空の巻物
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ヨル達は、洞窟の換金所に来ていた。
普段は角都が換金と更新を済ませるまで飛段とヨルは外で待っているのだが、外は雷雨が降り続いていたので仕方なく角都についていくことにしたのだ。
洞窟は迷路のようになっていて、角都についていかなければ迷子になってしまう。
洞窟の奥にある扉を開けて中へと入り、角都はヨルよりも背の低い中年の男性に声をかけた。
金の整理をしていた男は角都に振り返る。
「だ、旦那、お久しぶりで」
一瞬顔を引きつらせたが、すぐに手を揉みながら愛想笑いを浮かべ、角都に近づいた。
飛段とヨルは死体の匂いで露骨に嫌な顔をしていたが、そんな男の気味の悪い笑みを見るとよりいっそう眉間に皺を寄らせた。
男の視線が角都越しからヨルへと移る。
ヨルを嫌悪を露わに目を逸らした。
「おい、早くしろ」
「へ、へい」
角都に促され、男は角都の持ってきた死体の確認を済ませ、アタッシュケースに入れた賞金を渡す。
「早くしろよ」
金を数え始めた角都に飛段は促しの言葉をかけた。
「……………」
ヨルもここから出たくて仕方ない。
先程から、男の突き刺さるような視線を背中に感じるのだ。
(なんだってんだよ)
胸倉をつかんで問い詰めたくなる。
「旦那、またいい獲物持ってきてくださいよ」
「近くで仕留めたら、また寄る」
角都はアタッシュケースを持ってさっさと部屋から出て行った。
「おい、待てよ」と飛段もその背中を追いかける。
ヨルも追いかけようと部屋を出て行こうとしたとき、
「そこの兄ちゃん」
「!」
男に声をかけられた。
本当は女なのだが、男装をしているので男に間違えられることはよくあるため、ヨルはそのことは気にせずに「なんだ?」と不機嫌さを滲ませた声とともに振り返る。
「初めてみるが、旦那と銀髪の坊やの連れか?」
「見てわからねえか?」
「…賞金首か?」
「首に金がかかったことはねーな」
そういえば、連れの2人はS級犯罪者だったな、と思い出す。
「だったら悪いことは言わねえよ。あの2人と組むのはやめときな。ひとりは頭が悪いうえに金に縁遠い顔してるし、旦那はキレたら仲間だろうがすぐに殺しちまう。オレは旦那の相方が何度も変わってるのを見てきた。次はあんたか、もう一人の兄ちゃんが死ぬ」
それはない、とヨルは微かに笑みを浮かべる。
「…オレはどう見える?」
「あの2人とは違う」
その言葉でヨルの口元の笑みが消える。
すべてを否定されたように聞こえた。
「警告だ。あのバケモノ共とつるむのはやめと…」
ヨルは遮るように男の胸倉をつかんで顔を近づけた。
「ひ…!?」
「それはわざわざ悪いな。礼にこっちも警告してやるよ」
ヨルは朱色に変色した瞳で、男の泳ぐ目を覗き込んで続ける。
「この洞窟はコウモリ達にとって棲みやすそうな場所だ。なのに、勝手に換金所を造って、死臭で満たされて、さぞかし不機嫌だろうよ。いつか、奴らも怒るぞ」
「ヨルー、ちんたらしてんじゃねーぞー!」
半開きの扉から飛段の声が聞こえ、ヨルは男の胸倉から手を放し、「じゃあな」と不敵な笑みを向けて部屋を出た。
わざと扉を半開きにして。
外から出ると、雨はすっかりやんでいた。
ふと、飛段は洞窟に振り返る。
「…? 今、悲鳴みたいなの聞こえなかったか?」
ヨルは「そうかー?」とわざとらしく言って笑みを浮かべる。
「コウモリの怒りでも買ったんじゃねーの?」
それから、警告はしたんだぜ、と続けた。
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