リクエスト:ドナドナの子牛達
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チリン…
桔梗笠の鈴が小さな音を立てた。
雨でもないのに、オレ達は桔梗笠を被ったまま、訪れた町の外れを歩いていた。
人気のない、薄い霧に包まれたその場所に、一歩一歩と歩くたびに鈴の音が響いた。
朝であるため、やや肌寒い。
「いかにもって場所だな」
オレの左隣を歩くヨルが笠のツバを指先で上げて呟いた。
辺りは崩れて原形を失った家がいくつもあった。
物理的に壊れた家に燃やされた家など。
角都の話では、昔の戦争の巻き添えを食らったそうだ。
もともとは、ここもあの町の一部だったのである。
「コソコソとするには十分な場所だよなァ」
「それも一時的なものだ。こんなあからさまに怪しい場所に長くいたいとは思わん。移動していなければいいがな」
先頭の角都が前を向いたまま言った。
そのまま奥へ奥へと進んでいく。
しまいには辺りに跡地がなくなった。
もう少し進んでいくと、半壊した家を見つけた。
そこに狙っている賞金首がいるらしい。
先に角都が入り、あとからヨルと一緒に入っていく。
ヨルが、暖炉の下に地下へと続く穴を見つけたが、肝心の穴の下は崩されていた。
ヨルは耳を澄ませるが、「人の音がしない」と首を振った。
角都は「そうか」と苛立ちのため息を吐く。
オレは「おいおい」と嘆きの声を漏らし、その場にしゃがんだ。
オレ達が到着される前に移動されていた。
骨折り損、という最悪のパターンだ。
*****
屋敷辺りを捜してみたが、結局、ターゲットは見つからず、オレ達は町に戻り、茶屋に入った。
四角いテーブルの端に笠を重ねて置き、角都は茶を、オレはそれに加えて団子を注文した。
「ここまで来て、無駄骨とはなァ…」
怒る気力も湧かない。
脱力したオレはテーブルの上にアゴを置いた。
隣に座っているヨルも頬杖をついてうっすらと疲れた表情を浮かべている。
「お待たせしました」
その時、店の店員が注文した3人分の茶とオレの分の団子を持ってきた。
オレ達の顔をチラチラと見ながらテーブルの上に置き、「ごゆっくりどうぞ」と一礼をして店の奥へと戻っていく。
オレはさっそく皿の上に載せられたみたらし団子を一口一口と食べた。
疲れた時には甘いもの。
イタチもよく言っていた。
オレの向かい側に座っている角都は、口布を下げて茶を啜ったあと、今後について話しだす。
「奴らはこの国を拠点としている。場所を移動しただけで、そう遠くは行っていないはずだ」
「まだ捜すのかよ」
うんざりしたような言い方をしたヨルに構わず角都は頷く。
「ああ」
「マジかよォ。諦め悪ィなァ」
オレは串をくわえたまま項垂れた。
金に対しての執着が強すぎるんじゃないか。
このままゆっくりと休憩できるかと思っていたのに。
「他の賞金首を捜した方が金を多く集められるんじゃねーか?」
もっともなことを言うヨルを内心で応援する。
角都は懐からビンゴブックを取り出し、付箋をつけたページを開いた。
いかにも金持ちなボスですってカンジの太ったオヤジと、頬のこけたスキンヘッドで30代くらいのオッサンが載っている。
人身売買の頭と、その右腕の男。
オレ達が狙っているのはこの2人だ。
「中途半端な値段の賞金首より価値があるうえに、うまくいけば他の賞金首が現れる可能性が高い」
「だから追い続けているのだ」と角都は続ける。
角都は頑固だから、よりもっともなことを言わない限り、諦めそうにない。
オレは論争に弱いから、ヨルに任せたが、ヨルはそれ以上のことは言い返せないのか、不機嫌な顔をしながら茶を啜った。
