なにを思ったのか、せっかく渡してやったそれの先端をオレの眉間に刺した。
当然オレは眉間の痛みに悲鳴を上げた。
「どういうつもりだ」
「シーハーシーハーしたいのかと思って」
オレは「痛て」と眉間に突き刺さったつまようじをピッと抜き、血が出てくる前に絆創膏を貼りつける。
「オレの歯にものは挟まんねェよ」
そう言いながら立派で白い歯を剥いた。
なんかイライラしてるようだ。
「うるさい。黙って歩けないのか、貴様ら」
先頭を歩く角都もイライラしてるようだ。
この2人、すぐキレるよな、ホント。
ジイちゃんバアちゃんだからか。
山道を歩く途中で休憩をとっていた時だ。
宿で角都が握ってくれたおにぎりを食べようとしたら、いきなり敵に囲まれた。
全員、顔まで隠れた忍服を着ている。
「覚悟しろ、暁!」
こっちはしんどい山道歩いてきたってのに。
それにたった5人でオレ達に勝てると思ってるこいつらの余裕にも腹が立った。
「ゆっくり食事もさせてくれねーのかよ」
オレは右手におにぎり、左手に大鎌の柄を持って敵と向かい合った。
ヨルはやれやれといった様子で立ち上がり、背中から夢魔を引き抜いた。
角都もおにぎりの包みを懐にしまって立ち上がる。
オレは敵が向かってくる前におにぎりを一口食べた。
梅。
「角都、たまには肉入れろって言ってんだろ」
「梅肉だ」
「梅は梅だろォ!」
そう言いながらもオレは一口二口と食べて手に持ったおにぎりを食べ終え、指を舐めた。
「なめやがって!」
そう叫んで先に向かってきた奴に、口の中の梅の種を顔面に飛ばし、「うっ」と目を閉じた瞬間に懐に潜り込み、大鎌で切り付けた。
「こいつ…!」
「速いぞ!」
「バーカァ。てめーらがとろすぎなんだっつの」
これでも暁一のろまなんだぜ。
一人がやられて自棄なのかオレならやれると思ってるのか、残りの4人全員が一斉にかかってきた。
「オレも食事時だな」
その声に右隣を見ると、ヨルが朱色の目をして敵を見据えていた。
どいつが一番美味そうな血が流れているか見定めているのだろう。
「食いしん坊が。太るぞ」
「生まれてこのかた、太ったことねーよ」
女なら誰もが妬みそうな言葉だな。
「あ、一番右端の奴は残してくれよ」
どうやら、今日の昼飯を決めたようだ。
オレの大鎌が、ヨルの夢魔が、角都のコブシが、ひとりを残して一撃で始末した。
残された忍が「え?」と漏らし、オレはすれ違い際にそいつに足を引っ掛けて転ばせる。
「弱ェ弱ェ弱ェ! ジャシン様もガッカリだぜ! もう少し張り合ってみせろよ!」
明らかに怯えるそいつに、オレは見下ろして嘲笑った。
「おい、それはオレのメシだ。死なない程度に吸ってから儀式に使えよ」
ヨルはそう言ってオレの横を通過し、そいつの胸ぐらをつかんで無理やり立たせた。
そいつは今にもションベンを漏らしそうなほどガクガクと怯え、なされるがままになっている。
ヨルは構わず首筋に噛みつく。
だが、叫んだのはヨルの方だった。
「痛ってえええええ!!」
「「!?」
オレも角都も何事かと驚いた。
ヨルは痛みのあまり胸ぐらをつかんでいた手を放し、両手で頬を押さえた。
敵の術か。
いや、あんな忍ごときが、そんなヒマはなかったはずだ。
「ひ…、ひいい!」
「あ!」
解放された忍はパニックを起こしかけながらも懐から煙玉を取りだし、地面にぶつけて煙を起こした。
煙に紛れたくらいではヨルから逃げることはできないが、ヨルはそれどころじゃなかった。
「く…!」
ヨルは頬を押さえたまま、両膝をついていた。
「ヨル!」
オレはヨルに駆け寄り、その顔をのぞきこんだ。
「…あれ?」
なんか、ほんのりと右頬が腫れている。
「…なんの腫れだ?」
気になって、ツン、とつついてみた。
すると、全身に電気が走ったかのようにヨルは「ギャ―――!!」と叫んだ。
腹から出した叫び声にやまびこも「ギャー」「ギャー…」と返ってきた。
「触んじゃねえェ!!」
ゴッ!!
コブシで殴られるならまだしも、そばに転がっていた石で殴られ、オレは地面に沈んだ。
これほど痛かったんだと訴えられたようだ。
「…ヨル、口を開けろ」
近づいてきた角都は目線を合わせるようにヨルの前でしゃがみ、唐突に言い出した。
「へ?」
「いいから開けろ。殺すぞ」
戸惑っているヨルに構わず角都は脅し、
「ちょ、待…、あが…」
アゴをつかんで無理やりこじあけ、中をのぞいた。
それから納得した顔をして言う。
「…虫歯だな」
頭のコブをさすりながらオレは「あー、なるほど…」と納得の声を漏らした。
「虫歯!? …ってなんだ?」
角都の手に解放されて驚きの声を上げるが、そのあと首を傾げるヨル。
どうやら、生まれてこのかた、虫歯もできたことがなかったようだ。
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