悪党共は盃を交わす
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
飛段は大きなため息をついて項垂れ、歩を進めた。
「ハァ。“おケツに入らずんば幼児を得ず作戦”が…」
「虎穴と虎児だ。尻から幼児は出てこねえ」
飛段とヨルの緊張感に欠けるボケとツッコミが交わされた。
ちなみに作戦名を訂正したのは1度や2度ではない。
「動くな」
同時にヨルの喉元の皮膚と刃が接触する。
それを見た飛段は足を止めた。
「やはりな。おまえ達に忍共をけしかけて正解だ。随分と仲が良かったな」
「たまたまウマがあったとかァ?」
「親しく名前まで呼んでいたじゃないか。オレも組員達も、用心棒の名は一言も口にしていなかったというのに」
「あちゃ~」
飛段はヘラヘラとしながら後頭部を掻く。
「てっきり血ヘド吐いてるだけかと思った」
「……………」
ヨルは挑発的な言い方をしたが、大河は動じずに静かに見下ろした。
「それでおまえはオレ達をどうしたいわけ?」
飛段の質問に大河は顔を上げて答える。
「貴様の不死の体に興味がある。バラバラにして常連の研究者達に突き出し、不死の薬を開発してもらう」
ゾッとしない。
ヨルは「やっぱり」と納得した。
「その前におまえが死ぬかもな」
ヨルのその言葉に大河は飛段を見つめたまま言い返す。
「かもしれない。だが、オレはそれに縋るしかないんだ」
「不死の体に不老の体。贅沢なモンだ。おまえの言う“家族”は、どういう目で見ると思ってんだ」
「黙ってろ」
刀の刃がヨルの喉元に食いこみ、表面の皮膚が切られて血が流れた。
それでもヨルには余裕があった。
同じく飛段もそれくらいでは動じず、眉ひとつ動かさない。
その様子に大河は苛立ちを覚えた。
「おまえらにはわからないだろうな。老いや死の怖さを」
「家族がいるのに、怖いなんて思うのか?」
その言葉に大河はヨルを見下ろした。
ヨルの言葉は続く。
「オレは老いより死より、時間に置いていかれて独りになる方が怖ェよ…」
飛段には聞こえないように呟き、大河を睨みつける。
「おまえは自分のことばっかで、「家族」「兄弟」と言いながらも身近にある大事なものにまったく気付いてねえんだ。あんなに楽しそうに笑ってたのに、結局…」
こちらが悲しくなってきて目を伏せ、「バカだ」と思った。
気付いたところでもう遅すぎる。
「飛段」
名を呼ぶと、飛段が地面を蹴っていきなり突進してきた。
「!!」
大河はヨルの喉をそのまま切り裂こうとする。
だが、突如現れた右手にそれを阻止されてしまった。
「!?」
右手は刀の柄をつかんだままビクともしない。
驚いている隙に飛段はその懐に飛び込んだ。
ザシュッ!!
血飛沫が大鎌の刃が貫通した背と腹の傷口から噴き出た。
刀は地に落ち、大河はガクリと両膝をついた。
それを見た飛段は今度はヨルに向かって大鎌を振り下ろし、手首と足首の針金を断ち切った。
「オレの提案に少しでも乗り気でいれば、こうはならずに済んだんだ」
そう言っても、やはり遅すぎた。
「どういう提案を立てていたんだ?」
どこからか低い声が響き、その主は建物の階段をのぼって屋上に姿を現した。
角都だ。
地怨虞で伸ばした右手を元に戻す。
角都の姿を見た飛段とヨルは目を丸くした。
「「スーツ!!?」」
「うるさい黙れ」
角都がスーツ姿で登場してきたのだ。
角都が言うのは、「これが青獅子組の正装だ」と言う。
なんでも、抗争に向けてムリヤリ着せられたそうだ。
案外似合うな、と2人は目を輝かせた。
「ごほ…っ」
大河が血を吐きだして息を荒くしていると、ヨルはその傍に近づいた。
その顔を見た大河は思わず小さく笑う。
「仕事…なんだろ…? わかってたさ…。全部…。そう…、全部…」
まるで独り言だ。
それでもその目はしっかりとヨルをとらえている。
「名前は…確か…ヨル…だったな…。おまえが…トドメ刺してくれないか…?」
「……オレでいいのか?」
「ああ…。そのためにオレは…おまえを…」
口元が「生かしておいたんだ」と動く。
それを見たヨルは、飛段が儀式にとりかかる前に、落ちていた大河の刀をつかんで大河に向けた。
「じゃあな、若頭」
大河の顔が徐々に元の姿に戻っていく。
そして、大河が目をつぶった瞬間、心臓目掛けて一気に貫いた。
もう慣れたその感触も、今日は酷くリアルに感じる。
「終わったぜ、角都、飛段」
家があったら、「帰ろう」と言えるのに。
.