砂城の呪われた宝石
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「…っ」
目覚めたヨルは、背中の鈍い痛みに思わず呻いた。
それから真っ先に鼻を突いたのは、死臭だった。
はっと半身を起こして周りを見回すと、そこは積みに積まれた砂と死体の山の上だった。
「ぐ…」
こもった臭いに耐えられず鼻をつまむ。
普通の人間がこの臭いを嗅げば耐えきれずに嘔吐するだろう。
換金所より酷い臭いだ。
立ち上がり、外套を脱いで砂を払う。
砂は服の中まで入っていた。
「ここは…」
周りはレンガ造りの壁にぐるりと囲まれて窓も扉もなく、煙突のように高い天井の真ん中からは砂がサラサラと落ちてくる。
「あの穴から放り込まれたのか」
どうりで背中が酷く痛むわけだ。
その穴は完全とは言い難いが塞がっていた。
切り開こうかと考えたが、ここが砂の下であることを思い出し、すぐにその考えを断念する。
砂に埋まりたくはない。
壁には、ここから出ようと足掻いた人間達の血が付着していた。
レンガの隙間には剥がれた爪がいくつもある。
「ここは、どこなんだ? …角都―――! ひだ―――ん!」
2人の名を呼ぶが、空間に声が響くだけで返事はない。
改めて自分一人だと思い知らされる。
その場に座り込みそうになるのを耐え、壁に近づいて叩いたり、耳を澄ませたりする。
向こうに空洞はない。
それでもヨルは場所を移動しては同じことを繰り返す。
周りの壁がダメならばとチャクラを足に練り、壁を歩いてのぼった。
そしてまた同じことを繰り返す。
「…!」
明らかに音が違う場所を発見した。
背中から夢魔を1本引き抜き、両手で持ちながら目の前の壁に刃先を叩きつける。
だが、簡単にそこは崩れない。
それでも、ヨルは諦めずに何度も何度も叩きつける。
「この…! く!」
壁を強く何度も叩いたせいで手は傷だらけだ。
夢魔から伝わる衝撃が傷に響く。
一点に集中して叩きつけていると、徐々にヒビが刻まれていく。
「いい加減に…砕けろ!!」
ガキン!!
壁に、人ひとり通れるくらいの穴ができた。
「よっし!」
夢魔を背中に戻し、穴を通る。
穴の向こうは同じくレンガ造りの通路となっていた。
ヨルは早くここから抜け出したい一心で薄暗い通路を駆ける。
「!」
その途中で、数体の砂人形に出くわした。
「ここにも…!」
ヨルは2本の夢魔を引き抜き、襲いかかる砂人形を次々と壊していく。
しかし、砂人形達はすぐに再生した。
「なに!?」
ヨルは角都が見つけ出した砂人形の弱点を知らない。
攻撃していくうちに囲まれてしまった。
「チッ! しまった…!」
追い詰められたヨルは、その場に夢魔を落とし、印を結んで術を発動させる。
「火遁・鬼炎!!」
ヨルの周りに出現した青い炎が一斉に砂人形達を包んだ。
「!?」
だが、炎はすぐに消えてしまった。
「な…、なんで…」
砂人形達は一斉にヨルに躍りかかる。
その時、
「口寄せ・“鎖百足”!!」
通路の奥から飛び出した、銀色のムカデが砂人形達を空中で同時に縛り、100本の刃の足で一気に切り裂いた。
額の石も砕かれる。
続いて通路の奥から現れたのは、長身の男だった。
深緑の短髪で、両腕には包帯が巻かれ、白い服と肌は砂で汚れていた。
「平気か? お嬢ちゃん」
*****
とあるオアシスで、カナデは己の顔の包帯を外し、泉をのぞきこんで水面に映るその顔を、思いつめた表情で見つめていた。
その時、泉の真ん中から突然泡が噴き出た。
「!?」
「ぶはっ!」
「うわ!?」
そこから出てきたのは、砂の下に引き摺り込まれたはずの飛段だった。
飛段は口から水と砂を吐きだし、目を擦った。
カナデは驚いてそれを凝視する。
「あ―――、今回マジでヤバかったァ」
飛段の手には、砂人形の石が握りしめられていた。
砂の下で、ヨルが連れて行かれた場所に連れて行かれる途中で、砂人形の額の石をつかんだのだ。
砂人形は崩れ、解放された飛段は必死に地上へ戻ろうと上へ掘り進んだ。
出てきた場所がたまたまオアシスの泉だったのである。
「お、水だ水だ!」
喉が渇いていた飛段はすぐにその場で水を飲み始めた。
「お、おまえ、どこから…!?」
髪がおりていたため、最初は飛段と気付かなかったカナデだが、その外套と大鎌にはっとし、慌てて顔の包帯を巻こうとする。
水面から顔を上げた飛段はカナデの存在に気付いた。
「あ、おまえ、あの時のガキ!」
「う…」
ちゃんと包帯が巻けていないため、カナデは隠すように背を向け、走り出す。
しかし、飛段はすぐに陸に上がり、大鎌の大刃の先をカナデの服の背部に引っかけて持ちあげた。
「わあ!!」
「おい、逃げるこたぁねーだろ。オレだって傷つくんだぜェ?」
「放せよー!!」
「昔々あるところにィ…」
「そっちの話せじゃねえ!!」
「角都じいさんは山に賞金首を狩りに…、ヨルばあさんは川へ…」
飛段の嫌がらせはしつこい。
「あ!」
空中で暴れたカナデの顔から包帯が落ちた。
「!?」
その顔を見た飛段は語りを止めた。
カナデの顔半分は解読不能な文字がびっしりと刻まれていたからだ。
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