苦かったのか、余計に顔をしかめ、テーブルの下でオレの手をとり、己の口に近づけて手首に噛みついた。
八つ当たりなのか、噛む力が強い。
「貧血起きそう」
ヨルの口癖を口にする。
茶屋から出たオレ達は笠を被り、店の前で三角形に向き合った。
「で? 手分けして捜すのか?」
ヨルが問い、角都は「ああ」と答えた。
「なら、また探知蝙蝠使うか」
角都が頷くと、ヨルはオレの右手と角都の左手をつかみ、軽く牙を立てて噛みついた。
先程とはあまり痛みはない。
甘噛みのようなものだ。
ヨルが口を離すと、オレと角都の手の甲にはヨルの肩と同じ刺青が浮き上がった。
今から24時間、オレ達の位置と状態がアザからヨルに伝わる。
ヨルがターゲットを見つければ分身蝙蝠をオレ達に飛ばし、逆にオレ達がターゲットを見つければアザを擦ってヨルに伝える。
このまま分かれるかと思ったが、角都はオレとヨルを交互に指さした。
「おまえ達は共に行動しろ」
「「ハァ?」」
オレとヨルは同時に声を上げた。
このまま一人気楽にサボろかと思っていたのに。
「相手は複数だ。それに、おまえ達は自分の容姿が小綺麗なのを自覚しろ」
「あ、それってホメてる?☆」
茶化すと同時に角都に顔面をつかまれ、力を込められる。
「今すぐ顔面を潰してほしいようだな」
「ウソウソウソォ―――!!」
容姿を隠すために、オレ達は笠を被って顔を隠していたのだ。
以前、人身売買を生業とする賞金首を釣るために囮になったが(長編3話参照)、今回の相手は危険度が違うらしい。
部下も多いため、いつ襲ってくるかさえわからない。
もしかしたら、一般人に混じってどこかでこちらを窺っている可能性もある。
「ホント…、メンドクセー…」
先に角都が背を向け、オレ達も背を向けて反対の方向に進んだ。
*****
街中を歩き廻りながら、それらしい場所に入ったり調べてみたりしたが、さすがにあっさりとはいかない。
歩き廻っているうちにすでに数時間が経過した。
あとをヨルに任せて休憩したい。
狭い路地を肩を並べて歩きながら、オレはヨルに言う。
「角都に手配書借りればよかったなァ。聞き込みに使えんのに…」
「それは逆に危険だ。誰が敵かもわからねえんじゃ…」
まあ、ヨルはオレより頭も記憶力もいいから、手配書の写真は覚えてるだろうな。
早くもターゲットの顔がおぼろげになってきた。
「角都の方は?」
「だいぶ離れた。今のところ正常だから、オレ達と同じく捜し回ってんだろ」
ヨルは前を向きながら答えた。
「ふぅん…」
ぐうぅ…
同時に、腹が鳴った。
聞こえたのか、ヨルは立ち止まってこちらに顔を向ける。
呆れた目だ。
「団子じゃ足りねーんだよ。歩きっぱなしだしィ」
「空腹くらい我慢しろ」
自分だって、腹が減ったらすぐにオレの体に噛みついて血を貪るクセに。
「テメー、角都に小遣いもらってんならオレになんかおごれよ。どーせ、りんご飴買うことにしか使ってねーんだろォ?」
「それにしか使ってねーから小遣いもらってんだよ」
オレが金を持つとすぐに使っちまう。
だから角都はヨルにしか小遣いを渡していない。
贔屓だと思う。
「腹減ったァ(怒)」
「テメーは「耐え忍ぶ」って言葉知らねえな? 忍のクセに」
いつもの言い合いが始まろうとしたとき、ヨルがピクリと反応し、来た道を振り返った。
オレも気配に気付いて振り返る。
「おまえ達か、私達のことを嗅ぎまわっているのは…」
そこにはひとりの男がいた。
「飛段…」
「ああ」
ぼやけていた手配書の写真が鮮明になっていく。
あの頬のこけ具合のおかげで。
人身売買のボスの右腕の男だ。
