砂城の呪われた宝石
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風の国に到着した3人は塵の町という小さな町にやってきた。
砂隠れの里からはだいぶ離れていて、目的の場所はその付近にある。
町は、人は多いが、廃墟のような建物がたくさんあった。
柄の悪い者たちもいて、治安も悪そうだ。
ヨル達は町の片隅にある飯屋にやってきた。
砂漠を渡ってきたため、ヨルと飛段は早くもヘトヘトだ。
被っていた笠を取り、適当な席に向かい合わせで座ってうなだれた。
「「腹減ったー」」
「だらしのない…」
角都は呆れてため息をつき、ヨルの隣に座る。
店員は3人分の水を配り、メモと筆を取り出して注文を尋ねた。
「レバ刺し」
「オレ、なんでもいいから肉」
「オレ、なんでもいいから血」
「え!?」
最後の注文にぎょっとする店員。
しばらくして、注文した品がくる。
ヨルが注文したものは、ジョッキに入れられてやってきた。
匂いや味からして、牛の血だと知る。
「この場所にはなにがある?」
店員が行ってしまう前に角都は地図を見せながら尋ねた。
×印のところを指先で円形になぞる。
「? …ああ、このエリアは立入禁止区域になってますので…、詳しくは…」
店員は申し訳なさそうに答えた。
「立入禁止区域?」
飛段は肉を頬張りながら尋ねる。
「危険な場所なので、一般の方はまず近づきません。知らずに入った者は重傷で戻ってくるか、死ぬかのどちらかだと聞きます」
角都は地図に視線をおとし、「そうか」とだけ答えた。
店員が行ったあと、懐から小さな袋に入った金を飛段とヨルの間に置く。
2人は顔を見合わせ、角都を見る。
「食事が済み次第、買い出しに行ってこい。オレは用がある。集合場所はこの町の出入口だ。1時間後、そこで合流だ」
飛段は鉄くさい水を飲んで口の中の肉を飲み込み、不服そうに言う。
「オイオイ、人使い荒ェじゃねーか。てめーの用ってなんだよ?」
「情報収集だ。オレにしかできない役目だからな」
その言い方に飛段は青筋を立たせた。
「てめーはオレ達のリーダーじゃなくて、オレの相棒だろ。勝手に決め付けんじゃ…」
「ストップ」
ヨルは身を乗り出して飛段の口を右手で塞いだ。
「こんなところで喧嘩するな。店とオレの耳の迷惑だ。今は角都の言うことは聞いておこうぜ、飛段」
「……チッ」
右手を離すと、飛段はそっぽを向いて舌打ちした。
ジョッキの血を飲みほしたヨルが席から立ち上がると、飛段も少し遅れて立ち上がり、目の前の金をつかみとって懐に入れた。
「それじゃ、先に行ってるぜ」
ヨルは角都に声をかけ、飛段は無言のまま店から出ていく。
店を出た途端に暑い日差しを浴びてしまい、ヨルと飛段は手持ちの笠を被って歩きだした。
「…おい、なに考えてんだよ」
飛段は肩を並べて歩くヨルに声をかけた。
ヨルは前を見ながら答える。
「角都の方こそ、なに考えてんのか気になってな。危険な場所に行こうとしたり、惜しむことなくオレ達に金を渡したり…。らしくねえなって、思ってさ…」
リーダーから命令されて動いてるわけでもないのに。
「……………」
飛段も角都が「行こう」と言いだした時から違和感を感じていた。
2人は考えながら歩を進めていく。
そんな2人のあとをつける、小さな影があった。
「!」
飛段はいきなり背中に小さな衝撃を感じ、振り返った。
肩越しに見下ろすと、小さな少年がいた。
少年は「悪い」と言って飛段の横を通過しようと走り出す。
それをつかまえたのはヨルだった。
瞬時に手を伸ばし、少年の服の背部をつかんだ。
「わあ!?」
つかみ上げられた少年はびっくりして声を上げた。
飛段はなんだなんだと目を丸くする。
「このドジ。マジで角都に殺されるぞ」
ヨルは飛段を軽く睨みつけてそう言いながら、少年の服に手を突っ込んだ。
「うわっ、やめろコラ!」
少年は手足をバタバタとさせるが、宙吊り状態のため虚しい抵抗となる。
ヨルが少年の懐から取り出したのは、飛段が持っていたはずの金だった。
「あ、角都にもらった金」
「見た目通り、治安悪ィとこだな。ガキまでスリする始末じゃ救いようがねーな」
ヨルは呆れた目で少年を見つめる。
「はっ、放せよ! なんでわかったんだ!?」
「金の音」
再びバタバタと暴れ出した少年にヨルは即答した。
青いツナギを着たその少年の年はまだ、12か13歳くらいに見える。
髪は黒と金が混ざったような色で、ぼさついていた。
目は金色で、少し吊り上がっているため、猫のようだ。
顔の目と口以外は全て包帯で巻かれてあった。
飛段は前屈みになり、未だに宙吊り状態の少年と目線を合わせる。
「オレから金を盗もうたぁいい度胸じゃねえか。このまましょっぴいてやろーかァ?」
「逆にしょっぴかれるっつーの」
自分達が暁だということを忘れないでほしい。
「おまえ、名前は?」
ヨルが尋ねると、少年は小さく名乗った。
「……カナデ」
「親は?」
「……………」
少年―――カナデは黙り込んだ。
それからヨルを睨みつけて怒鳴り散らす。
「いいだろ、そんなこと! 放せよコラ!! おまえうざい! うざすぎなんだよバカ!!」
「調子に乗んな、クソガキ」
パン!
