罪と祝福の日
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*飛段
オレとヨルは暗い茂みの中を突き進む。
先に言いだしたのはヨルだった。
「ついてこい」と。
男らしいことを言ってくれるが、体中包帯だらけで危なっかしい。
手を貸してやろうとしたが「いい」と断られた。
「散々な一日だったぜ。今日は厄日だな」
オレがこぼすとオレの前にいるヨルは「ははっ」と笑った。
「まだ一日は経過してねーんだ」
おお、一応鼓膜は回復したみたいだ。
茂みを抜けた。
それから目を奪われる光景と出くわす。
月明かりに照らされた丘の上に、大きな満開の桜の木が1本あった。
立ち止まったオレはそれを茫然と眺める。
「いい場所だろ? コウモリ達が見つけてくれたんだ」
オレ達はその桜の木の下へと向かう。
天井のように覆われ、枝と枝の隙間からは月明かりが漏れている。
ヨルはさっそく腰を下ろして背をもたせかけた。
「なんでおまえ、この場所…」
「たまにはこういう場所での野宿もいいだろ」
余裕な顔をしているが額には汗が滲んでいた。
ムリしてたな。
いつも通り野宿するならその辺でもよかったってのに。
「…ああ、いいとこだなァ。ヨルでもおつなことができたんだな」
「余計なこと言ってじゃねーよ、バカ」
「おい」
離れた場所から聞こえた角都の声に振り向く。
「食事だ」
わざわざ町か村まで行ったのか、角都の手には袋が下げられていた。
「ヨルの傷薬を買いに行ってくる」って言ってたくせにこんもり膨らんだ袋に入っているのは薬だけじゃないし、安いメシでもなさそうだ。
「どういう風の吹きまわしだ?」
オレは目の前の大きなスペアリブと酒に戸惑ってしまう。
「貴様が捕まっている間、オレ達はなにも口にしていない。朝と昼、そして今夜の分の金を使ったまでだ」
そういう時でも夕食分しか使わないクセに。
ヨルは酒を手にとって遠慮なくおちょこに注いで飲んでいる。
警戒心がないんだな。
「ほら、おまえも食べろって」
オレは催促されるままにスペアリブを手にとって口にする。
途端に涙が出そうになった。
美味い。
久々のスペアリブ。
それからオレは遠慮なく食べまくり、飲みまくった。
まるで花見の宴会だ。
超いい気分。
体も酒のせいか興奮してかで火照ってきた。
『おめでとう』
「?」
ふと懐かしい女の声を思い出した。
あれ、誰の声だっけ。
「誕生日おめでとう、飛段」
そうだ、母親の声だ。
夢の内容を思い出す。
豪華な食事がテーブルに並べられ、両親とガキの頃のオレが笑ってる。
食事の最後にはケーキもあったな。
あの頃も充実した時間だったし、こいつらと楽しくつるんでる今のオレを考えもしなかった。
じゃあ今日は、とオレは大事な日を思い出し、胸の穴が塞がっていくのを感じた。
角都とヨルはどうやって知ったのか。
ジャシン教の戒律に反するんだぜ。
そう口にしたかったけど、心地良すぎて目蓋が重い。
角都の隣に座っていたオレはそのまま体の支える力を失い、胡坐をかいた角都の膝に頭を載せて寝転んだ。
殴られるかと思ったがコブシは飛んでこない。
不意に頭に温もりを感じた。
ヨルの左手がオレの頭を撫でている。
ガキじゃねえんだからやめろよ。
この状況で言えることじゃねーけど。
「――――――――――」
ヨルの心地のいい声がぼんやりと聞こえた。
生まれてくれてありがとう
だから、笑ってるオレが存在するんだぜ、飛段
オレは眠りに落ちる前に、笑みを浮かべて眠そうな声で言った。
「なぁ…、抱きしめていいか?」
.END
オレとヨルは暗い茂みの中を突き進む。
先に言いだしたのはヨルだった。
「ついてこい」と。
男らしいことを言ってくれるが、体中包帯だらけで危なっかしい。
手を貸してやろうとしたが「いい」と断られた。
「散々な一日だったぜ。今日は厄日だな」
オレがこぼすとオレの前にいるヨルは「ははっ」と笑った。
「まだ一日は経過してねーんだ」
おお、一応鼓膜は回復したみたいだ。
茂みを抜けた。
それから目を奪われる光景と出くわす。
月明かりに照らされた丘の上に、大きな満開の桜の木が1本あった。
立ち止まったオレはそれを茫然と眺める。
「いい場所だろ? コウモリ達が見つけてくれたんだ」
オレ達はその桜の木の下へと向かう。
天井のように覆われ、枝と枝の隙間からは月明かりが漏れている。
ヨルはさっそく腰を下ろして背をもたせかけた。
「なんでおまえ、この場所…」
「たまにはこういう場所での野宿もいいだろ」
余裕な顔をしているが額には汗が滲んでいた。
ムリしてたな。
いつも通り野宿するならその辺でもよかったってのに。
「…ああ、いいとこだなァ。ヨルでもおつなことができたんだな」
「余計なこと言ってじゃねーよ、バカ」
「おい」
離れた場所から聞こえた角都の声に振り向く。
「食事だ」
わざわざ町か村まで行ったのか、角都の手には袋が下げられていた。
「ヨルの傷薬を買いに行ってくる」って言ってたくせにこんもり膨らんだ袋に入っているのは薬だけじゃないし、安いメシでもなさそうだ。
「どういう風の吹きまわしだ?」
オレは目の前の大きなスペアリブと酒に戸惑ってしまう。
「貴様が捕まっている間、オレ達はなにも口にしていない。朝と昼、そして今夜の分の金を使ったまでだ」
そういう時でも夕食分しか使わないクセに。
ヨルは酒を手にとって遠慮なくおちょこに注いで飲んでいる。
警戒心がないんだな。
「ほら、おまえも食べろって」
オレは催促されるままにスペアリブを手にとって口にする。
途端に涙が出そうになった。
美味い。
久々のスペアリブ。
それからオレは遠慮なく食べまくり、飲みまくった。
まるで花見の宴会だ。
超いい気分。
体も酒のせいか興奮してかで火照ってきた。
『おめでとう』
「?」
ふと懐かしい女の声を思い出した。
あれ、誰の声だっけ。
「誕生日おめでとう、飛段」
そうだ、母親の声だ。
夢の内容を思い出す。
豪華な食事がテーブルに並べられ、両親とガキの頃のオレが笑ってる。
食事の最後にはケーキもあったな。
あの頃も充実した時間だったし、こいつらと楽しくつるんでる今のオレを考えもしなかった。
じゃあ今日は、とオレは大事な日を思い出し、胸の穴が塞がっていくのを感じた。
角都とヨルはどうやって知ったのか。
ジャシン教の戒律に反するんだぜ。
そう口にしたかったけど、心地良すぎて目蓋が重い。
角都の隣に座っていたオレはそのまま体の支える力を失い、胡坐をかいた角都の膝に頭を載せて寝転んだ。
殴られるかと思ったがコブシは飛んでこない。
不意に頭に温もりを感じた。
ヨルの左手がオレの頭を撫でている。
ガキじゃねえんだからやめろよ。
この状況で言えることじゃねーけど。
「――――――――――」
ヨルの心地のいい声がぼんやりと聞こえた。
生まれてくれてありがとう
だから、笑ってるオレが存在するんだぜ、飛段
オレは眠りに落ちる前に、笑みを浮かべて眠そうな声で言った。
「なぁ…、抱きしめていいか?」
.END