蜜柑も忘れずに
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ゴンッ!
「うっ!」
端と端をつかみながら、飛段とともにコタツを運びながら町の通りを歩いていると、角都と出くわした。
角都はなにも言わずにヨルに近づき、その頭を拳骨で殴ったのだ。
それでも、ヨルは我が子を守るようにコタツだけは死守した。
「面倒をかけるな」
「…悪かったよ」
言い返せばまた殴られるのがわかっているため、ヨルは口を尖らせながら素直に謝った。
飛段は「怒られてやんのー」とゲハゲハと笑っていたが、角都に「貴様もだ」とヨルと同じように殴られる。
「大体そんなもの、どうする気だ?」
角都の視線がコタツに移る。
ヨルは壊されてなるものかとコタツを己の背後に隠し庇い、角都を軽く睨みつけた。
「オレが、自分で直して自分のものにした。金は使ってねーし、文句はねーはずだ、角都」
色々と言葉を強調させながら答えた。
飛段は「オレも手伝ってやったんだぜ」と角都に報告する。
角都はため息をつき、面倒臭そうな目でヨルを見下ろして尋ねる。
「運ぶのはいいが、まったく使えんぞ」
角都の視線の先には、尻尾のようにコタツから垂れ下がっているコンセントがあった。
電気がなければコタツはつかない。
だが、ヨルはふっと不敵な笑みを浮かべた。
「そんなの、作ってた途中で気付いてるさ。だが、オレだってバカじゃない。見てろ」
「!」
ヨルはコンセントをつかみ、角都の背後にまわった。
「これで動くはずだ―――!」
コンセントの先は、角都の背中に突き刺さった。
正確には、偽暗の口の位置に突き刺したのだ。
次の瞬間、稲光に包まれた。
バチ!!!
光りが消えたとき、コタツは炎に包まれていた。
アジトに到着するまで、ヨルは角都に対して一言も口をきかなかった。
テンションもだだ下がりで、飛段はどちらかがなにか言えば殺し合いが起こりかねないと冷や冷やしながら、その空気にじっと耐えていた。
コタツが燃えたあと、角都は自分の意思ではないと説明したが、「偽暗を怒らせた貴様が悪い」と付け加えられた言葉がヨルの怒りを上乗せしてしまったのだ。
山奥にある古風な屋敷に到着しても、ヨルの空気は沈んだままだ。
玄関で出会ったデイダラとサソリも何事かと驚いていた。
「イタチ達も来てるぜ。うん」
誰よりも性能がいいヨルの耳も、落ち込みのあまりその声さえ聞きとることができなかった。
不死組と芸術組は今までの任務の話でもしながら、廊下を渡り奥へと進む。
飛段は「腹減ったァ」とぼやいていた。
「鬼鮫が鍋作ったとよ」とサソリが言う。
奥へ進むにつれ、そのいい匂いに近づいていき、襖が見えてきた。
先頭を歩いていた飛段が「メシー」と襖を開ける。
その瞬間、暗く沈んでいたヨルの瞳に光りが宿った。
大きな部屋の真ん中に、大家族用のコタツがあったからだ。
「コタツ!!」
突然元気を取り戻したヨルにのけぞるデイダラと飛段。
イタチと鬼鮫も何事かと小さく驚いた。
*****
その夜、集まった暁メンバーはコタツに入り、鍋を囲みながら食を楽しんでいた。
材料は、動物組と不死組が持っていた食材を使っている。
ヨルは鍋の具をちょいちょい食べながら完全にコタツの温もりを楽しんでいた。
「機嫌直ったな」
暗い空気がなにひとつ感じられず、飛段は呟いた。
ヨルは頬を机につけながら、角都達を見つめる。
「言っておくが、このコタツは持っていかんぞ」
「わかってるって」
ヨルは「はいはい」と手をヒラヒラさせる。
口元に浮かべた穏やかな笑みは十分に満足していることが窺えた。
なにより願いを叶えたからだ。
ヨルがあの民家で抱いた羨望はコタツではなく、“一家団欒”だった。
家族というものをあまり覚えていないヨルは、それが羨ましく思えたのだ。
「また、集まろうな…」
ふと窓の方から雪の匂いがした。
それから寒さとは違うまどろみがやってきてそのまま素直に目を閉じ、明日、雪道に足痕を残しながら歩む自分達の姿を想像しながら、夢の中へと誘われた。
眠りにおちたヨルを見た飛段は、人差し指を口元に当てて「静かに」と全員に合図を送ったあと、目の前にあったオレンジの果実をヨルの頭に器用に積んでいった。
.END