リクエスト:ドナドナの子牛達
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哀れ商品となってしまったオレとヨル。
ワイヤーでぐるぐる巻きにされて連れてこられた場所は、窓のない薄暗い部屋だった。
檻に放り込まれ、足枷をつけて体中のワイヤーを解かれ、「競売が始まるまで大人しくしていることだな」と右腕の男はそう言って部屋から出て行った。
オレ達ならすぐにここから出られると思っていた。
こっちにはヨルもいるしな。
「どうやって出る?」
オレが尋ねると、ヨルは「角都に知らせる」と言って背中から血で出来たコウモリを飛ばした。
コウモリが檻の柵の隙間から出ようとしたとき、
バチィッ!!
「「!?」」
稲光が光り、コウモリは床に飛び散った。
檻の柵を見ると、柵にはベタベタと札が貼られていた。
「結界か…」
触れると電流が流れる仕組みになっているようだ。
電撃でも死なねえが、武器がなければ脱出はムリだろう。
そこでオレは頭を使った。
「ヨル、夢魔出せるか?」
それをオレが使えばダメージは受けるが檻を壊して出られる。
「そうか!」
ヨルは早速夢魔を背中から生やそうとした。
バチィ!!
「うわああ!!」
「!?」
いきなり、ヨルの背中から青白い光が発生し、ヨルの体に電流が走った。
背中を見ると、檻に貼りついてあるのと同じ、札のようなものがサラシの上に貼ってある。
「クソ…!」
ヨルは床に横に倒れ、悔しげに歯ぎりする。
痺れたのか、ビクビクと痙攣していた。
オレは手を伸ばして剥がそうとしたが、ヨルにも負担がかかると思って手を止めた。
「そこの兄ちゃん達、ここから出してくれ!!」
「いっそ殺してくれェ!!」
「売られるなんて嫌だァ!!」
驚いて周りを見ると、他の檻に入れられた商品の人間が縋るようにオレ達に訴える。
老若男女問わず、色んな人間が檻にいられている。
綺麗、歪、小さい、大きい、諦めてる奴、泣き喚く奴、気が狂って笑ってる奴など。
「うるせーよ! 出れたらとっくに出てるっつーの!!」
オレが怒鳴っても「助けて助けて」と縋る奴もいる。
言い返すのが面倒になってオレはその場に胡坐をかいて座った。
「角都…。そうだ、角都は?」
ヨルには角都がどの位置にいるのかわかる。
「……ダメだ。まだ遠い」
聞かなきゃよかった、とオレは項垂れた。
*****
今日は最悪なパターンが続く。
時間が経って、手の甲のアザが消えた。
角都も同じ状態になってるはずだ。
これで角都の位置と状況がわからなくなった。
本気で焦りだしたとき、鉄の扉が開いた。
入ってきたのは、右腕の男だった。
「間もなく開始だ」
オレ達が、商品として売られてしまう場だ。
移動するために檻の扉が開かれ、オレ達は檻から出た。
右腕の男がオレ達の先頭を歩き、廊下を渡りながら会場へと誘導する。
オレ達は商品の人間の後ろの方を歩かされた。
このまま奴の後頭部を蹴るか殴るかしてやろうかと思ったが、ヨルに止められる。
「このまま逃げられんじゃねえ?」
右腕の男に聞こえない程度に声を潜めてヨルに言った。
ヨルも声を潜めて返す。
「ダメだ」
明らかに警戒している様子だ。
こちらに連れてくるときは厳重だったのに、手首を縛り、足枷をしているからといって油断しすぎではないか、そう思っているのだろう。
突然、オレ達の前を歩いていた男がこちらに振り返り、オレとヨルの間を通って逃げ出した。
後ろ側を歩く他の商品達も振り返ったというのに、右腕の男は振り返らない。
