悪党共は盃を交わす
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角都と飛段が換金所に行っている間、ヨルはこっそり大河の刀を赤虎組アジトの門の脇にそっと置いておいた。
刀に付着した血液できっと誰かが察するはずだ。
一家の大黒柱が死んだ、と。
それから誰が次期組長になるか、一時的な争いがあるかもしれない。
その夜、青獅子組のアジトで一晩を明かすこととなった。
明日にはこの町を発つ。
今日で出発するのが角都の予定だったが、落ち込んでいるヨルに気をつかったのか、わざわざ青獅子組に頼んでくれた。
今3人は縁側に並んで座り、月見酒を楽しんでいる。
組員達は見張りを抜いてすっかり眠りについているようだ。
「少しは元気なったか?」
「んー…」
飛段に問われ、ヨルは気のない返事を返し、一口飲んで言う。
「最後にしてやられたっていうか…。あいつ結局、どうしようもない今の自分を誰かに始末してほしかったのかもしれねえ」
だから最初に怪しむことなく組に引き入れ、病院では殺すことなく生かしておいたのだと。
「いつまでも気に病むな。最後は相手も潔く死んだだろう」
「…まあな…。お、悪いな」
ヨルは飛段に新しい盃を渡され、酒をつがれた。
透明なそれには月が反射して浮いているように見える。
それを見て楽しんだあと、一口飲んだ。
それを見た飛段はニヤリと笑みを浮かべる。
「よっしゃ、飲んだな?」
「は?」
「盃の儀式でてめーは今からオレの子分だ。妹分と言っていいな。それ、オレの盃だし♪」
ヨルは大河の盃の話を思い出し、「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げた。
「なんでオレが飛段の妹分にならなきゃ…」
「儀式は絶対だ。反したらバチが当たるぜー」
「異教徒の儀式じゃねえのか」
ヨルはそれ以上は言い返さなかった。
飛段が酔っているとわかったからだ。
酔っ払いの相手はするもんじゃない。
「なら飛段、貴様はオレの弟分だ」
「あ?」
酒を飲んだあと発した角都の言葉に飛段は赤らめた顔を傾げた。
角都は月を見上げながら説明する。
「先程、貴様、飲みかけのオレの盃を取っただろう? よって、貴様はオレの弟分、ヨルがオレの妹分ということになる」
「ハァ!?」
ショックを受ける飛段の横でヨルは笑いを堪えていた。
兄の角都(91)と飛段(22)、なのに100過ぎの自分の立場が妹分というのはムチャクチャだ。
昔もそんな兄弟みたいな存在が傍にいたが、こんなに楽しいものではなかった。
それから「おい角都ー」と絡む飛段を見て、ヨルは小さく笑った。
今、恐れる孤独はどこにもない
ただ今は、この小さな家族ごっこを…
・END