悪党共は盃を交わす
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翌日、町に入る前に角都と飛段と分かれたヨルは、さっそく赤虎組のアジトの門を叩いた。
「たーのもー」
門の扉を半分開けて顔を出したのは赤虎組の組員だった。
今にも「ああん?」と言いだしそうなほど睨みつける。
ヨルはできるだけ愛想のいい表情を浮かべた。
「どこのどいつだ?」
「火の国から来た、無職の浪人です」
いかにもそう見えるように安物の地味な着物を着て、腰には変哲もない2本の刀を差している。
「帰れ」
たった一言言われて扉を閉められてしまい、ピキッ、とヨルの額に青筋が浮かぶ。
一度咳払いし、最初からやり直すようにもう一度門を叩いた。
「たのもー」
また半分だけ扉が開き、先程と同じ組員の男が明らかに迷惑そうに応対する。
「用心棒とか募集してないか? 金に困ってんだ」
そう見えるように困った顔をしたが、組員は同情する顔もせずに手をしっしと振った。
「間に合ってる。他を当たりな、にいちゃん」
再び扉を閉められる。
ヨルはため息をつき、門に背を向けて歩きだす。
門の向こうにいる組員は再び訪れた静けさに、番犬にエサをやりながら「やっと帰ったか」と安堵した。
しかし、門から離れたヨルは突如立ち止まり、振り返り、そしていきなり走り出した。
「た―――のも―――!!」
ドガッ!!
助走をつけたヨルは躊躇なく扉を蹴破った。
「ぎゃああ!?」
予想外の行動に、組員は蹴破られた扉に潰された。
ヨルは扉を踏みつけ、組員を見下ろす。
「金に困ってるって言ってる奴を無下に扱うなよ。いくら恨まれ役でもよー」
組員は泡を吹いて気絶しているため聞いていない。
エサを与えられていた番犬達はヨルの姿を見ると唸り声を立て、ヨルに襲いかかろうと走り出した。
「お座り」
その言葉と同時にヨルは音寄せを発動した。
すると、番犬達はヨルを囲んでその場に大人しく座る。
「なんの騒ぎだ!?」
「あ! 門が破られてるぞ!」
「どこの組のもんだ!?」
次々と屋敷の玄関から組員達が出てくる。
囲まれてしまったにも関わらず、ヨルは冷静に尋ねた。
「どこの組のもんでもねーんだ。金に困ってるから雇ってほしくてさぁ」
「ふざけんなコラァ!!」
やはり聞く耳を持ってくれず、組員達はそれぞれ武器を持って一斉にヨルに飛びかかった。
「ったく、極道ってのは耳がねえのか?」
ヨルは使いなれない2本の刀を手にとり、鞘をつけたまま、いつもの戦いのように振るった。
「チッ、戦いにくい」
舌を打ちながらも、次々と地面に叩きのめしていく。
「! これは…」
若頭の大河が出てきたときには、組員達は全員気絶したまま積まれていた。
「あ、どこの組のもんでもねーんだけど、ここ、用心棒の募集とかやってねえ?」
角都に言われた通り、「金に困ってる」と付け加える。
大河が組員達が全員生きていることを見て確認したあと、満足そうに口元に笑みを浮かべた。
「その腕で金に困ってるって?」
「前のところは調子に乗って追いだされてな」
ヨルがそう言って肩をすくめると、大河は「そうか、追い出されたのか」と笑い、「ちょっと待ってろ」と言って屋敷の中へ戻り、また戻ってきた。
「親父が、オレの用心棒になるなら雇ってもいいそうだ」
「雇ってくれるなら、番犬のお守だってしてやる」
ヨルはそう言って笑い返した。
ここで組長の用心棒に雇われるなんてうまい話がないことも角都の計算済みだ。
第一の目的はこの屋敷に潜入することだ。
それは今、達成された。
(あいつ、酔ってなにも喋らないだろうな)
いらないことを一言でも言われたら終わりだ。
運よく殺されなかったとしても、逃げ帰った先にいる角都に殺されかねない。
つまり、成功させない限り逃げ道はない。
飛段がこっちに体ごと向けた。
ヨルは思わずビクッと体を震わせる。
ここでいつものように慣れあってしまえば作戦が台無しだ。
(話しかけるなら、喧嘩を売ってこい)
あくまで険悪な仲でいなくてはいけない。
飛段もどういう言葉をかけていいのかを思い出そうとする。
角都にヨルに対しての喧嘩の売り方を聞いた時、こう言われていた。
『いつも貴様らは喧嘩しているだろう。だが、そうだな、「愛想のない奴」と言って胸倉をつかむのもいい』
しかし、飛段は脳に酒がまわっているせいでそんな単純なことを思い出せずにいた。
いきなり向かい合った2人に組員と大河が注目している。
ヨルの額から嫌な汗が流れた。
「!」
飛段は思い出したのか一瞬だけ顔がパッと明るくなる。
そして、いきなりヨルの右胸をつかんだ。
「胸のねえ奴」
ゴッ!!!
