リクエスト:ジャシン様と角都
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・萃
飛段に会いにアジトに遊びに来た。
飛段とはついこの前会ったばかりだが、“暁”のアジトに来るのは久しぶりである。
まず最初に向かったのが、もちろん飛段の部屋だ。
“三”というマークが刻まれた扉を入って部屋を見回してみるが、見慣れた銀髪は目の端にも映らなかった。
部屋のあちらこちらにはジャシングッズが、床には血で描かれたジャシンマークが見当たったけど。
「ひだーん? 飛段ちゃーん」
呼んでも、やっぱり来ない。
近くにいれば、姿が見えなくても「ジャシン様ー!」と仔犬のようにテケテケと可愛らしく走ってくるのに(たまに勢いありすぎて捨て身タックルされてしまう)。
庭、エントランスホール、リビング、廊下など、アジト内をウロウロしてみるが、飛段の姿は見つからなかった。
すれ違いになったのではないかと思い、もう一度飛段の部屋に行ったけど、さっきと変わらず部屋の主はいない。
廊下に出て飛段の部屋の扉に背をもたせかけながら考える。
「―――となると…」
左隣の、“北”というマークが刻まれた部屋の扉に顔を向けた。
飛段の相方の部屋である。
その扉の前に立ってノックを3回する。
「どうぞ」の返事もない。
「勝手に入りまーす」
扉の鍵は開いている。
堂々と開けて中に入ると、部屋の主は低いテーブルの前に座りながら帳簿を書いていた。
「いるなら言ってください」
「……なんの用だ?」
部屋の主の角都さんはこちらに振り返ることなく低い声で言った。
「飛段知りませんか?」
「買い物に行かせている。直に戻ってくるはずだ」
飛段って、ちゃんとひとりで買い物できるのかな。
もう立派な成人なのに、飛段だからこそ不安になる。
なんだか保護者の気分だ。
「心配か?」
いつの間にかこちらに顔だけ振り返った角都さんが聞いた。
顔に出ていたようだ。
「そりゃあ…、飛段だから…」
「……………」
角都さんはまた前を向き、帳簿に筆を走らせる。
「…待ってていい?」
「好きにしろ」
そう返され、私は角都さんからすぐ近くの一人掛け用の黒いソファーに座った。
そこで飛段の帰りを待たせてもらう。
「………」
「………」
「……………」
「……………」
「……………………」
紙に走る筆の音と帳簿のページをめくる音しか聞こえない。
この沈黙、水の中にいるようでちょっと辛い。
窒息する…!!
平然とした顔を保つのも限界だ。
角都さんも察してほしい。
飛段、あなたよく息が続けられるね。
飛段は他人が鬱陶しいと思ってるにも関わらず喋り続けるタイプだ。
それが今更ながら羨ましく思う。
「……………………あの…」
部屋を支配していた沈黙が、私の一言で破られた。
「なんだ?」
角都さんは帳簿から目を離さない。
でも、返事を返してくれたことに若干安堵する。
とりあえず飛段が帰ってくるまで会話を持続させようと話を振った。
「角都さんって、部屋でもマスクと頭巾のままなのね」
暑くないのかな。
「面倒だからだ」
「…一度外してるの見たことありますけど、目の色や口の縫い目とか関係なしにモテると思いますよ」
筆の動きがピタリと止まり、角都さんは顔をこちらに向けた。
「ほう…。なにが望みだ? 褒めても金は渡さん」
目付きが鋭い。
私が金を請求するとでも思ったのだろうか。
「お金欲しくて言ったんじゃないし、私お金嫌いですし」
それを聞いた角都さんはフンと鼻で笑い、再び作業に戻った。
「……いつも帳簿つけてますね」
「“暁”のサイフ役だからな。……今月も赤字ギリギリだ」
最後の部分、明らかに機嫌が悪そう。
ふと、「また角都のバイトに付き合わされたー」と嘆いていた飛段の顔が浮かんだ。
帳簿になにが書かれてあるのか気になり、ソファーから立ち上がってこっそり角都さんの後ろから覗かせてもらった。
ワケのわからない数字がズラリと並んであり、目眩を覚える。
不死コンビ、芸術コンビ、動物コンビなど、使った金額がちゃんとコンビに分けられて記されている。
不死コンビの残金が明らかに多い。
ほとんどお金を使ってないようだ。
「節約してるんですか?」
「ああ。立場上、無駄遣いはできんからな」
一晩過ごすのは宿じゃなくて野宿でなんとかなるけど、
「ごはんとかは?」
角都さんは真顔で答えてくれた。
「主に、山にいる動物、川に入る魚、野に生えている草など…」
サバイバル!!?
