砂城の呪われた宝石
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飛段が胸を刺した瞬間、シャフは血を吐いて倒れ、ビクビクとのたうったあと、息絶えた。
「神の裁きが下ったな」
飛段の体の色は、元の肌色を取り戻した。
飛段は杭を懐にしまい、大鎌を背中に携え、切り落とされた左腕を右手でもって凹んだ床から出てくる。
「飛段ー!」
カナデは飛段に駆け寄った。
「スゲーな、おまえ! 強すぎ!」
「ゲハハハ! 当たり前だっての」
飛段はカナデの背中をバンバンと叩いた。
肩にケガを負っているカナデは「痛い痛い」と訴える。
「それにしても、まさかマジでハッタリにのってくれるとはなァ」
「切羽詰まりすぎてたんだろ」
シャフが突き破った柄からは、通路が見えた。
螺旋階段の中央というのはうそっぱちだったのである。
「カナデ!」
その声に振り返ると、扉の前に、息をせき切らしてやってきたガフが立っていた。
「ガフ!」
カナデはガフに駆け寄り、その体に飛び付いた。
「ケガをしてるじゃないか! 平気なのか!?」
「平気すぎ。ガフこそ、オレよりケガしすぎ」
その様子を眺めていた飛段は、ふと足下に落ちている本に気付いた。
カナデとともに切られたことを思い出す。
「…?」
表紙の破れた部分からなにかが描かれているのが見え、拾い上げて表紙を破ってみる。
「もう少しだけ待っててくれ。まだ城内のすべての本を捜していない」
「休んでくれよ、ガフ。これ以上ムリされたら…」
カナデが不安げな表情を浮かべたとき、
ガリガリガリ…
「!」
天井から削るような音が聞こえた。
見上げると、そこには杭で天井を削り、陣を描いている飛段がいた。
チャクラを足に練っているため、逆さである。
「飛段、なにしてんだ?」
カナデが尋ねると、飛段は陣を描きながら答えた。
「おまえが見落としてたものがなんだかわかったんだよ! おまえの呪い、解けるかもしれねーぞ!」
「「なに!?」」
ガフとカナデは同時に驚きの声を上げた。
「カナデ、おまえ、呪術の陣は覚えてるか?」
「お、思い出したくないけど…たぶん…」
「嫌でも思い出せ! また失敗したくねーだろ!?」
カナデは躊躇ったが、飛段の真下に座り込み、陣を描き始めた。
ガフは何事かとうろたえたままだ。
「なにがわかったんだ?」
「カナデは重要な部分を抜いてしまったから失敗した。その本、内容がバレねーように意図的に表紙がつけられてたぜ。表紙の下は重要で基本な円陣が描かれてあった。カナデが見落としたのはそれだ」
ガフは飛段が見ていた本を拾い、その円陣を見た。
「おい、切られてるけど、その陣、合ってんのか?」
「合ってるっつーの。だってその陣、オレ知ってるしィ」
それを聞いてガフは「は?」と首を傾げ、カナデは手を止めて驚いた顔で飛段を見上げた。
2人の聞きたいことがわかり、飛段は説明する。
「今からやるのは、呪いを解くっつーより、呪いを封印する術だ。教団にいたころに教えられたァ」
カナデは飛段がジャシン教のこと話していたのを思い出す。
「この円陣は基本だ。あとはその場の状況で下準備を整えるだけだ」
飛段が描いた陣が完成し、続いてカナデが描いた陣も完成した。
飛段は着地し、カナデに杭の先端を向けた。
「おまえの血をよこせ」
「あ、ああ…」
カナデは傷を負った肩に触れ、その先端に自分の血をつける。
飛段はそれをガフに渡した。
「天井の陣の真ん中だ。あんたがカナデの呪いを解くんだろ?」
「……始めよう」
