夏の桜
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*角都
あれから何時間経過したのか。
日はとっくの昔に暮れている。
ヨルと飛段はアタッシュケースを持ったまま走ったり隠れたりを繰り返し、オレの手から逃れ続けた。
これが賞金首なら賞金稼ぎ共はさぞや手こずるだろう。
1時間以上奴らの姿を見ていない。
ずっと隠れたままだ。
地怨虞を落ち着かせたオレは、人通りのない大通りを歩き、奴らの姿を捜す。
「いい加減にしろ。この辺りにいることはわかっている」
ヨルの耳には確実に聞こえているはずだ。
しばらくして、横道から石を蹴飛ばす音に続き、慌てて走る音が聞こえた。
ヨルほどではないが、オレも耳は忍並みにいい方だ。
「そこか…」
呟き、足音を消して横道を走る。
横道はどんどん狭くなり、奥は石段となっていた。
向こう側から潮風の匂いと、波の音が聞こえる。
石段をのぼりきると、そこには真っ暗な海が広がっていた。
砂浜には、疲れ切った飛段がアタッシュケースを抱えたまま仰向けに倒れていた。
オレはそこから飛び、飛段の頭の傍に着地する。
「あ…、追いつかれたァ…」
状況をわかっているのか、笑みを浮かべた。
「覚悟はできているか?」
間髪入れずすぐに飛段の首を右手でつかんで絞め上げる。
「ぐ…!」
「ヨルはどこだ?」
「その前に…、ひとつ…」
「?」
「角都…、誕生日…おめでと…」
苦しげにも笑みを浮かべたままの飛段の口から、そんな言葉が出た。
同時にオレの後ろから青いなにかが通過した。
ヨルの鬼炎だ。
それらは宙で次々と増え、1本の木を照らした。
「!! …桜…」
ライトアップされた木には桃色の花が無数についていた。
手を緩めると、飛段は自分の喉を押さえて噎せた。
「ゲホッ、ちょうど日付も変わったな…」
桜の木の下には、印を結んだままのヨルが立っていた。
「おめでとう、角都」
そう言って微笑んだ。
そう言えば、飛段の誕生日のとき、飛段に「今度はオレが桜の木の下で祝ってやる」と言っていたか。
オレは飛段とともにその桜の木に近づいた。
「馬鹿な…。今は真夏だぞ」
こいつらに季節をねじ曲げるような力はないはずだ。
「!」
枝を見たオレは、桜の正体に気付く。
「貝…。桜貝か」
それが木の枝に無数につけられていた。
ちゃんと花弁に見えるよう、丁寧に。
「ああ、バレた?」と飛段は笑った。
「よくこんなに…」
たった5日で仕上げたというのか。
「さすがにオレ達2人だけじゃムリだから、コウモリやイルカに手伝ってもらった」
ヨルはそう言って肩に留まったコウモリのアゴを撫でた。
先程の殺意はどこに行ったのか、オレとあろうものが、すっかり見事な桜貝の木に見入っていた。
「かーくずゥ」
飛段に肩を叩かれ、はっと振り返って見ると、そこには酒の瓶を持ったヨルと色んなつまみが入ったビニール袋を持った飛段が笑みを浮かべてそれらを見せつけた。
「……馬鹿共が…」
傷だらけになりながらも、オレに見せたいものだったのか。
随分と長い間生きてきたが、こんな馬鹿げた祝いをされたのは、初めてだ。
来年もこんな祝い方をされるのだろうか。
思わずフッと笑ったせいで、飛段とヨルが異常に「笑った」と喜んだ。
「…笑ってない」
まあ、好物の酒やレバ刺し、あん肝を持ってくるのなら、また、祝われてやろう。
風が吹き、真上の桜貝がカラカラと心地の良い音を立てた。
夏の桜も、悪くない。
.END
あれから何時間経過したのか。
日はとっくの昔に暮れている。
ヨルと飛段はアタッシュケースを持ったまま走ったり隠れたりを繰り返し、オレの手から逃れ続けた。
これが賞金首なら賞金稼ぎ共はさぞや手こずるだろう。
1時間以上奴らの姿を見ていない。
ずっと隠れたままだ。
地怨虞を落ち着かせたオレは、人通りのない大通りを歩き、奴らの姿を捜す。
「いい加減にしろ。この辺りにいることはわかっている」
ヨルの耳には確実に聞こえているはずだ。
しばらくして、横道から石を蹴飛ばす音に続き、慌てて走る音が聞こえた。
ヨルほどではないが、オレも耳は忍並みにいい方だ。
「そこか…」
呟き、足音を消して横道を走る。
横道はどんどん狭くなり、奥は石段となっていた。
向こう側から潮風の匂いと、波の音が聞こえる。
石段をのぼりきると、そこには真っ暗な海が広がっていた。
砂浜には、疲れ切った飛段がアタッシュケースを抱えたまま仰向けに倒れていた。
オレはそこから飛び、飛段の頭の傍に着地する。
「あ…、追いつかれたァ…」
状況をわかっているのか、笑みを浮かべた。
「覚悟はできているか?」
間髪入れずすぐに飛段の首を右手でつかんで絞め上げる。
「ぐ…!」
「ヨルはどこだ?」
「その前に…、ひとつ…」
「?」
「角都…、誕生日…おめでと…」
苦しげにも笑みを浮かべたままの飛段の口から、そんな言葉が出た。
同時にオレの後ろから青いなにかが通過した。
ヨルの鬼炎だ。
それらは宙で次々と増え、1本の木を照らした。
「!! …桜…」
ライトアップされた木には桃色の花が無数についていた。
手を緩めると、飛段は自分の喉を押さえて噎せた。
「ゲホッ、ちょうど日付も変わったな…」
桜の木の下には、印を結んだままのヨルが立っていた。
「おめでとう、角都」
そう言って微笑んだ。
そう言えば、飛段の誕生日のとき、飛段に「今度はオレが桜の木の下で祝ってやる」と言っていたか。
オレは飛段とともにその桜の木に近づいた。
「馬鹿な…。今は真夏だぞ」
こいつらに季節をねじ曲げるような力はないはずだ。
「!」
枝を見たオレは、桜の正体に気付く。
「貝…。桜貝か」
それが木の枝に無数につけられていた。
ちゃんと花弁に見えるよう、丁寧に。
「ああ、バレた?」と飛段は笑った。
「よくこんなに…」
たった5日で仕上げたというのか。
「さすがにオレ達2人だけじゃムリだから、コウモリやイルカに手伝ってもらった」
ヨルはそう言って肩に留まったコウモリのアゴを撫でた。
先程の殺意はどこに行ったのか、オレとあろうものが、すっかり見事な桜貝の木に見入っていた。
「かーくずゥ」
飛段に肩を叩かれ、はっと振り返って見ると、そこには酒の瓶を持ったヨルと色んなつまみが入ったビニール袋を持った飛段が笑みを浮かべてそれらを見せつけた。
「……馬鹿共が…」
傷だらけになりながらも、オレに見せたいものだったのか。
随分と長い間生きてきたが、こんな馬鹿げた祝いをされたのは、初めてだ。
来年もこんな祝い方をされるのだろうか。
思わずフッと笑ったせいで、飛段とヨルが異常に「笑った」と喜んだ。
「…笑ってない」
まあ、好物の酒やレバ刺し、あん肝を持ってくるのなら、また、祝われてやろう。
風が吹き、真上の桜貝がカラカラと心地の良い音を立てた。
夏の桜も、悪くない。
.END