飛段が昔よりたくましい体になったのはそんな野性暮らしをしていたからだと知った瞬間だった。
「飛段とコンビを組む前もそんな生活を?」
「一言でも文句を抜かした奴は瞬殺してやった」
まさに自分ルール。
不死身じゃないと角都さんとは絶対に組めない。
でも、せめて相手の言い分は黙って聞いてあげましょうよ。
「まさか飛段も…」
「野菜に文句をつけた時はそういうこともあったが、奴は肉さえ食えれば文句はそんなに言わん」
肉大好きっこだからね。
「コンビを組んでだいぶ経つけど、飛段のことどう思ってる?」
今気付いたことだが、自分でも驚くくらい角都さんに聞きたいことはいくらでもあった。
帳簿を閉じた角都さんは答える。
「殺してやりたい」
若干殺意を感じた。
「よくも不死身にしてくれたな」という、ため息をつきたそうな目でこちらを見る。
「そんなメンドクサイ目をしないでくださいよ」
犬だと思えば可愛げがあるのに。
「萃、あの男はいつか必ずオレが殺す」
その眼差しは真剣だ。
私は笑みを浮かべて同じ眼差しを返す。
「私がそうさせるとでも?」
しばらく見つめ合っていたとき、角都さんの扉が勢いよく開けられた。
「角都ー、買い物行ってき…」
私の姿を目にした途端、飛段は驚いた顔になって持っていた買い物袋を落とし、いきなり突進してきた。
「ジャシン様危ねええええ!!」
「へ!? きゃあああああ!!!」
ズザアアアアアア!!!
捨て身タックルされてしまい、飛段に抱えられたまま床をスライドした。
飛段に抱えられるのは嬉しいことだけど、床を擦れた背中が超痛い。
天国と地獄を味わっている私に構わず、飛段は私を抱えたまま角都さんをキッと睨みつけながら声を上げる。
「角都! ジャシン様になにしやがったァ!!」
「勘違いするな。オレはなにもしていない」
「ウソつけェ!! ジャシン様がこんなにボロボロじゃねえか!!!」
あなたに捨て身タックル食らわされたからです!!!
でも、そんな天然バカなところもカワイイから許す。
「ジャシン様! 角都になにかされたらすぐオレに…!」
私は心配そうに見つめる飛段の頭を撫でた。
「私はなにもされてないよ。角都さんのこと、少し教えてもらっただけ。自分の相方をもっと信用しなきゃ…」
仮でも、同じ不死の相方なのだから。
「ジャシン様…」
イチャイチャモードになりかけたとき、私と飛段の首根っこを角都さんの伸びた両手がつかんだ。
「出てけ」
角都さんの短く冷たい言葉とともに、私達はポイッと部屋から追い出されたのだった。
.END
飛段に会いにアジトに遊びに来た。
飛段とはついこの前会ったばかりだが、“暁”のアジトに来るのは久しぶりである。
まず最初に向かったのが、もちろん飛段の部屋だ。
“三”というマークが刻まれた扉を入って部屋を見回してみるが、見慣れた銀髪は目の端にも映らなかった。
部屋のあちらこちらにはジャシングッズが、床には血で描かれたジャシンマークが見当たったけど。
「ひだーん? 飛段ちゃーん」
呼んでも、やっぱり来ない。
近くにいれば、姿が見えなくても「ジャシン様ー!」と仔犬のようにテケテケと可愛らしく走ってくるのに(たまに勢いありすぎて捨て身タックルされてしまう)。
庭、エントランスホール、リビング、廊下など、アジト内をウロウロしてみるが、飛段の姿は見つからなかった。
すれ違いになったのではないかと思い、もう一度飛段の部屋に行ったけど、さっきと変わらず部屋の主はいない。
廊下に出て飛段の部屋の扉に背をもたせかけながら考える。
「―――となると…」
左隣の、“北”というマークが刻まれた部屋の扉に顔を向けた。
飛段の相方の部屋である。
その扉の前に立ってノックを3回する。
「どうぞ」の返事もない。
「勝手に入りまーす」
扉の鍵は開いている。
堂々と開けて中に入ると、部屋の主は低いテーブルの前に座りながら帳簿を書いていた。
「いるなら言ってください」
「……なんの用だ?」
部屋の主の角都さんはこちらに振り返ることなく低い声で言った。
「飛段知りませんか?」
「買い物に行かせている。直に戻ってくるはずだ」
飛段って、ちゃんとひとりで買い物できるのかな。
もう立派な成人なのに、飛段だからこそ不安になる。
なんだか保護者の気分だ。
「心配か?」
いつの間にかこちらに顔だけ振り返った角都さんが聞いた。
顔に出ていたようだ。
「そりゃあ…、飛段だから…」
「……………」
角都さんはまた前を向き、帳簿に筆を走らせる。
「…待ってていい?」
「好きにしろ」
そう返され、私は角都さんからすぐ近くの一人掛け用の黒いソファーに座った。
そこで飛段の帰りを待たせてもらう。
「………」
「………」
「……………」
「……………」
「……………………」
紙に走る筆の音と帳簿のページをめくる音しか聞こえない。
この沈黙、水の中にいるようでちょっと辛い。
窒息する…!!
