砂城の呪われた宝石
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地図の場所に近づいたとき、鉄で造られた柵が見えてきた。
見張りはいない。
近寄って見上げると高さは5m近くあることがわかる。
どこを見ても出入口らしきものは見当たらない。
飛段が試しに柵に触れてみるが、柵はうんともすんともいわない。
罠もなければ、術もかけられていないのである。
一般人用に造られたものなのだろう。
柵の近くには“この先立ち入るべからず”と筆で大きく書かれた立て札がいくつも立てられてある。
続いてヨルが地面を蹴って大きくジャンプし、柵の上に飛び乗って柵の向こうを見回す。
「……なんもねーな…」
呟いたあと、下にいる2人に合図を送り、2人は同時にジャンプして柵に飛び乗った。
3人はそのまま柵の向こうへと飛び降りる。
それを砂の下から見ているものがいるとも知らずに。
昼時の砂漠はヨルが想像していた以上に厳しい場所だった。
じりじりと容赦なく照りつける太陽の下、3人のうち2人は完全に参っていた。
目の前の景色が熱で歪んで見える。
「暑い…」
「マジ死ぬ…」
笠を被り、日差しから頭を守っていても、砂の熱が下から立ち上ってくる。
流れる汗で髪が張り付き、鬱陶しい。
飛段は外套を脱ごうとしたが、角都に「火傷をしたくなければ脱ぐな」と止められた。
柵を越えてかれこれ2時間が経過しようとしている。
辺りを見回しても日陰になるようなものはなく、ずっと歩き続けていた。
「どこもかしこも、砂、砂、砂…。今、どこ歩いてるのかもわかんねえし…」
ヨルはそう呟きながら懐から水筒を取り出し、その中のものを飲む。
「オレにもよこせ」
「あ!」
飛段は柵を飛び越えて1時間の間に、自分の持っていた水筒に入っていた水を、あとさき考えずすべて飲んでしまっていた。
手を伸ばし、ヨルの水筒を取り上げて口に含む。
「!? ぶっ!!」
ヨルの水筒の中に入ってあったのは動物の血液だった。
しかも、ぬるい。
「吐きだすなよもったいねーな! このオレが普通に水飲んで喉を潤すとでも思ったか」
「ベッ、ベッ」
飛段は口の中に残った血を唾とともに吐きだし、ヨルは「だから吐きだすな!」とがなる。
背中でそれを聞いていた角都は、
「うるさい」
暑さの苛立ちに加え、2人以上にかなり苛立っていた。
少し歩くと、小さな岩場が見えたきた。
「角都ゥ、ちょっと休もうぜ」
飛段はそう言いながら岩の上に腰を下ろす。
途端に、ジュッ、となにかが焼ける音が聞こえ、飛段は飛び上がった。
「あっちィ!!」
日中、太陽に照らされた岩場だ。
そうなるのは当たり前だ。
「うわ、肉とか焼けそうだな」
ヨルは呑気にフライパンを想像した。
「角都! 焦げてねえ? 焦げてねえ?」
飛段は角都に背中を向けて心配そうに尋ねる。
「心配するな。ズボンは破れていない」
(ズボンが破れてなきゃそれでいいのか)
ヨルは内心でツッコんだ。
その時、ふと視線を落とすと綺麗に光る青い小石を発見した。
その美しさに魅かれ、拾おうと身を屈ませたとき、
「!!」
突然、砂の手につかまれ、その強い力に引き摺り込まれそうになる。
「ヨル!?」
異変に気付いた飛段は、すでに体が半分以上砂の下に埋まっているヨルに走り寄る。
「飛…段!」
ヨルは手を伸ばしたが、そのまま砂の下に引き摺り込まれてしまった。
その場にヨルの笠がコロリと転がる。
「ヨル!!」
飛段は砂に手を突っ込んで探ったが、ヨルをつかむことはできなかった。
「なにがあった?」
「角都、ヨルが砂の下に…!」
その時、砂の下から、砂でできた人型の人形が這って出てきた。
額には、ヨルが拾おうとした青い石が埋め込まれてある。
それから続々と同じような砂人形が湧いてでてきた。
2人はそれらに囲まれてしまう。
「こいつら一体…!?」
「立入禁止の元凶だな」
2人は背中合わせになり、相手の出方を窺う。
「来るぞ」
角都が言うと同時に、砂人形達は一斉に2人に飛びかかった。
飛段は大鎌を手に取り、角都は腕を硬化させて攻撃する。
飛段の大鎌は砂人形の体をバラバラに切り裂くが、砂に散らばった砂人形は再び原形を取り戻して飛段と角都に躍りかかってくる。
角都の方も同じだった。
何度砕いてもすぐに再生してしまう。
「クソ! 何度やってもキリがねえ! なんなんだよこいつら!? 角都! なんとかしろォ!」
飛段は大鎌を振り回しながら声を上げる。
角都は目の前に迫ってきた砂人形の額にコブシをぶつけた。
すると、額の小石も粉々に砕け、砂に散らばるが、再生することはなかった。
「…! 飛段! 額の石を狙え!」
倒し方に気付いた角都が飛段に向かって言った。
飛段は言われたとおり、刃先を小石にぶつけて砕く。
すると、砂人形はもとの砂と化して崩れた。
「なるほどな!」
すべては額の小石が動かしていた。
2人は次々と砂人形の小石を破壊していく。
それでも数が多すぎていつまでたっても終わらない。
「はぁ、はぁ、まだ終わんねーのか…」
飛段に疲れが見え始めたとき、
「うお!?」
砂の手が飛段の足をつかみ、そのまま砂の下へ引きずり込んだ。
「飛段!」
角都が声を上げたときには、飛段の姿は砂の下へと消えていた。
ひとりになってしまった角都は舌打ちをし、笠と外套をその場に脱ぎ捨て、背中から頭刻苦を出した。
「最早、出し惜しみをしている状況ではないな。チャクラを温存しておきたかったが…」
印を結び、頭刻苦を発動させる。
「火遁・頭刻苦!」
ゴオオオオッ!!
