空の巻物
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今度の換金所は、古びた公園の中にあった。
人目がある町を通るのは予測できていた。
だから、いつも担ぐはずの死体を今日は大きなバッグに入れて運んできた。
オレが足を止めた先には公衆トイレがあり、ただでさえ外に漏れる悪臭に自身の鼻をつまんで露骨に顔をしかめるヨルと飛段だったが、オレはその隣にある、シャッターの閉まった小さな倉庫を指さし、「ここだ」と教えた。
「オレが戻ってくるまで大人しくしていろ」
ホッと胸をなで下ろす2人にそう言って、シャッターを開けず、倉庫の右側についた隠し扉の中へと入る。
シャッターの向こうは、一般人にはわからないように本当に物置小屋にしていると聞いた。
隠し扉の向こうには、狭い部屋に男がひとりいる。
その男の背後には巻物が敷き詰められた巻物棚があった。
この換金所は死体を巻物に収納しているようだ。
オレの噂を聞いているのか、換金所の男はオレの顔を見るなり、「角都の旦那ですね」と口端を吊り上げた。
そこからはいつものやりとりだ。
死体とビンゴブックの確認をしたあと、金の入ったアタッシュケースを受け取り、金を数える。
「うわあああ! やめろこのヤロォ!」
その時、飛段の騒がしい声が聞こえた。
「いくら公園とはいえ、やかましいですな」
換金所の男に言われ、オレも気が散ってしまい、「黙らせてくる」と金を置いて一度出た。
見ると、シーソーの右端に座っている飛段が上下に激しく揺れていた。
体が浮くたびに股間をシーソーに打ちつけている。
左端ではヨルが愉快そうに足でシーソーを何度も踏みつけて揺らしていた。
「股間マジ痛ェよ!!」
「おめーが揺らせっつってんだろ」
「てめーも乗って揺らせっつー…」
ゴッ!!
「やかましい…!」
シーソーを地面から引き抜き、2人にぶつけた。
それからブランコの鎖にくくりつけ、オレは換金所に戻ってもう一度始めから金を数え直す。
だが、しばらくして、また上が騒がしくなってきた。
あと少しだというのに。
今度は何事かと数えている途中の金の束をテーブルに叩きつけ、外の様子を見に行く。
「今度はなんだ!?」
見ると、子供ひとりいなかった公園に子供が砂浜を囲うように集まっていた。
そこには、砂浜の砂を全部使って砂の城をせっせと作る2人の姿があった。
ただ積むだけじゃ物足りないのか、スコップを使って丁寧に削って本物の城を再現しようとしている。
「兄ちゃん達、スゲー!」
「デケー城だぁ!」
「ゲハハ! バケツに水、誰か汲んでこい!」
「おい、もうちょっと丁寧に削れ!」
周りの子供も完成した城が見たいのか、従順に手伝っている。
少しして、なんとも歪な城が出来あがった。
泥だらけになりながらも、2人は子供達と共に自分達より背が少し低い出来たての城を見下ろしながら満足感に浸っていた。
それからオレは換金所に戻り、さっさと金を数えてしまう。
「戻ってくるの遅かったですね、旦那」
換金所の男が悪人らしからぬ意味ありな笑い方をした。
「…そんなに遅かったか…」
結局、怒鳴ることもせずに戻ってきてしまった。
オレは一体どれくらいの間、城が出来あがっていく様を眺めていたのだろうか。
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