威力は飛段の上半身が畳にめり込むほどだ。
まさに瞬殺。
どこを撲ったのか、組員達にもわからなかった。
ブチ切れたヨルを見た全員顔が真っ青になっている。
「若頭、こいつ庭池に沈めていいか?」
「庭池は浅いし、鯉達が泳ぎにくいだろうからよしてくれ」
大河は冷静だった。
それから組員達に飛段の手当てをさせ、部屋を案内させた。
部屋から出て行った飛段の背を大河と一緒に見送ったヨルは内心でホッと安堵する。
(結果オーライだ)
これでヨルと飛段の仲が最悪だと印象付けることができたはず。
「おまえもいきなりおっかないことするな。気持ちはわからなくもねーが。もうちっと仲良くやんな」
「ウマも合いそうにない」
わざと冷たく返し、ヨルは大河に尋ねる。
「ホントにあの男をこの組に入れていいのか? あの暁の構成員っていうじゃねえか」
ここで「あいつを追いだした方がいい」とは薦めない。
大河の気が本当にそっちに変わる恐れがあるからだ。
大河はアゴを撫でて答える。
「組長はあいつを欲している。戦力としても申し分ないし、なにより“不死”ってのがデカい」
「…実験でもする気か?」
「……………」
大河はなにも答えない。
しかしヨルは、飛段が出て行った障子の先をじっと見つめる大河の瞳に、野心の光を見た。
夕食が終わったあと、ヨルは周りに誰もいないことを確かめてから飛段と接触していた。
「ターゲットの居場所はァ?」
「つかめてたら、おまえがこっちに来るわけがないだろ? ここに来て、一度もその姿を見たことがねーんだ。おまえも一目見れるかさえ怪しいもんだ」
できればプラン1だけでことを終えたかったヨル。
そんな心中を知らずに飛段はまだ完治していない頭の大きなコブを撫でる。
「にしても、いきなりヒデーことしやがるよなァ。ヘタすりゃ死んでるぜ、あれ」
「おまえが言うなよ、飛段」
「ゲハハッ」
「つうか、もっと声を落とせ。連中に気付かれるぞ」
「とりあえず、これからオレはどう動けばいいんだ?」
「オレに聞くのかよ。まあ、ここ最低2日は様子見だな。おまえはすぐに突っ走るからな。焦りは禁物だ」
「てめーもヘマすんなよ」
「オレはともかく、飛段、おまえは特に若頭に気をつけろよ」
「あいつ?」
「あいつの意図はわからないが、目的はおまえだ。怪しまれないようにしながら、奴に気を配ってろ」
「面倒だなァ。まあ、適当に合わせとく」
緊張感のない返事にヨルはため息をついた。
命を奪われることは絶対にないからと言って余裕をこくのはどうだろうか。
「おまえはここにいていいのか?」
そう尋ねられ、ヨルは頷いた。
「ああ。この時間オレは屋敷の見回りをしている」
「そうじゃねえよ」
「!」
飛段の口調がいきなり真剣になる。
「ここ、男子便所だぜ」
「…ああ、生まれて初めて入った」
個室に入っているヨルは冷静に言った。
その外で用を足している飛段は「ふぅ」と息をついて水を流した。
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