「ぎゃ…!!」
「…!?」
逃走した男の首が途中で飛んだ。
あとから体もバラバラになる。
血が付着して気付いたが、廊下にもワイヤーが張り巡らされていた。
「あの男、歩きながらワイヤーを張り巡らせてるのか?」
オレの言葉にヨルが頷く。
右腕の男の動作は見えないが、今もそうしているのだ。
巣作りをするクモのように。
「あの男から離れたら、死ぬぞ」
「それをオレに言うのかよ」
いつものセリフを言ってみたが、角都がいない今、五体を失うわけにはいかない。
連れてこられた場所は、灯りがロウソクしかない薄暗い空間だった。
そこには数人の男達が待ち構えていた。
右腕の男の部下だろうか。
奥には壺や瓶に入った奇妙な花、武器など、色んな品物が置かれていた。
他にも、檻に入れられた動物までいる。
頭が2つの犬に、牛なのか馬なのかわからない生き物など。
右腕の男がオレ達をその空間に入らせたあと、さっさと扉と扉を閉め、前の方へと移動した。
オレは後ろ側にいるため、右腕の男と部下の奴らに見つからないように扉のノブを回して引っ張ってみるが、いつの間にか向こう側から鍵を閉められてしまっていた。
周りを見回すと、反対側は幕となっていて、そこから照明の光が幕の隙間から漏れていた。
右腕の男が幕の向こうへと行く。
幕が開かれ、大勢の人間の声が聞こえた。
幕の向こうが会場の舞台となっているのだろう。
「お集まりの皆様、本日は闇オークションにご参加くださり、誠にありがとうございます。今宵も楽しい競りで望みの品をわが手に…」
丁寧な言葉で挨拶するのが聞こえる。
若干気持ち悪い。
「最初の商品は、賢人の骨で作られた大剣でございます!」
部下の一人が手袋をはめて大剣を手に取り、舞台袖へと出ていく。
「ご覧ください。この見事な美しくつややかな刀身を! 切れ味も見事なものです。人を殺すもよし、飾るもよし…。では、10万両から!」
「30!」
「45!」
「60!」
「80!」
客席から次々と声が上がり、価格がどんどん釣り上がっていく。
聞いていた商品の人間が耐えきれずにその場で嘔吐した。
泣き喚く者もいたが、部下達に黙らされる。
「最初は物、次に動物、最後は人間の順番で売っていくのか。オレ達は並び的に最後だろな」
「不死身だから」とヨルは続ける。
「その間に角都が来んのかよォ…」
できれば早く来てほしい。
もともと嫌いな数字がさらに嫌いになりそうだ。
*****
「皆様、お待たせしました! 本日の目玉商品、不死の男女です!!」
客達が騒ぐなか、オレ達は部下達に首根っこをつかまれて引っ張られ、舞台の真ん中に膝をつかされる。
助け来ねえ―――!!
ヨルも同じことを思ったのか、ショックを受けて顔を青くしている。
客席いっぱいの客の視線がオレ達に集中した。
オレ達の顔を見てさらにざわざわとうるさくなる。
それに嫌な視線だ。
やらしい笑みを浮かべてる奴も少なくない。
客の数は見たところ、3、400ってとこか。
誰もがヤバい仕事しているような奴らばかりだ。
会場を見回すと、汚れたコンクリートに囲まれていた。
窓もないため、舞台の照明がなければ暗闇と化すだろう。
どうにかして上の照明を全部叩き割れないだろうか。
暗闇ならヨルが一番有利だ。
人込みを避けて難なくここから抜け出せることができるのに。
「どうです? 美しい容姿でしょう?」
右腕の男が客に言った。
「ご覧ください…」と続け、袖からワイヤーを垂らす。
ドドド!!
