リクエスト:面倒な数字
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3とは面倒な数字だ。
なにより、面倒の代表が“三”の指輪をしているのだ。
誰もが納得し、頷けることだろう。
数に置き換えれば奇数なので、金の山分けがしにくい。
文字に置き換えれば、“角”という文字が入っただけでげんなりしてしまう。
オレの一文字だというのにだ。
三角関係という言葉を思い出し、それを一瞬でも浮かべた自分自身に殺意が湧く。
ジャシン教のマークにもその嫌いなものが入っている。
だからどこか憎いのだろう。
「角都」
「角都ゥ」
オレは三角形のどの位置なのだろうか。
そしてまた、ため息が出てしまう。
夕方が近づいたころに河原に着き、いつもより早いが野宿をすることにした。
2人より厚着だというのに、オレは寒気を覚えた。
夕方になって冷えてきたのだろう。
なのに、
「冷てー!」
「飛段、魚だ魚!」
オレより薄着の2人は外套を脱ぎ、ガキのように川遊びをしている。
オレがガキの頃はあんなにはしゃぎはしなかった。
落ち着きすぎていたのかもしれない。
オレは奴らのはしゃぎ声を聞きながら、飛段とヨルが集めてきた枝に火をつけた。
ヨルは飛段から杭を借り、足元を泳ぐ魚に向かって振りおろし、魚を捕まえた。
今晩は魚に決定だ。
オレは背後の岩に背をもたせかけ、ビンゴブックで次に狙う賞金首の確認をしようとした。
水滴がポタポタと落ちる音が聞こえ、ビンゴブックから顔をあげると、濡れて髪が下りた飛段がこちらを見下ろしている。
「角都ゥ、圧害達出せば?」
「…なに?」
心臓達を気まぐれに出すことはあったが、飛段から言われたことはなかった。
遊びたいのだろうか。
怪訝な目で見つめていると、飛段は眉を若干ハの字にする。
「睨むなよ。背中、ゴツゴツしててもたれにくそうだから言ったんだ。それに、4匹もバカでかいもん背負ってんだし、体軽くしたらどうだ?」
「……………」
ふとヨルの方に目を向けると、話し声が丸聞こえだったのか、ヨルは目を輝かせてなにやら期待していた。
圧害と遊びたいのが伝わってくる。
圧害はヨルのお気に入りだ。
オレの心臓だというのに、ベタベタ触られるからあまり出さないようにしている。
しかし、飛段の言うことも一理ある。
少しは体のだるさがマシになるかもしれない。
オレは黙って外套を脱ぎ、心臓達を外に出した。
「圧害!!」
さっそくヨルが圧害に飛びついた。
圧害は鳴き声のような声を出し、ヨルの体にすり寄っている。
圧害もすっかりヨルに懐くようになった。持ち主としては複雑な気分だ。
アレも一応オレの心臓だからな。
「ヨルー、ついでにイノシシかなんか、肉系狩ってきてくんね?」
「そいつらと一緒に」と飛段が4匹を指差すと、ヨルは圧害にまたがった。
「わかった。よし、行くぞ」
いつもは飛段の指図に反抗するヨルだが、圧害達と一緒ならいいのだろう。
あいつは、要は一人で行動するのが嫌なだけではないのか。
オレ達と行動を共にする前は、ずっと一人だったというのに。
ヨルは心臓達と一緒に森の中へと向かった。
心臓達は主人が誰だかわかっているのか。
「角都はこっち」
「!」
隣に腰かけた飛段がオレの腕を引っ張り、己の膝の上にオレの頭をのせた。
ついでに頭巾をとられてしまう。
「なんのつもりだ?」
こちらを見下ろす目の前の顔面を殴ろうとしたとき、
「だって角都熱あるじゃん」
コブシを握ったまま動きを止めた。
悟られないようにといつものオレを装って隠していたつもりだったというのに。
「いつから…」
「殴る力弱かったし、食欲なさそうだったし、歩くスピードもいつもより遅かった」
馬鹿にバレてしまうとは、と内心でショックを受ける。
「それにいつもより機嫌が悪い」
それはいつものことだ、と口には出さず、内心でツッコむ。
「ちょっと待ってろよ。今、水を…」
オレは飛段の右手首をつかみ、己の手に当てた。
川遊びをしていたせいか、その手は冷たく、熱をもった額には心地のいい冷たさだった。
「おまえの手でいい」
いや、おまえの手がいい。
驚いた飛段だが、すぐに「ゲハハ」と照れるように笑った。
「栄養のあるもん食べて、さっさと寝て、早く治してくれよ、角都。オレもヨルも、おまえいないとダメだから」
オレだけのその言葉と、オレだけのその笑顔に、オレの中の苛立ちはふっと消えた。
オレも、飛段とヨルがいなければダメになるのだろうか。
独りに戻っても、昔の自分に戻れないことだけは確かだろう。
この位置が、オレにとっても奴らにとってもちょうどいいものかもしれない。
*****
「……早く来い」
「お、ヨル」
もうずっと前から、ヨルが、仕留めた熊とともに戻ってきていた。
言いたいことはわかっている。
こちらに戻り辛かったのだろう。
「い…、行っていいのか?」
心臓達も心なしか遠慮しているように見える。
「早く来い!」
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