炎の海が砂人形達を包み、石もろとも焼け焦げて崩れた。
役目を終えた頭刻苦は角都の背中へと戻る。
角都は脱ぎ捨てた外套を拾い、身に纏い、これからのことを考えた。
飛段は不死身で、ヨルは心臓を突き破られても血さえあれば回復できる。
己と組んでいるくらいだから、簡単に死なれたら苦労はしない。
しかし、この広い砂漠の下からたった2人の人間を捜すことはいくら角都といえど困難だ。
「凄まじいものだな」
「!」
角都が振り返ると、砂の下から3人の男女が現れ、こちらに近づいてきた。
うちの2人はソフラとシャフだ。
(ヨルにも気付かれずに…)
ヨルがいれば、敵の追跡に角都より大体気付く。
並の者達でないのは確かだ。
「“戦慄”か」
「ボク達のことを知っているようだな。さすが、暁の角都」
最初に声をかけてきた男が笑みを浮かべながら言った。
「…オレ達のことを調べたか」
「連れの女のことは詳しく調べられなかったがな」
ヨルは世から隠れて過ごしてきた朱族だ。優れた情報屋でも、ヨルについて詳しく知る者はそういない。
「アルトのお頭、そいつどうするの~?」
シャフに問われた、男―――アルトは左分けのオレンジ色の短い髪、首には大きな赤い宝石が埋め込まれた金の首輪をつけ、腰には銀の剣を携えているのが特徴の若い男だ。
右腕にはやはり“戦慄”の刺青がある。
アルトは角都に近づき、友好的な顔で手を差し伸べた。
「角都、ボク達と手を組まないか?」
「なんだと?」
ソフラが理由を答える。
「正直なところ、あんたの持ってる地図が必要なの。裏切り者が盗んだものをあんた達が拾ったけど、本来ならあたし達のものだけどね。あのワケのわかんない敵も多いし、協力してくれたらこっちとしても凄く助かるの」
「地図なら、オレの連れのどちらかが持っている」
角都がそう答え、ソフラは「うそ!?」と驚きの声を上げた。
「ん~。じゃあ、意味ないね~」
シャフがそう言い、角都は返す。
「今は持っていないが、印の位置と目印はこの頭に入ってある」
そう言って、己の額に人差し指の指先を当てた。
「へえ、それは凄いな。実に頼もしい」
アルトが褒めた時だ。
ドス!!
「!!」
角都の硬化した右手がアルトの心臓を貫いた。
突然のことに、ソフラとシャフは目を見開いて驚いている。
「貴様らと仲良しごっこをする気はない。すでに2人の連れでいっぱいだからな。…こちらの質問に答えてもらおうか」
「くくく…」
「!?」
耳元から笑い声が聞こえ、角都ははっと貫いたはずのアルトに振り向いた。
「一応構えていたが、大きいくせに素早いな。ますます気に入った」
「貴様…」
角都が右手を引き抜いて離れると、アルトは胸に穴を開けて立ったまま笑みを浮かべていた。
首輪の宝石が妖しく光ると、貫かれた穴は素早く再生し、完全に血肉で塞がる。
「不死身か」
しかも、飛段より再生力が早い。
「見ての通りだ。心臓を刺されようが、首をとられようが、バラバラにされようが、すり潰されようが、すぐに再生する。おまえの相棒も不死身らしいが、これほどのものなのか? 確か名前は、飛段、だったな」
「……………」
「2度も言わせるな、角都。ボク達と手を組め。望みはなんでも叶えてやる」
「……………」
角都は望みを口にした。
戦慄の3人は口に笑みを浮かべ、角都を迎え入れる。
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