「痛ってェ!!」
「うう!!」
いきなり背中から数本のワイヤーで串刺しにされた。
客の中で悲鳴を上げる者もいる。
オレ達の床下に血溜まりができた。
「なにしやがんだテメー!!」
オレの怒鳴り声を無視し、右腕の男は客に言う。
「この通り、死なぬ体です。傷口もすぐに塞がります。奴隷にするも、玩具にするもよし。ここで逃すのは実にもったいない!」
「かは…っ」
「ヨル!」
ヨルは頭を垂らし、血を吐いた。
オレと違って血を摂取しなければ治りが悪い。
「では、不死の男性、10万両から!」
「30万!」
「オレは60万出す!」
「85!」
「100だ!!」
会場が殺気立ったように感じた。
他の商品より値段の釣り上がりが増えていく。
「300万!」
「450!」
「600!!」
オレのはらわたが煮えくりかえる。
キレて客に飛びかかるのも時間の問題だ。
「ざけやがって…!」
立ち上がろうとしたとき、
「2千万」
いきなり値段が跳ねあげられた。
会場内がシンと静まりかえる。
「さ…、3千…」
客のひとりが対抗しようとするが、
「4千万両」
完全に会場内が静かになった。
落札決定だ。
オレの怒りの炎は完全に鎮火していた。
なぜなら、その低い声には嫌でも聞き覚えがあるからだ。
客席に挟まれた通路から大きな体がこちらにやってくる。
「その不死の女も、4千万両で買おう」
右腕の男の目付きが鋭くなる。
「失礼ですが、お手持ちは…」
同時に、3つの死体が舞台に投げられた。
その中には、ボスの死体もあった。
「ボス…!」
右腕の男が驚愕の顔でボスの死体を見下ろす。
「貴様の首を合わせればちょうどだ」
「角都!」
角都が舞台の上に着地し、右腕の男と向き合った。
「ああ、そういうことか…」
ボスの死体から顔を上げた右腕の男は小さく呟いた。
口元に笑みを浮かべ、両腕を広げ、ワイヤーを伸ばす。
「お集まりの皆様、ここからは余興でございます。とくとご覧くださいませ!」
ワイヤーの束が角都へと向かって伸びる。
「フン」
角都は印を結んで両腕を硬化させ、迫るワイヤーの先端を弾いた。
「ほお、そんな技が使えるのか!」
右腕の男は次の手をと今度はバラバラにワイヤーを操る。
角都は俊敏な動きで潜ったり飛んだりしながら避けていった。
オレとヨルと違って素早い動きだ。
背後からワイヤーが迫る。
「角都! 後ろだ!」
ヨルが声を上げるとともに、角都の体にワイヤーが巻きつこうとした。
「!」
角都は宙で宙返りして避け、片膝と左手をついてその場に着地する。
「良い商品になりそうだな」
右腕の男は角都まで商品にすることを考えだした。
ムリな話だ。
四方八方からワイヤーが角都に迫る。
角都は右袖から手を出し、縫い目から地怨虞を溢れださせ、それらを全て絡めとった。
「!!」
「終わりか?」
「ならば、これで…!」
左袖から一本のワイヤーを伸ばした。
それには起爆札がついていた。
ドン!!
角都の体に当たる前に起爆された。
再起不能にさせて商品にするつもりか。
「角都ゥ!!」
煙のせいで角都の姿が見えない。
その時、なにかがこちらに迫った。
爆風で飛んできた数本のワイヤーだ。
この位置だとオレとヨルの胴体が切断される。
「…え!?」
目の前に爆発から逃れた角都がオレに迫ってきたそれを硬化した左腕で受け止めた。
バシュ!
代わりに、ヨルの胴体の右半分が切断された。
「ヨル!!」
なんでヨルを助けなかったのか。
オレは切断されても縫えば済むはずなのに。
「商品が…!」
右腕の男は驚いてヨルに振り返る。
だが、ヨルの体が突然血へと液化した。
分身蝙蝠!
オレがそう理解すると同時に、舞台の床を突き破って、なにかが右腕の男の背後に飛び出した。
腕を解放され、夢魔を構えたヨルだ。
「落札だ」
ザン!!
振り下ろされた両腕の夢魔が右腕の男の背中を深く切り裂いた。
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