飛段は目の前で暴れるカナデの頭を叩いた。
カナデは「痛てっ!」と声を上げ、
「なにすんだこのヤンキー!!」
ゴッ!
「ぐっ」
カナデの上げた右足の爪先が飛段のアゴにヒットする。
「このガキィ!!」
飛段はカナデの頬を両手で思いっきりつねる。
「やへろ―――!!」
カナデも両手を伸ばしてやり返す。
「やめろクソガキ共」
先程から通行人から注目を浴びているのがわからないのか。
ヨルはいたたまれなくなる。
「ああ、こんなところにいたのか」
「!」
声をかけてきたのは、砂にまみれた白いローブを身に纏った青年の男だった。
「弟がとんだ無礼を…」
男は深々と謝る。
「シャ…、シャフ…!」
カナデは目を見開いて驚いた。
それからジタバタと暴れ出す。
「放せ! 放せ―――!!」
「こらこら、大人しくしなさい、カナデ」
男―――シャフはなだめるような笑みを浮かべながらカナデに手を伸ばした。
「!」
ヨルは反射的にカナデを引き寄せた。
それを見たシャフは驚いた表情でヨルを凝視し、「な、なにを…」とうろたえる。
飛段も何事かと驚いた。
「わ…、私の弟を返してください。このコがスリをしたのは、ほんの出来心なんです。か…、金を払えとおっしゃるなら…」
シャフは両手を合わせて懇願する。
「あんたとこのコは兄弟じゃない」
ヨルはシャフを睨みながら言いきった。
「…は?」
「同じ匂いがしない。つーか、あんた、血生臭いんだよ」
飛段は少し離れたところから匂いを嗅いでみるが、そんな匂いはしない。
ヨルは血液の匂いには敏感だ。
ローブで隠しても、すぐにバレてしまう。
カナデはヨルの顔をじっと見つめた。
何者なのかと考えているのだろう。
「……ん~。これは予想外」
シャフは不気味な笑みを浮かべ、身に纏ったローブを脱ぎ捨てた。
ツンツンに立った金髪といい、十字架模様のノースリーブといい、両手首のブレスレッドといい、先程のおどおどした青年とは別人のようだ。
右腕には、ソフラと同じ刺青があった。
「あの女と同じ刺青…!」
ヨルは刺青を凝視しながら呟いた。
「ソフラに、貧乳と銀髪は大したことがないと聞かされてたのにな~。オレの作戦が甘すぎたか?」
それを聞いたヨルと飛段はピクリと反応した。
「大したことねえかどうか、試してみるかァ?」
飛段は背中を大鎌を手に取り、刃先をシャフに向けた。
シャフの視線は飛段越しのカナデに移る。
「ん~。地図も取り返したいし、相手してもいいけど、オレ、お頭にそのガキを始末するように言われてんだ。そして、奴の始末も…。カナデ、あの男がどこに行ったか知ってるか~?」
「知らねえよ!! こっちが知らなすぎて逆に知りたいくらいだ!! あいつは…、ガフはどこなんだよ!?」
カナデは宙吊りのまま怒鳴った。
ずっと腹に込めていた苛立ちをぶつけるかのようだ。
「ああそう、知らないの。だったら…、死んで~」
シャフは飛段の横を通過して一気にカナデの前に近づいた。
右腕を振り上げたとき、
ゴッ!!
右脇腹に飛段の足の爪先が打ちこまれ、シャフはそのまま廃家の窓ガラスを突き破って吹っ飛んだ。
「無視してんじゃねーぞコラァ!!」
それを見たカナデは「スゲー…、すごすぎ」と呟いた。
ヨルはカナデを地面に下ろし、「あいつらはなんだ?」と尋ねる。
「“戦慄”っていう盗賊団だ。兄ちゃん達はオレの巻き添え食らう前に早く逃げた方がいい。奴らはヤバい! ヤバすぎる! 今の奴だって、ホントはかなり強いんだぞ!」
カナデがそう言うと、突き破られた窓の向こうから声が聞こえた。
「ん~。わかってるじゃないか、カナデ」
窓の向こうから飛び出したシャフは飛段の懐に飛び込み、腕を振り上げた。
それと同時に飛段は大鎌を真下に振り下ろす。
飛段の方が数秒早かった。
ギイン!
シャフの頭に振り下ろされたそれは、金属音を立てた。
「「!?」」
飛段とヨルは目を見開いて驚いた。
シャフの頭が金色に輝いている。
頭部どころか髪まで金属化していた。
「痛くもかゆくもな~い」
その顔でケラケラと笑い、
ドス!!