飛段はカナデを陣の真ん中に立たせ、ガフは天井に向かって杭を投げつけた。
見事、ちょうど真ん中に杭が突き刺さると、天井と床の陣が同時に光を放った。
床の陣とカナデの体中の文字が天井の陣に吸い込まれていく。
「!」
城が揺れ始めた。
城内を徘徊する砂人形達が元の砂へと還っていく。
落ちた石からは美しい輝きが消え、最後は砕けて塵となった。
「ガフ…」
気力も多少抜かれたカナデはその場に座りこんだ。
「カナデ!」
ガフはカナデに駆け寄り、背中に手を差しこんで半身を起こした。
その顔には、もう呪われた印はない。
誰から見ても普通の子供だ。
カナデはガフの顔を見上げ、心配する必要はないという笑みを浮かべる。
その時、
ゴゴゴゴ…
再び城が大きく揺れ出した。
壁の隙間から砂が噴き出す。
飛段とガフははっと顔を上げる。
「!? 今度はなんだァ!?」
飛段が叫び、ガフは答える。
「おそらく、反動がデカくて城が耐えきれないんだ! 砂漠の砂に押し潰されるぞ!」
天井からも砂が降ってきた。
「じゃあ、とっととここから出ようぜ! 角都とヨルはどうした!?」
「オレは途中で逃げた。だから、勝敗はわからない」
「ハァ!? ふざけんな!!」
飛段がガフの胸倉をつかんだ時だ。
「!」
天井の一部が真上に降ってきた。
飛段と、カナデを抱えたガフは咄嗟にそこから飛び退く。
ズン、と天井の一部が飛段とガフの間に落下した。
「ここはもうもたない! いったん、通路に出るぞ!」
「言われなくても、ここにもう用はねーよ!」
ガフが走り出し、飛段もあとに続く。
「待って、ガフ。飛段の、腕が…」
「!」
カナデは壁際に転がっている飛段の左腕を指さした。
位置的に、ガフの方が近い。
ガフは飛段を一瞥したあと、直線から逸れて飛段の左腕を拾った。
ブシュッ!
「くっ!?」
その時、壁のヒビから砂が噴き出し、ガフの顔にかかった。
目に砂が入り、ガフは慌てて手の甲で目を擦る。
「!!」
ガフとカナデの上に天井の一部が落ちていく。
ガフはそれに気付かない。
飛段は駆け寄り、
ゴッ!!
「!?」
その背中を蹴り飛ばした。
ガフはカナデを抱えたまま、扉のそばに転がる。
「最後の最後まで世話の焼ける奴らだぜ、てめーらはよォ!」
「飛段!!」
ズン!!
カナデが叫んだとき、飛段の姿が砂煙の中に消える。
続いて上から大量の砂が滝のように落ちてきた。
それを見上げたガフはすぐに扉の向こうへと飛び込んだ。
「飛段―――!!」
カナデは叫ぶが、飛段の返事は返ってこなかった。
「いた!」
「「!」」
ガフとカナデが振り返ると、通路の向こうから角都とヨルが横に並んでこちらに走ってくる。
「無事だったか!」
ヨルはカナデとガフを交互に見て言った。
ガフは2人の生還に驚きを隠せない。
「勝ったのか!?」
「見ての通りだ。飛段はどこだ? そのガキと走っていった奴だ」
角都の問いに、ガフは答えるのを躊躇った。
「飛段は…」
そう言うカナデの両腕には、飛段の左腕が抱えられていた。
ヨルははっと目の前の扉に顔を上げて凝視する。
「ま…さか…、中にいるのか!?」
「オレ達を庇って…」
ガフからそれを聞いたヨルは中へ突っ込もうとする。
ガフは肩をつかんでそれを止めた。
「ムリだ! 中はもう…」
ヨルが構わず押し退けていこうとしたとき、
「!!」
角都が扉の向こうへと突っ込んだ。
「角都!?」
ヨルが声を上げたときには、角都の姿はもう滝の向こう側だ。
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