平然とした顔を保つのも限界だ。
角都さんも察してほしい。
飛段、あなたよく息が続けられるね。
飛段は他人が鬱陶しいと思ってるにも関わらず喋り続けるタイプだ。
それが今更ながら羨ましく思う。
「……………………あの…」
部屋を支配していた沈黙が、私の一言で破られた。
「なんだ?」
角都さんは帳簿から目を離さない。
でも、返事を返してくれたことに若干安堵する。
とりあえず飛段が帰ってくるまで会話を持続させようと話を振った。
「角都さんって、部屋でもマスクと頭巾のままなのね」
暑くないのかな。
「面倒だからだ」
「…一度外してるの見たことありますけど、目の色や口の縫い目とか関係なしにモテると思いますよ」
筆の動きがピタリと止まり、角都さんは顔をこちらに向けた。
「ほう…。なにが望みだ? 褒めても金は渡さん」
目付きが鋭い。
私が金を請求するとでも思ったのだろうか。
「お金欲しくて言ったんじゃないし、私お金嫌いですし」
それを聞いた角都さんはフンと鼻で笑い、再び作業に戻った。
「……いつも帳簿つけてますね」
「“暁”のサイフ役だからな。……今月も赤字ギリギリだ」
最後の部分、明らかに機嫌が悪そう。
ふと、「また角都のバイトに付き合わされたー」と嘆いていた飛段の顔が浮かんだ。
帳簿になにが書かれてあるのか気になり、ソファーから立ち上がってこっそり角都さんの後ろから覗かせてもらった。
ワケのわからない数字がズラリと並んであり、目眩を覚える。
不死コンビ、芸術コンビ、動物コンビなど、使った金額がちゃんとコンビに分けられて記されている。
不死コンビの残金が明らかに多い。
ほとんどお金を使ってないようだ。
「節約してるんですか?」
「ああ。立場上、無駄遣いはできんからな」
一晩過ごすのは宿じゃなくて野宿でなんとかなるけど、
「ごはんとかは?」
角都さんは真顔で答えてくれた。
「主に、山にいる動物、川に入る魚、野に生えている草など…」
サバイバル!!?
飛段が昔よりたくましい体になったのはそんな野性暮らしをしていたからだと知った瞬間だった。
「飛段とコンビを組む前もそんな生活を?」
「一言でも文句を抜かした奴は瞬殺してやった」
まさに自分ルール。
不死身じゃないと角都さんとは絶対に組めない。
でも、せめて相手の言い分は黙って聞いてあげましょうよ。
「まさか飛段も…」
「野菜に文句をつけた時はそういうこともあったが、奴は肉さえ食えれば文句はそんなに言わん」
肉大好きっこだからね。
「コンビを組んでだいぶ経つけど、飛段のことどう思ってる?」
今気付いたことだが、自分でも驚くくらい角都さんに聞きたいことはいくらでもあった。
帳簿を閉じた角都さんは答える。
「殺してやりたい」
若干殺意を感じた。
「よくも不死身にしてくれたな」という、ため息をつきたそうな目でこちらを見る。
「そんなメンドクサイ目をしないでくださいよ」
犬だと思えば可愛げがあるのに。
「萃、あの男はいつか必ずオレが殺す」
その眼差しは真剣だ。
私は笑みを浮かべて同じ眼差しを返す。
「私がそうさせるとでも?」
しばらく見つめ合っていたとき、角都さんの扉が勢いよく開けられた。
「角都ー、買い物行ってき…」
私の姿を目にした途端、飛段は驚いた顔になって持っていた買い物袋を落とし、いきなり突進してきた。
「ジャシン様危ねええええ!!」
「へ!? きゃあああああ!!!」
ズザアアアアアア!!!
捨て身タックルされてしまい、飛段に抱えられたまま床をスライドした。
飛段に抱えられるのは嬉しいことだけど、床を擦れた背中が超痛い。
天国と地獄を味わっている私に構わず、飛段は私を抱えたまま角都さんをキッと睨みつけながら声を上げる。
「角都! ジャシン様になにしやがったァ!!」
「勘違いするな。オレはなにもしていない」
「ウソつけェ!! ジャシン様がこんなにボロボロじゃねえか!!!」
あなたに捨て身タックル食らわされたからです!!!
でも、そんな天然バカなところもカワイイから許す。
「ジャシン様! 角都になにかされたらすぐオレに…!」
私は心配そうに見つめる飛段の頭を撫でた。
「私はなにもされてないよ。角都さんのこと、少し教えてもらっただけ。自分の相方をもっと信用しなきゃ…」
仮でも、同じ不死の相方なのだから。
「ジャシン様…」
イチャイチャモードになりかけたとき、私と飛段の首根っこを角都さんの伸びた両手がつかんだ。
「出てけ」
角都さんの短く冷たい言葉とともに、私達はポイッと部屋から追い出されたのだった。
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