蜜柑も忘れずに
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヨルは現在、とある国の山の中にて食料を探しに歩きまわっていた。
たびたび吹く冬の風に身震いせずにはいられない。
「うぅっ、凍る…」
何度目かの寒風に、下り坂を下っていたヨルは一時足を止めて身を竦めた。
夜を迎えて気温が低くなった山の風はさらに冷たい。
ヨルは「食料を持ってこい」と言った角都の顔を思い出し、本人が目の前にいるかのように宙を恨めしそうに睨みつけ、震えた声で愚痴をこぼし始める。
「こんな身も凍るような寒い山の中で食材探して来いだぁ? 草は枯れてる。魚が泳ぐ川はなし。鳥も獣も見当たらねえ(たぶんどっかで冬眠中)。食材なんか見つかるわけねえだろが、ボケェ」
行く手を邪魔するかのように生い茂っている伸びに伸びた雑草をむしりむしりとむしりながら半分ヤケクソで前へと進む。
ひとつでも収穫がなければ、角都に罵られるか鉄拳を食らわされるかだ。
寒さと苛立ちでヨルの顔がしかめっ面になる。
「オレも冬眠したい…」
しようと思えばできることをポツリと呟いたとき、
「!」
明りの点いた一軒の小さな民家を見つけた。
匂いを嗅ぐと、肉や野菜などの食材の匂いがする。
民家の正面には畑もあった。
ヨルは少し考えたあと、その木々に囲まれた民家へと向かい、その扉を叩いた。
コブシで遠慮がちに2回ノックすると、扉越しから「はい」と男の声が聞こえ、引き戸を半分だけ引いて顔をのぞかせたガタイのいい男がこちらを見下ろした。
「旅の者だ。申し訳ないが、食料が底を尽きて困っている。パンの欠片でもいい。どうか、分けてはもらえないか?」
ヨルから見れば相手は己よりだいぶ年下の男だ。
つい、偉そうな口調になってしまう。
それでも男は気にせず、「ああ、そういうことでしたら…」と笑みを見せ、ヨルを民家へと招き入れた。
「入っていいのか?」
「ええ。この季節になると、旅の人達がよくこちらに寄られます」
珍しいことではないらしい。
「ありがとう」
ヨルは礼を言ってから民家の中に入った。
「?」
すると、ヨルにとって見たことのない机が目に入った。
机と布団が合体しているのだ。
じっと見つめていると、視線に気づいた男がそれに手を差し伸べて言う。
「寒かったでしょう。よろしければコタツで温まってください。その間に、食材の用意をしてきますので」
男はそう言って調理場へと向かう。夫婦で暮らしているのか、調理場から女の声も聞こえた。
「コタツ?」
ヨルは怪訝な顔をしながら、おそるおそるコタツに近づき、最初に手を入れてみる。
すると、
「!?」
いきなり手首をつかまれた。
敵と思って夢魔を出現させようとしたとき、手の主がひょこっと顔を出す。
「ばぁ♪」
それは、無邪気な笑顔を見せる幼い子供だった。
「え…」
ヨルは慌てて背中の夢魔を引っ込める。
「お兄ちゃん、旅の人ォ?」
「あ…、ああ」
「冷たいおてて…。ほら、入って入って」
ヨルの手の冷たさに驚いた顔をした子供は、布団を開け、コタツへと誘った。
ヨルは頭から突っ込もうとしたが、中はそんなに広くないことが見てわかり、体勢を変えて足を突っ込んだ。
すると、じんわりと足先から温かくなるのを感じた。
「……温かい…」
「ねー」
布団から顔だけ出した子供の姿は、まるでヤドカリのようだ。
そう思ったヨルは口元を緩ませた。
その様子を見ていた男はヨルに言う。
「よろしければ、夕食をここで食べて行かれては?」
はっと我に返ったヨルは首と手を同時に横に振った。
「い、いえ、連れを待たせてるから…」
危うく、角都と飛段のことを忘れそうになった。
「そうですか…」
ヨルは名残惜しそうにコタツから出たあと、男から風呂敷に包まれた食材を受け取ったが、その量の多さに戸惑ってしまう。
「こんなにいいのか?」
「ええ。今年は豊作だったので、お気になさらず」
ヨルは再び礼を言って一礼したあと、引き戸を開けて寒空の下へと出る。
それから、「ばいばーい」と聞こえた子供の声に振り返り、手を振って扉を閉めた。
ふと、コタツが気になったヨルはこっそりと窓から様子を窺うと、3人の家族がコタツを囲み、その上にある鍋を食べながら幸せそうに笑っていた。
.