男は両腕を伸ばし、袖口からなにかを飛ばした。
オレとヨルは左右に飛んだ。
同時に、被っていた笠が真っ二つになる。
「なんだ!?」
オレは武器の正体がわからないまま、背中に携えた大鎌を手に取った。
ヨルも背中から夢魔を生やして両手で抜き取って構える。
「糸か…!?」
確かに、言われてみれば右腕の男の周りを太い糸のようなものが蠢いている。
チャクラで操っているのか。
今は、建物に挟まれている日陰の中にいるが、日向なら光ってわかりやすかったかもしれない。
「ほお。どちらも常人より素晴らしい顔立ちだな。男も女も振り返りそうな…」
顔を隠していた笠がなくなり、右腕の男は品定めでもするかのような目でジロジロとオレとヨルを眺める。
気持ちの悪い視線だった。
ヨルも嫌悪が表情に表れている。
オレ達は顔を見合わせたあと、同時に右腕の男に突進し、武器を振るった。
「「!!」」
ピタリとオレ達の動きが止まった。
あと数センチで刃先が顔面に当たっていたのに。
オレ達の動きを止めたのは、糸だった。
腕と武器に巻きついている。
銀色の色が見え、強度や感触からしてワイヤーだ。
右腕の男は袖からそれを出していない。
ならばどこからワイヤーが伸ばされたのか。
見上げると、クモの巣のように建物と建物の間にワイヤーが張り巡らされていた。
オレ達はこれに引っ掛かったのだ。
「ぐ…!」
「い…っつ…」
チャクラで操られているため、オレ達の体を締め付ける。
もがくほど、それは強度を増していく。
肉は裂け、骨が砕かれそうになる。
右腕の男は右手でオレの腹を、左手でヨルの腹に触れた。
「実に惜しい」
ドドド!!
ワイヤーがバラバラにオレ達の体を貫いた。
「ごほ…っ」
オレとヨルは血をほぼ同時に吐いた。
手から武器が滑り落ちる。
ガクン、と項垂れると右腕の男はオレ達が死んだと思ったのか、ワイヤーのチャクラを消した。
一瞬浮遊感に襲われ、そのまま地面に倒れる。
「たわいのない…」
右腕の男はオレ達を見下ろして呟いた。
もちろん、これぐらいで死ねたら苦労はしない。
背を向くと同時にその背中に噛みついて血を奪って贄に捧げてやる。
死なないからって超痛かったぜ。
ヨルも同じことを考えているのか、ピクリとも動かない。
息を止めている様子だ。
右腕の男が背を向けて立ち去ろうと後ろに一歩足を引いた。
オレは静かに死んだふりをしながら襲いかかるタイミングを待つ。
ぐうううぎゅるうううう…っ
「「!!」」
オレとヨルはビクリとした。
オレの腹が鳴ったからだ。
「……………」
右腕の男は怪訝な目でこちらをじっと見下ろしている。
当たり前だ。
死体が腹なんざ鳴らすわけがない。
ぐぎゅうううううっ
再び鳴るオレの腹。
第三段がきそうになったとき、
ぎゅるる…ゴッ!!
「おご!!」
ヨルがオレの腹を蹴った。
しかも、みぞおちだ。
痛みのあまりのたうつ。
「テメー、胃とみぞおちの区別もつかねえのか!!」
オレはがばっと起き上がってヨルに怒鳴った。
ヨルも起き上がる。
「ぐうぐううるせえから黙らせたんだろが!!」
唸りながら睨み合っていると、気持ちの悪い視線がこちらを見下ろしていた。
「死なないのか」
わかりやすいほど、輝いた目だ。
欲しかったものを見つけたかのような。
「最悪…」
ヨルが顔を青くして呟いた。
*****
そして、今に至る。
「あの時、腹さえならなきゃ…!」
「テメーがメシ食わせてくれりゃ…!」
「「テメーのせいだァ!!」」
またもや、状況に関係なく言い合いになってしまう。
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