飛段の胸の中心を貫いた。
その右腕は金属化し、指先は鋭利な刃物のように尖っている。
飛段は目をカッと開け、血を吐いた。
見ていた通行人達は一斉に騒ぎだし、逃げ出す者やその場でそれを遠巻きに眺める者もいた。
「あ~あ、おまえのせいでこの兄ちゃんは死んじゃったんだぞ、カナデ。さっさとオレに殺されればよかったのに~」
シャフは笑みを浮かべたままカナデを責めた。
カナデは愕然とした表情で、貫かれた飛段の背中を見つめたまま、ガクガクと膝を震わせる。
ヨルはその肩を優しく叩いた。
ビクリと体を震わせたカナデはおそるおそるように振り返る。
自分のせいで仲間が殺されてしまい、責められると覚悟していたが、ヨルの口元には笑みが浮かんでいた。
「飛段、悪ふざけも大概にな」
「チッ。こっちは死ねねーんだから、死んだフリくらいさせろよなァ」
飛段はこちらに振り返り、ムスッとした顔でそう言った。
「「!!」」
カナデとシャフは驚愕の表情を浮かべた。
心臓を貫かれた男がなんともないかのように喋っているのだから当然だ。
「な…、なんで死なない…!?」
シャフは飛段の胸から腕を引き抜いた。
飛段は「痛て!」と声を上げ、口に溜まった血を唾とともに足下に吐き捨て、シャフに顔を上げて睨みつける。
「ジャシン様のご加護だクソヤロー。痛くもかゆくもねえって? なら、このオレがジャシン様に代わって教えてやらァ。大体、その技、気に入らねえんだよォ!!」
飛段は大鎌を構え、シャフに切りかかった。
シャフは両腕を金属化させて飛段の鎌を受け止めていく。
2人の動きはほぼ互角だ。
右に移ったと思えばいつの間にか左にいる。ヨルはともかく、カナデはそれを目で追うので大変だ。
飛段とシャフは廃墟の壁を駆け上がり、刃を交える。
ドス!
「!!」
飛段の右肩をシャフの左手が貫く。
「ん~。まだまだ」
「へっ。どうかなァ?」
「!」
いつの間にか、飛段の手から大鎌が消えていた。
それを確認したシャフがはっと背後に振り返ると、ワイヤーで伸ばされた大鎌が顔面に迫る。
急いで顔を金属化させるが間に合わない。
あと数センチで大鎌の大刃の先端がシャフの頬に突き刺さる前に、
ドォォォン!!!
廃墟が大爆発を起こした。
町中はパニックになり、大変な騒ぎになる。
ヨルは建物の数か所にソフラの刻印が光ったのを見ていた。
「飛段!!」
建物が崩れ、飛段も落ちてきた。
頭から落ちる前に自力で宙返りし、地面に着地する。
ヨルはその傍に駆け寄った。
「無事か? あの男は?」
飛段はワイヤーを引いて大鎌を手元に戻し、その大刃を見つめた。
血は付着していない。
「クソ! もうちょいだったのによォ」
周りを見回しても、シャフの姿はどこにもない。
爆発に混じって逃げたのだろう。
そこで飛段はあることに気付いた。
「おい、カナデってガキは?」
ヨルははっとして辺りを見回す。
姿どころか、匂いまで消えている。
「どこに……」
逃げたか、捕まったかのどちらかだ。
しかし、2人はそれを追うようなことはしなかった。
時間に遅れてしまい、苛立っていた角都に、2人は事情を説明する前に1発ずつ頭を殴られた。
角都としてはかなり手加減した方だ。
「騒ぎがあったそうだが、貴様ら…」
先程の爆発の騒ぎが飛段とヨルのせいだと思っている。
飛段とヨルは殴られた頭のてっぺんを両手で押さえながら同時に首を横に振った。
「「オレ達じゃねえ!」」
また角都に同じところを殴られてはたまったものではないと、ヨルは事情を説明した。
カナデという少年に出会ったところから、“戦慄”という盗賊団のメンバーを逃がしたところまで。
角都は“戦慄”の名が出ると、「ほう」と興味を示した。
「“戦慄”か…」
「角都、あのふざけた奴らのこと、なにか知ってんなら教えろよ。それに、情報ってなにつかんできたんだ?」
飛段は苛立ち気味に角都に問うと、角都は淡々と答える。
「立入禁止区域についての情報だ。人でないものがこの場所を護っているらしい。ほとんどの者が砂の中に引き摺り込まれ、行方不明になっているそうだ。今はこの一帯をぐるりと柵で囲み、誰も入れないようにしてある」
「“戦慄”については?」
そのままはぐらかされてなるものかと、ヨルが問うと、角都は口布の下で微かな笑みを浮かべて答える。
「頭の賞金が1500万両だ」
ヨルと飛段は、角都の目的がそれか、と肩を落とした。
角都は言葉を続ける。
「奴らの狙いがこの地図なら、オレ達を狙ってくるはずだ」
おびき寄せ、頭の首をとるつもりだ。
抜け目のない男であるとヨルと飛段は改めて実感させられる。
そして3人は、地図の場所へと出発した。
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