悪党共は盃を交わす
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暁を追い出された飛段は、その夜、公園の木の枝の上で一夜を過ごした。
他の枝に数羽のスズメが留まり、朝が来たことを知らせるように、チチチ、と鳴く。
飛段はそのスズメの声に目を覚まし、欠伸をしながら伸びをしたあと、下りた前髪を後ろに撫でつけてオールバックを作った。
それでも枝から下りず、後頭部に手を組んでこちらを不思議そうに見つめているスズメ達を見つめながら呟く。
「これからどうすっかなァ…」
スズメの中の一羽が首を傾げた。
「おい」
「!」
下から人の声が聞こえた。
それにびっくりしたのか、スズメ達は一斉に木の枝から飛び立った。
それを見届けた飛段は下に視線を落とす。
そこには、それぞれ柄の渋い着物を着た5人の男達が飛段を見上げていた。
飛段は再び大きな欠伸をしたあと、枝から飛び下りて着地した。
5人の男達は飛段を囲むように移動する。
「なんだてめーら?」
飛段は目の前の男に機嫌悪く尋ねた。
いつでも攻撃が仕掛けられるように大鎌を肩に担ぐ。
「暁の飛段だな? いや、元・暁か」
目の前の男の言葉に飛段は眉間に皺を寄せた。
「喧嘩売ってんなら買うぜ? ちょうど朝の儀式ができる」
そう言って口元をニヤリと吊り上げる。
飛段の目の前の男は好戦的な飛段の様子に「待て」と手で制した。
「オレ達は組長の命令でおまえを迎えにいくよう頼まれた」
「…組長だと?」
飛段の片眉が吊り上がる。
「貴様を仲間に引き入れろ、とな」
「!」
飛段は大鎌を下ろした。
相手に敵意はなさそうだ。
「どこのどいつだよ?」
「赤虎組の組長だ」
*****
飛段は黙って男達についていった。
赤虎組のアジトは町の奥にある。
奥に行くほど周りが寂しくなるのを見た。
赤虎組のアジトは大きな古い和風の屋敷だ。
高級旅館のようだと言いたいところだが、威圧感がある。
門を潜り、飛段は手入れされた大きな庭を見た。
庭には番犬が何匹か見回りしている。
そのうちの一匹が飛段を見て唸り声を出したが、襲いかかってはこなかった。
中に入って案内された場所は、奥にある、広い畳の部屋だった。
飛段が部屋に入ると、飛段は「ここで待っていろ」と言われ、飛段の迎えの者達はそそくさと部屋を出て行った。
飛段は部屋の中心で胡坐をかいて座り、部屋の中を見回した。
左はただの若草色の壁。
右には先程入ってきた障子があり、その向こうは庭を見渡せる縁側がある。
後ろは他の部屋へと続く襖が、前は床の間があり掛け軸のかけられている。
天井には今にも飛び出して襲いかかってきそうな赤いトラが描かれていた。
しばらくして、数人の足音が聞こえてきた。
障子にその影が見えたかと思えば、飛段のいる部屋の障子が開けられ、数人の男達が入ってくる。
その中に、柄の悪い若い男が入ってきた。
左頬の縦一線の刀傷が特徴の青年だ。
青年は飛段の向かいに同じように胡坐をかいて座り、他の者達は障子と壁際に座った。
全員目付きが悪く、居心地が悪い。
「アンタが組長か?」
「オレは赤虎組若頭・大河だ」
飛段は膝で頬杖をつき、しかめっ面をする。
「…組長は?」
「生憎、親父はいない。普段は人前に姿を現さないんだ。なにしろ、命を狙われやすいお方だからな。色々派手にやってるせいで」
「へっ、つまりはビビりってことだろ?」
飛段が嘲笑すると、大河以外の組員たちが自分達のことを言われたように怒鳴った。
「組長馬鹿にしてんじゃねえぞコラァ!!」
「てめぇ調子に乗るなガキィ!!」
飛段は背中に携えた大鎌の柄をつかんだ。
「うるせぇなァ」
目の前の大河から先に殺して暴れてやろうと大鎌を構えようとしたとき、
「!」
背後から喉元に刃をつきつけられてしまった。
飛段はそれを横目で確認する。
「武器から手を放せ。放したら、黙って若頭の話に耳を傾けろ。若頭が聞くまでなにも口にしない方がいい。一切だ。オレはうるさいのが嫌いでな。背けば他の奴らが騒ぎだす前に、闇で醒ますぞ」
飛段に刃を突き付けたのは、若頭達と同じく着物を着た、ヨルだった。
ヨルは夢魔ではなく、普通の刀を飛段に突き付けていた。
飛段の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「やるのかァ? ねーちゃん」
構わずに大鎌を取ろうとした時だ。
「やめろ、用心棒」
大河がそう言うと、ヨルは素直に刀を鞘におさめた。
それから飛段の背後に正坐して飛段を見張る。
飛段は肩越しにそれを見、若頭に向き直った。
「女の用心棒まで雇ってんのか?」
「オレと組長の用心棒だ。うちの組にふさわしいほど腕が立つ」
若頭は腕を組んで自慢げに言った。
飛段は「ふぅん」ともう一度ヨルを肩越しに見る。
「それで組長がここにおまえを呼んだのは…」
大河が言いだし、飛段は大河に再び向き直った。
目を合わせた大河は言葉を続ける。
「赤虎組に入らないか?」
「オレが?」
「暁を追い出され、あてもないだろう。おまえの力が加われば、邪魔な青獅子組を潰せる。おまえの元・相棒に復讐したくないか?」
青獅子組は密かに暁と繋がりのある組で、金や物、裏の情報などの取引によく利用している。
その利用者が大体ペインを通じて角都が行っていた。
赤虎組にとって商売敵の何者でもない。
「おまえのやられっぷりを見せてもらった。オレ達と組めば、奴に復讐できるぞ。どうだ? 奴の息の根を止めたくないか?」
飛段は眉を寄せ、不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、超殺してェ。ジャシン様の供物にしてやるぜ」
その答えを聞いた大河は己の膝を叩いた。
「よし、決まりだ」
タイミングを見計らうように、障子が開けられた。
ひとりの組員が御膳を持って部屋に入ってくる。
御膳の上には酌と盃が載せられていた。
それは大河の前に置かれ、大河は酌を手にとり、中身の酒を盃に入れた。
それから酌を御膳に置き、最初に己が盃を飲み、少し飲んだあとは飛段に差しだす。
「飲め、兄弟」
飛段はそれを左手で受け取り、躊躇なく全部飲み干した。
「いい飲みっぷりだ」
「だろォ?」
大河が笑い、盃を御膳に叩くように戻した飛段の顔は早くも赤くなっている。
元々、酒に強い方ではない。
(あのバカ…)
飛段の背後で見ていたヨルは呆れた顔をした。
自白剤だったらどうする気だ、と内心で飛段を叱咤する。
(角都の奴、馬鹿正直な飛段にスパイなんて向いてるわけねーだろ)
ヨルはここに来る前のことを思い出した。
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